【不器用すぎる恋】

りえこ @eighter_rieko83

【不器用すぎる恋】 1 「なんで？待ってたんやろ？こうされんの。」 『えっ…でも…ここ会社だし…、』 「だぁれもこーへんよ…えーから早よ脱いで？」 『…あっ…せんぱぃ…っ///』 「あはっ…えっろ…もう準備オッケーやん。」 『…ああっ…ん…！』

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2 《うわぁぁーっ！！何してんねーん！！》 はっ………！！ ……夢か……。 火曜日 出張の時にあんなことあったのに…あれから何もないから…だからこんな夢…。 何もないどころか…避けられてる気がするし。 そういえば好きとも、付き合おうとも言われてない。

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3 帰りにウチ寄るか？って言ってくれたのに…「疲れたやろ」って真っ直ぐ自宅に送ってくれて…。 あれは夢だったのかなぁ…？ 横山主任のことを先輩と呼ぶのは、社内ではわたしだけ。 ずっとそう呼んでたし、先輩もそれを許してくれてるから。 なんか特別な気がして嬉しくて。

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4 だから、気持ちがバレてるのは覚悟してた。 アピールも自分なりにしてたし。 だからあの狭い部屋での出来事は、やっと思いが通じた…、そう思っていたのに…。 《なんか暗いっすね？大丈夫っすか？》 あ、先輩との情事を邪魔した人…夢の中でだけど…。

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5 『全っ然大丈夫！…亮ちゃんはなんかすごい元気そうだね…。』 《えっ？そうっすか？普通っすよ！》 後輩の錦戸亮は最近なんかテンション高い。 『まだ合コンやってんの？』 《合コン？いや！最近行ってないっす！》 ははぁ…彼女できたんだぁ…。 それでこのテンションか…。

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6 よっぽどいい女捕まえたんだな…。 《先輩はどうっすか？最近。》 『どうって、何が？』 顔を見るとニヤニヤした亮ちゃん。 《恋愛ですよ～こ、い♡》 本人にもバレてるくらいのアピールは、周りにもバレてるわけで。 『べ、つ、にっ！特に何もありませんけど！』

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7 《えぇっ？！この前主任と２人きりで出張やったんでしょー？なぁんもなかったんすか？！》 あったけど…。 『…別に…。』 まさか後輩に相談できる内容ではないし…。 《なんでやぁ…しょーもない…。》 しょうもないって…。 おもしろがってるだけじゃん…。

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8 《おっ、噂をすれば…。》 その声に顔を上げればエレベーターを待つ横山先輩の姿が見えた。 今日もいつも通りステキ…。 いつもと違うのは、お顔についてるマスク。 《なんすか、そのマスク。》 「その前に“おはようございます”やろ。」 『おはようございます…。』

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9 「おっ…おぅ…おはよう…。」 そんな怯えた顔しなくても…。 エレベーターに乗り込む。 《風邪っすか？》 「せやねん…。」 《珍しいっすね、健康だけが取り柄やのに。》 「人をアホみたいに言うな。」 ちょっと前迄朝から顔見れただけでも嬉しくて、１日がんばれたなぁ…。

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10 あの一件で…わたし贅沢になっちゃったよ、先輩…。 ちょっと落ち込んで下向いてたら、亮ちゃんがわたしをツンツンするから、顔を見た。 口をパクパクさせて、何か話しかけろって…。 もぉ…無理だってば…。 先輩にバレないように小さく首を横に振る。

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11 そして、あっという間に目的のフロアへ到着。 「ほいじゃな～。」 颯爽と先に降りる先輩。 《なんで話しかけへんのぉ～！》 『挨拶はしたから！』 《挨拶なんて当たり前やん！もっと押せやぁ。》 『ほっといて！』 先輩の後ろ姿を見ながら、先輩とは違う隣の部屋へ。

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12 仕事中、先輩のお顔を見れないのは淋しいけど、その分仕事には集中できる。 …けど、なんだか今日は先輩がここに来たりして…なんだか騒がしい。 《へっ？！俺ちゃんと発注しましたよ？！ここに…ほら、ＦＡＸ済の…、》 「わかっとる。お前のミスやない。けど、えぇから、ちょ来い。」

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13 何か…トラブルがあったんだな…。 亮ちゃんが先輩に連れられてく。 そして、１日バタバタして、終業時間過ぎてやっと戻ってきた亮ちゃんは、見たことないくらい疲れてて…落ち込んでいた。 『りょぉ…ちゃん…？』 《…へへ……帰ります…！》 無理矢理作った笑顔。

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14 ジャケットと鞄を取り、フラフラと出てった。 こういう時、どう声かけるのが正解なんだろ…。 そのまま少し考え込んでしまった。 あ、わたしもそろそろ帰ろ…。 カラになった部屋の電気を消して出る。 ふと隣の部屋を見ると、まだ電気がついてる…。

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15 近付いてそっと中を覗くと、マスクをした先輩が、たまにゴホゴホと咳をしながらも仕事をしていた。 慌ててバッグの中をゴソゴソ。 あった…。 『横山先輩…？』 「あ…？…なんや、まだおったんか。」 『先輩こそ…。』 そう言いながらゆっくり先輩に近付く。

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16 『これ。のど飴です。ふたつくらい食べたやつだけど…あげますっ。』 「えぇの？」 『やっぱり…喉痛いんですね？』 「ちょっとだけや。」 『ちょっとだけでも…早く休まないとダメですよ？』 「もうちょいや。えぇから、おまえは早よ帰れ。」 『もうちょいなら待ちます！』

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17 「おまえなぁ…。」 先輩がイラッとしたように見えた。 『…帰ります…。』 結局は嫌われたくないわたし。 出口まで来たとこで後ろから先輩の声。 「気ぃつけてな～。」 振り返るけど、先輩はパソコンを見つめたまま。 『…お疲れさまでした…。』

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18 水曜日 いつもより早い電車で出社した。 始業前の掃除にカコつけて、先輩は来てるのか…様子を見に行く。 あ…いる…。 『おっ…おはようございます…。』 先輩のいる部屋は他にも４人いるけど、まだ出社してるのは先輩だけ。 「おぅ、おはよう。」

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19 咳…きのうよりひどくなってる。 声も少し変だし、鼻水も出てるっぽい。 『…きのう何時まで会社にいたんですか？』 チラッとこちらを見て、またすぐパソコンに目線を移す。 「あれからすぐ帰った。」 絶対ウソだ…。 『お薬、飲みました？』 「おん。」 これもウソ…。

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20 『わたし、買ってきましょうか？』 「何を？」 『だから、お薬。』 「飲んだって。やからいらん。」 飲んでないくせにー…。 その時、失礼しますって、亮ちゃんが入って来た。 《主任、おはようございます！》 「おはよ～。」 《あのっ…きのうはすみませんでした！》

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21 ゆっくりと部屋の出口へ向かう。 「おまえだけの責任やない。でもまぁ確認は甘かったな…やから、今度から気ぃ付けなあかんで？同じミスは許されへん。」 《はい…！》 「とりあえず、なんとかなりそうやから大丈夫や。」 冷静な声。 簡潔で的確…渋谷さんも褒めてたっけ…。

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22 掃除を終え、自分のデスクへ。 始業時間ギリギリに渋谷さんが欠伸をしながら出社。 席に座ったところに先輩がやってきた。 「すばる、これ頼むわ。」 〔あ？〕 渡された書類にサッと目を通すと、すぐに立ち上がる。 〔ほんならすぐ出るわ。〕 「ん、頼む。」

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23 〔亮も連れてくで？〕 「当たり前や。」 《へっ？！》 〔行くで。〕 《はっ、はいっ！！》 ２人はすぐに出て行った。 それを見送り先輩も出て行く…。 あれ？ 今チラッて見られたような…。 いや…気のせいだよね…。 〔主任となんかありましたぁ？〕 『えっ？！』

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24 いつの間にかヤスくんが隣にいて、そう話しかけられた。 〔いやぁ…この仕事の大変な時に、主任が女の子のこと気にするとか珍しいからぁ…。〕 『なに…言ってんの…？』 〔まぁ…あれですね！良かったっすね！〕 『だから…何がよ…言ってる意味がわかんないんですけど…。』

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25 ヤスくんにもバレてるってことよね…でも、先輩はわたしのこと気にしてるんじゃないよ…。 あれかな…一度あんなことあったから…それをどう申し開きするか気にしてる…？ それとも…もっとくだらないこと…昨日渡したのど飴のお礼とか？？ あぁ、きっと、それだ。