俳優×一般人の現パロヨンピタ

あなたは50分以内に9RTされたら、俳優と一般人の設定で同居して暮らし始めたヨンピタの、漫画または小説を書きます。 https://t.co/BWIa1TU0Bu
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イカミ @phony68

「水は?」問われて、自分が外出した理由を思い出す。「……そうだよ、冷蔵庫を空にしてたからそれを買いに出たんだ」「じゃあ食い物もねぇな。“猫”が起きたら降りて来いよ、食わせてやる」「すまん。あと猫はやめろ」「じゃあ“犬”か。それで、お前は食ってくか?」「いや、起きるまでついてるよ」

2017-08-25 13:15:53
イカミ @phony68

寝ている相手に気にすることでもないと思うが、側についていないとふっと空気に溶けてしまいそうな危うさがあった。カウンターに出された水のボトルを受け取って、ヨンドゥは上の階に戻る。昼から何も食べていない腹がくぅくぅと不満を漏らすが、もう数時間は我慢してもらうほかはない。

2017-08-25 13:40:39
イカミ @phony68

部屋の扉を開くと、ベッドの方でドタンッ、と鈍い音がした。「おい、大丈夫か」近寄れば寝かせておいた青年が毛布を巻き込んでベッドの下に蹲っている。支えようとしたヨンドゥの手を断って、青年はそのまま床の上に身を延べた。「何してる」ベッドに戻そうとすると、首を振る。

2017-08-25 13:49:21
イカミ @phony68

「……これ、アンタのベッドだろ…」だから自分は床で寝る、ただ毛布だけ貸してほしい、と。ぽそぽそと聞き取りづらい、弱々しい声でそう言った青年の頭を、ヨンドゥは思わず叩いてしまった。「バカなこと言ってねぇでさっさと上がれ」病人にする扱いじゃないが、雑に起こしてベッドに寄り掛からせる。

2017-08-25 18:21:53
イカミ @phony68

起きたなら丁度いい、と薬を握らせてボトルのキャップを開けた。勿論、飲ませたら速攻でベッドの上に戻らせる。「熱冷ましだ。飲んどけ」「くすり……」年齢を聞いていないことを思い出して、念のため指定量より一粒減らした錠剤を青年は疑いもせず口に入れた。ヨンドゥにその気は無いが、

2017-08-25 21:08:25
イカミ @phony68

些か無用心過ぎやしないかと心配になる。「テメェなぁ、」零れそうになった小言は、青年の顔を見て飲み込んだ。とろん、と焦点の合わない目をした相手に細々と言ったところで聞こえているのか怪しいものだ。「……飲んだな。ならもう寝ろ」「…でも、」「いいから」両脇に腕を差し込んで、抱えるように

2017-08-25 23:23:21
イカミ @phony68

ベッドへ引き上げた。解けた毛布もかけ直して、枕元に水のボトルを転がしておく。触れた体は当たり前だが熱い。寝付いたら氷も貰ってこようと頭の端にメモをする。「アンタ……」毛布に埋もれた唇から小さく声が漏れた。「なんだ」聞き取ろうと顔を寄せると、甘い垂れ目が嬉しそうに解ける。

2017-08-25 23:33:52
イカミ @phony68

「……アンタ、ほんとに“ヨンドゥ”みたい」それが自身を示す名前ではないと、ヨンドゥには分かっていた。青年の出で立ちや道端で交わした台詞の応酬からすれば、心当たりがあるのはたった一つ。奇妙な縁で仕事をする事になった監督がヨンドゥの本名を面白がってつけた、子供番組のキャラクター。

2017-08-26 00:09:59
イカミ @phony68

そんな架空の男の名前を、こんなにも大切そうに呼ぶ人間がいるだろうか。それしか縋るものの無いように。それが唯一手のひらに乗せられる希望であるというように。他の誰の名も呼ばず、ただ、青い肌をした宇宙人の名前だけを。だからこそ、ヨンドゥは青年の輪郭が薄く世界に溶けているように見えた。

2017-08-26 11:16:47
イカミ @phony68

熱を測るフリをして、青年の額に手のひらを当てる。じわりと皮膚を灼く体温と、浮いた汗の滑り。その奥に確かな頭蓋の丸みを感じてそっと息を吐く。青年はヨンドゥの手に気持ちよさげに目を細めながら、相変わらず聞き取りづらい小声で彼の知る“ヨンドゥ”の為人を、熱に浮かされたように語っている。

2017-08-26 11:34:27
イカミ @phony68

“よんどぅ”はね、うちゅうじんなんだ。けんたうりっていうほしのでで、まっかなめと、あおいろのはだをしてる、らゔぇじゃーずのきゃぷてん。しゃげきがとくいで、やかっていうふしぎなちからでうごくまほうのやをもってる。そいつをくちぶえであやつるんだ。すごいんだぞ、すごく、つよいんだ。

2017-08-26 11:47:53
イカミ @phony68

そんですごく、おっかない。いっつもおれのことおこるんだ。めちゃくちゃいたいげんこつをして、くっちまうぞー!ってがなりたてる。おれずっと、ほんとうにくわれるんだっておもってたんだぜ。うちゅうじんがなにたべるかなんてわかるわけないだろ。そういうとこがだめなやつだったんだ。

2017-08-26 12:02:37
イカミ @phony68

けどずっと、おれのことそだててくれた。なんにもわかってなかったおれのことみすてずにずっとそばでみててくれたんだ。だいじなことはぜんぶぜんぶ、“よんどぅ”がおしえてくれた。かなしいならないていいんだって、どうにかなることもあるって、あのひとがおしえてくれたんだ。たすけてくれたんだ。

2017-08-26 12:14:34
イカミ @phony68

よんどぅ、と青年によって舌足らずに呼ばれる青い肌の宇宙人は、確かに、“生きて”いた。青年の中で息づいて、その心の真ん中を、大事に、大事に、護っていた。過去、鏡で覗き込んだ赤い瞳が、自分を見ている。Mr.ブルースカイ。その名の通り晴れやかな空色をした宇宙人。彼は不揃いな歯を

2017-08-26 14:12:45
イカミ @phony68

がちがちと鳴らして、鏡の向こうからヨンドゥに要求を突き付ける。――そいつを泣かしたら承知しねぇぞ。ああそうだな、とヨンドゥは口に出さずにその申し出を了承した。それがこの青年を“誘拐”してきた自分の、役目だと思ったからだった。

2017-08-26 14:20:56
イカミ @phony68

ヨンドゥがピーターを引き取ることを決意したよ編、終わり。

2017-08-26 14:21:28
イカミ @phony68

メモ。タルクはヨンドゥの古馴染みでバーを経営している。2階から上は賃貸。ヨンドゥとタルクで2階を使っている。タルクが言う“猫”はクラグリン。拾い癖のある友人が初めて拾ってきた人間がクラグリンだった。

2017-08-26 18:04:47
イカミ @phony68

ピーターが目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋だった。じん、と熱でしびれる体を起こして、首を巡らせる。下ろされたブラインドの隙間から、ほのかな光が漏れて室内を照らしていた。(どこだ……ここ……)ピーターは光源に指を差し入れて、そっと窓の向こうを覗き込んだ。朝焼けの光が目に染みる。

2017-08-27 14:17:10
イカミ @phony68

視線を下に下ろすと、クリーム色をした光に染まる通りが見えた。車二台が擦れ違える程の幅をしたそれに沿って幾つかの店が建ち並んでいる。遠くの方で車が走る音がしているが、まだ誰も外に居ない。何時だろう、とブラインドから指を離して室内に目を戻すと、枕元に中身の減った水のボトルを見つけた。

2017-08-27 14:29:44
イカミ @phony68

手にとってみる。室温にぬるくなったそれに薄っすらと昨夜の記憶が戻ってくる。多分、自分が飲んだ。誰にもらったんだっけ。ええと、確か――。「喉乾いてんなら飲め」突然掛けられた声に、驚いて肩が跳ねた。手から離れたボトルが床に落ちてぼこん、と跳ねる。慌てて、ボトルを拾い上げて確認する。

2017-08-27 14:51:22
イカミ @phony68

良かった、溢れたりしてない。ほっ、っと息を吐いて、恐る恐る顔を上げた。覗いていた窓と反対側、部屋の中央近くに置かれたソファに見覚えのある男が座っている。「アンタ……」「覚えてるか」「ぁ、…うん」問われて、頷く。サングラスを外した顔は、思っていたより柔らかな目元をしていた。

2017-08-27 17:05:37
イカミ @phony68

「ここ…アンタんち?」「ああ。体調はどうだ。熱は下がったか?」立ち上がってピーターヘ近付く男の手に薬のケースを見付けて、そういえば昨日飲ませてもらったのだと思い出した。わだかまった毛布の辺りには、ずり落ちたんだろう氷嚢もある。ベッドを借りたことといい、随分と迷惑を掛けた。

2017-08-27 20:42:07
イカミ @phony68

だから大丈夫だと、へらりと作り慣れた笑い顔を浮かべようとして、鋭くなった男の視線にピーターは口を噤んだ。ピーターの強がりは、どうやら男には通じないようだった。バツが悪くなって視線を落とす。…どう、しよう。近付いて、ベッドの側に立った男はまた昨日みたいに触るぞ、と声をかけて

2017-08-27 20:53:21
イカミ @phony68

ピーターの首元にその大きな手のひらを添えた。多分まだ下がりきってないことはバレバレなのに、男はそのまま何も言わずに、じっとピーターを見つめている。まるで、怒られてる、ような。でも、くすぐったい、ような。落ち着かなくて、ピーターは視線をうろつかせたり、男を見上げたりする。顔が熱い。

2017-08-27 20:59:54
イカミ @phony68

「…体調は」また、聞かれた。分かりきってるのに、誤魔化しが効かない状態で問い掛けられて、ピーターは観念して口を開く。「……まだ、ちょっと、だるい、し。あたま…いたい」自分の不調を訴えるのは、こんなに難しいことだっただろうか。言葉のひとつひとつが喉に引っかかる。言わなければ、と思う

2017-08-27 23:01:33