スタンドアップ・キングダム #3

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えみゅう提督 @emyuteitoku

掴みあげられるスクトゥムを余所に、ライオンハートは周囲を見渡していた。彼の様子に真っ先に気付いたのはアルキドクセンだ。「どうしたライオンハート?ボトムレスはわしも見とらんぞ」「ああ、ボトムレスの事も、もちろんだが…ここはまるで夢の世界のようだと思ってな。だから…」26

2017-09-01 22:59:45
えみゅう提督 @emyuteitoku

「もしかして、自分だけ格好が変わっていないこと?」アンダーテイカーが横から言葉を加えたが、ライオンハートは首を横に振る。「私の姿だけがそのままなのも疑問だが、そうじゃないんだ。もし…もしも本当にここが夢だというのならば――」彼が呼ぼうとした名が喉元で止まった。27

2017-09-01 23:01:11
えみゅう提督 @emyuteitoku

何かが、いる。全員の視線が一斉に同じ方角へ向いた。皆が聞いたのは微かな息を吸う音。その吐息には、砲の怒号が内臓を震わせる戦場をひた走って来たディープオーダーの面々でも聞いたことがないほどに大きな、魂まで押しつぶすかのような、想像を絶する圧力が込められていた。28

2017-09-01 23:02:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

赤い絨毯が途切れた先、その地位を表す高い白磁の階段の上、鈍色に艶めく四つの連装砲を装った玉座に、目蓋をも貫くような黄金の煌めきを放つ甲冑が座していた。どれほど暗愚でも、学を知らずとも、目にするだけでわかる。“彼の者は王である“。王は吸い込んだ息を号令として吐き出した。29

2017-09-01 23:03:30
えみゅう提督 @emyuteitoku

「オールゥ・ハイル・ブリィタァァニィィアアアアアアアアアアア!!!!!ムァッハッハッハ!!!」王は玉座と共に立ち上がった。玉座と艤装が一体となっているのだ。その姿を前に、皆アイサツさえも忘れて身を竦ませた。恐れや怯えではなく、敬いと推尊が溢れ、魂がひれ伏してしまう。30

2017-09-01 23:05:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

ただ一人、ライオンハートだけが、黄金の輝きに目を眩ませることなく、王を睨んでいた。「興はまずまずだ!皆、我の見立てに違わぬ相応なる装いであるぞ。どうやら、一人従わぬ者が居るようだが…許す。貴様らに褒美をくれてやろう。我が名をその記憶に刻む栄光と名誉だ、受け取るがいい」31

2017-09-01 23:07:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

王は星を抱きかかえるが如く両腕を広げた。「この星に命生まれ落ちた始まりより、厭世を薙ぎ払い、民を導く術は遥か古よりただ一つ。威光を以って全てを支配し制するのみ――すなわち、オールドワン!我こそは天地万象を統べる【王権】に君臨せし偉大なる王、マイティ・フッドである!!」32

2017-09-01 23:08:12
えみゅう提督 @emyuteitoku

立ち上がる王の姿に、世界の全てが歓喜に湧いていた。それは人々が思い描く理想の王ではあらず。自身を生み出した神に等しき鬼にさえ刃を向ける傲慢なる者、されどその者こそが最良の王。王とは一人立つ者、民からの選定などという仮初にすがることのない真なる王。33

2017-09-01 23:09:36
えみゅう提督 @emyuteitoku

「フッド…この方が、【王権】のオールドワン」コールドレインは絞り出すように王の名を口にした。ただ言葉にしただけで、心は圧し伏せられ、体は跪こうとする。圧倒する威光から友達を守るために、ライオンハートは前へと踏み出し、両の拳を打ち付ける。「ドーモ!ハジメ――」「痴れ者が!!」34

2017-09-01 23:10:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドはライオンハートを一喝する。アイサツは中断された、失礼な行為だが、それは飽くまでも地にある者同士の在り方に過ぎない。真なる王に世界の礼節は通用しない。「誰が動くことを許した?今その足を進めたことが、どれ程の罪過となるか…理を知らずして生を持つは刎頸に値する!」35

2017-09-01 23:12:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドはあらゆる行いを支配せんとする。その言葉にあるのは命そのものさえ否定する圧制。ライオンハートには到底受け入れられない、受け入れるどころではない。目の前にいる王こそが、必ず打ち倒すと決めた圧制者そのもの。飽くまで抗うライオンハートの目にフッドは興味を持つ。36

2017-09-01 23:13:31
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ほう…良い目だな、いいだろう。我が許しを得ずに足を進めたその無礼、許す」「許す必要はない、今私の目にあるのは貴様への殺意のみだ」「殺意?!ムアッハッハッハ!礼儀どころか己の心頭すら分らぬとは。その目はな、待ち望んだ玩具に飛びつく童(わっぱ)そのものよ」37

2017-09-01 23:15:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

「黙れ!」ライオンハートはカラテを構える。王に飛び掛からんとする彼の横を、黒いドレスがゆらりと通り抜ける。チェルノボグは凛として、深々とフッドに頭を下げた。「偉大なる王にお会いできて光栄に存じます」隷属するかのような友の姿を前に、ライオンハートは自分を失った。38

2017-09-01 23:16:22
えみゅう提督 @emyuteitoku

「そ…んな」「おっとー!?しっかりしろライオンハート!」崩れ落ちそうになるライオンハートの体をスクトゥムが支えた。「スクトゥム、何故チェルノボグは…」「詳しいことは今からチェルが話す。皆で決めたんだ」「皆が?」何か考えがあることを知り、ライオンハートは気を持ち直す。39

2017-09-01 23:17:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

チェルノボグは礼を終えた後も、壇上に立つフッドにすぐには目を向けない。「――面を上げよ。我に舌を捧ぐことを許す、腹積もりを言葉にするがいい」フッドの許しを得て、チェルノボグはようやく顔を上げた。「この度は、王の膝元である大西洋に――」「愚か者がッッ!!!」40

2017-09-01 23:19:02
えみゅう提督 @emyuteitoku

突如としてフッドが吠えた。チェルノボグの言葉のどこに非礼があったというのか?!「我が威光は宙にあまねく星々の悉くを越え行く。並行し別れ出でた次元まで、一つ余さず植民地である!我が膝元を、芥子粒にも満たぬ海一つと語るか!――だが、許す」フッドはくるりと気を静めた。41

2017-09-01 23:20:10
えみゅう提督 @emyuteitoku

「凡百に王の領域は計れん。土の間を這う蛆に世を見通す目があるはずもなし、罰するに値せん。ムアッハッハッハ!」一度消えたライオンハートの怒りがマグマめいて沸騰した。チェルノボグを、私の友達を!蛆といったか!その言葉が出ないようにスクトゥムがライオンハートを懸命に抑え込む。42

2017-09-01 23:21:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

「落ち着け、我慢だ、俺も我慢するから、今はチェルノボグの好きにやらせてやれ」抱き止められる間にライオンハートは何とか気を静めて成り行きを見守ることに努めた。フッドはひとしきり笑い、チェルノボグを再び見下す。「さて、貴様は我の領域の何を知る?続けろ。我が許す」43

2017-09-01 23:22:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

チェルノボグはキッと鋭く視線を絞る。「王の領域を、穿つ者が居ます」かすれていても渾身の力を込めた言葉。それをフッドは笑い飛ばした。「ムアッハッハ!何かと思えば、我が領域を穿つだと?!凡俗の幻想は――」王は言葉を止めた、一つだけだが、思い当たる者が居たのだ。44

2017-09-01 23:23:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

「しかして、チェルノボグよ。その者の名はなんという」 「――フューリアス」45

2017-09-01 23:24:03
えみゅう提督 @emyuteitoku

忌まわしき変幻の道化師の名を聞いた途端、黄金の兜の奥で、王の瞳に怒りが灯った。そのまま振りかざせば星々が震えあがる怒気を、王は笑いに代え吐き出す。「フフ、ムアッハッハッハ!道化め、まだ生きておったか!ムアッハッハ!愉快千万よ!よくぞ知らせたチェルノボグ。褒美は何を望む」46

2017-09-01 23:25:05
えみゅう提督 @emyuteitoku

「王の進撃の傍らに、我らディープオーダーの従軍の許しを頂きたくあります」チェルノボグは迷いなく答えた。王もまた迷わない。「いいだろう、許す!ロイヤルネイビーの歴史に名を連ねる誉れを、その身に刻むがいい!従属せよ!」マイティ・フッドが錨を上げる。偉大なる王の出港である!47

2017-09-01 23:26:09