創作荘東京オフ会小説『絡めた指、唐草模様』その1、その2

2017年8月に東京で行われたオフ会を、誇張と捏造を通して再構成したお話です。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

絡めた指、唐草模様(#創作荘 東京オフ会小説)  1 微熱につつき回される頭で、あの日の出来事……創作荘東京オフ会をぼうっと思い返す。椅子の背もたれに体の重心を寄せると、うなじの辺りで髪がかすかに揺れた。今の髪型は、あの日、皆から褒められた。思い切って編んでみたのだけれど、

2017-08-31 19:07:19
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

誰からも文句を言われなかったのでほっとしている。……ああ、そんな場合じゃなかった。数日しかたっていないのに、数十年たったようにも、たった今まで続いていたようにも思える。その揺らぎが固定されない内に、揺らぎそのものを文字にして残しておかないと。我ながら、妙な使命感かな、とは思う。

2017-08-31 19:08:21
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

でも、書かずにはいられない。程々の冷静さを保っておこうとしてふと見た窓ガラスには、女子学生専用アパートの内装と、それに埋もれた私が写っている。数ヶ月前からすれば、髪が伸びた以外に変わった点はない。少なくとも自分ではそう思っている。変わった点はない。その言葉に安心する自分と、

2017-08-31 19:09:23
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

苛立つ自分がいて、我ながら矛盾を感じている。髪を染めでもすればまた違う心理になるのだろうか。実行する気もないまま、そんな考えをもてあそんだ。 あの日の出来事は、東京と創作荘の、二つの固有名詞が土台になっている。前者は現実にある。後者は……。後者も現実にはある。現実には。

2017-08-31 19:10:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

東京という土地を、地図で確定して、現地にいって、地面に触るのは可能だ。けれども、創作荘はネット上の創作グループだ。だから、強いて触れるなら、参加者にそうする他ない。そうはいっても、確かにそれが存在した瞬間はあった。ネット上の存在だからこそ、どこにでも現れる。二十三区から外れた

2017-08-31 19:11:30
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

古い洋館であっても。重い荷物は全部ホテルに預けておいた。とはいえ、軽やかな足取りとまではいえなかった。この日のパーティーにはお菓子が必須で、各自が地元にある名産品を持ち寄ることになっていた。京都は即ち和菓子。八つ橋は代表格の一つ。でも、魚という名前の魚がいないのと同じで、

2017-08-31 19:12:06
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

八つ橋にも様々な八つ橋がある。それに、アレルギーや好き嫌いの問題もあった。だから、何種類かの八つ橋を用意した。どうか、皆が顔をしかめませんように、と祈りながら、八つ橋を満載したバッグの重みを肩に感じた。そうして待ち合わせ場所に指定された、洋館の最寄り駅で列車を降りて、

2017-08-31 19:12:49
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

改札を目指すと、何人かの人々が談笑していた。皆女性で、会ったことのある人もいたから、すぐに足が進んだ。 「あっ、藍斗さん!」 「雅さん!」 私の足取りは更に軽くなり、すぐに改札を出た。雅さんは、創作荘のお母さんそのものだ。いつも丁寧にセットされたセミロングに、おしゃれな細い眼鏡。

2017-08-31 19:13:46
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

何より笑顔がとても福々しい。 「藍斗さん、お久しぶりです!」 「リオちゃんも!」 手を振りながら、私もまた自然に満面の笑みを浮かべていた。リオちゃんは、華奢な体格に長く伸ばした髪がとても良く似合っている。でも、性格はとてもしっかりしていて大人顔負けだ。とっくに成人済みの雅さんと、

2017-08-31 19:14:52
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

瑞々しい思春期中盤のリオちゃんに挟まれると、その真ん中くらいの私は何故か気恥ずかしくなる。 「藍斗ーっ! 良くきたーっ!」 「みどりん!」 みどりんは有言実行の人。だから、私がたどりつくなりいきなり抱きしめてきた。私もそうしたかった。でも、荷物が重くて腕がなかなか上がらず、

2017-08-31 19:16:05
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

困っている内にみどりんは離れた。みどりんの軽く染めた短い髪が、私の胸をなぞって、再び元の姿に収まった。 「今日は、藍斗さん」 「こ、今日は、浅縹さん」 一際落ち着いた、しっとりした声と挨拶。浅縹さんは、何度もツイッターの画像で拝見した通り、女の私でもうっとりする。  続く

2017-08-31 19:17:34
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

絡めた指、唐草模様 2  黒く艶やかな服に、黒い手袋。黒いセンス。渋みと華の両方が備わっていた。ロングの髪も黒。唇だけが、赤く鮮やかだ。 「もうすぐ小津さんがくるはずだから」 雅さんが教えてくれた。 「はい」  私はうなずいて、とてもわくわくしながら皆の輪に加わった。

2017-09-02 13:15:32
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

オフ会のメンバーは、十人を超えている。その全員が同時に集まるまでには時間がかかった。もっとも、ころころ笑ってはしゃぐリオちゃんや、浅縹さんの美貌を眺めていると、すぐに時間が過ぎた。 「やー、どーも。お待たせしました」  そんなのんびりした声で、私達は駅の出入口を一斉に注目した。

2017-09-02 13:17:39
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

和服に下駄をはいた、短髪の青年がのんびりと歩いてくる。 「小津さん!」  異口同音に皆が呼んだ。小津さんは、みどりんと同世代で、私より少し年上の男性だ。けれども、一緒にいて少しも緊張しない。 「他の人達ももうすぐきますし、まとまって会場を目指しましょう」  小津さんの意見に、

2017-09-02 13:18:54
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

私達は間髪を入れずうなずいた。   今日は十人を越える参加者がいる。それを小津さんが道案内して下さることになっていて、頼もしい。  皆の会話を聞きながら、ふと、駅の出入口越しに空を見上げた。暑くはあるものの、雲が分厚くなっている。前日までにラインでゲリラ豪雨の話も聞いていたし、

2017-09-02 13:24:53
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

折り畳み傘くらいは買っておいた。 「皆さん、きましたよ」  小津さんが呼びかけたので、改札の向こうに顔を向けた。 「蟹糖さん!」  リオちゃんと同じ年恰好なのに、私よりはるかに大人の風格があった。みどりんと同じショートカットで、白い半袖ブラウスにワインレッドのひざ丈スカート。

2017-09-02 13:26:51
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

都会の女の子だけあってとてもお洒落。 「藍斗さーん!」  蟹糖さんが笑って私を呼んだ。つい、手で口元を隠しそうになった。 「ご機嫌いかが?」  蟹糖さんと並んで歩いている、ゴスロリファッションに包まれた女性が優雅に会釈した。黒いリボンつきの黒い帽子の下に、白い胴着、黒いスカート。

2017-09-02 13:28:24
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「麗しいです」  私は、蟹糖さんの次に改札を出たその人、土星の女王に返事をした。何だか粗忽な挨拶になってないかと心配してしまった。女王陛下は、土星からはるばる地球にやってこられたお菓子の大好きな方だ。今回の洋館も、わざわざ陛下がご予約遊ばした。オフ会をお菓子パーティーにしようと

2017-09-02 13:30:00
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

提案したのも陛下だ。丸縁眼鏡に三つ編みがとても可愛らしい。 「今日は。皆さん初めまして。りおんです」  次に改札をくぐったのは左手の薬指に結婚指輪をはめた女性だった。雅さんと同じくらいの年齢で、謙虚で控え目な物腰だ。 「今日は、りおんさん」  りおんさんは育児の合間を縫ってきた。

2017-09-02 13:31:37
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「今日は」  続いて、せりやさん。少し伸ばした髪をくくっていて、シックなワンピースを身につけていた。浅縹さんとはまた別の品格のある風情があった。何より少し面長の、鼻筋の通った顔が目を引く。 「えー、或布さんは後からくるので、ひとまず出発しましょう」  小津さんが朗らかに言った。

2017-09-02 13:33:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「はーい」  私達は異口同音に答えて、一斉に歩き出した。 「暑いですね」  歩きながら、りおんさんが私に言った。 「ええ、本当に」  相変わらず鉛色の空を仰ぎ見ながら私が返すと、列からリオちゃんが少しはみでた。みどりんがふざけて突き飛ばして、リオちゃんが大袈裟にふらついた。 続く

2017-09-02 13:35:20