ライオンハート・ザ・ブレイブハート #1

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えみゅう提督 @emyuteitoku

それはただの斬撃ではなかった。脆さを数で補う飛行甲板の刃は、乱雑に肉を抉り飛ばし、砕けた破片は傷の中に残る。思えばフューリアスの偵察機が現れた時、皆の傷は治っていた、それを見られた、優秀な工作艦がいることを、後方支援に徹する者がいることを、あの時知られてしまったのだ。26

2017-09-12 23:01:06
えみゅう提督 @emyuteitoku

(だからこそ…)前線で戦える実力があっても、別動隊の指揮を任せた。援軍の足止めのために後方に下がる二隻を、アルキドクセンとアンダーテイカーを仕留めるために、治療し難い斬撃と最高の速力を持つ部下を配置したのだ。ノー・ワン・エスケープ・フロム・デス。演目名は【皆殺し】だ!27

2017-09-12 23:02:06
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ああっ!ちくしょう!なんで、こんな!」アンダーテイカーは足を止める。眼前にチェーンソーを咥えたレ級がいる。その速力を誇示するように、レ級はディープオーダー最速の輸送艦を追い越したのだ。「ギシシシ!やたら速いと聞いたが、ま、ガネーシャに追いつかれる程度ならこんなものだろう」28

2017-09-12 23:03:31
えみゅう提督 @emyuteitoku

「俺はタンソウホウサーカス幕間演劇担当ソーシャーク!要は前座だ!楽しくやろうぜギシシシシ!」ソーシャークはノコギリ状の歯でチェーンソー型の尾をがっちりと噛み締めたまま器用に喋る。変則だがアイサツ、無論返すのはアイサツ。「ドーモ、ソーシャーク=サン。アンダーテイカーです」29

2017-09-12 23:05:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

アイサツを返したのはアンダーテイカーだけだった。「じいちゃん…心配するなっていったばっかりでしょ。元気だしてよ!」「応とも…ドーモ、アルキドクセン…です」アルキドクセンのアイサツが力無く響く。初撃で受けた傷は重く、もはや意識を保つのもやっとなのだろう。30

2017-09-12 23:07:08
えみゅう提督 @emyuteitoku

「一体、どう、すれば!」アンダーテイカーは苦悩する。「ギシシ、挨拶が終わったら斬ってもいいんだったな」ソーシャークは前傾姿勢でテールソーを構える。「いいか、アンダーテイカー…思いっきり振り返って、そのまま真っ直ぐ行け」アルキドクセンは、アンダーテイカーに策を授ける。31

2017-09-12 23:08:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

「――振り向く」その言葉だけで、背中を合わせる友達の意図をくみ取れた。「HEEWHEEBEEEE!!」直後、ソーシャークがエンジンをふかし突撃してくる。チャンスは一度しかない、だが一度でもあるなら十分!「「イヤーッ!」」二隻のシャウトが重なりハーモニックを奏でた!32

2017-09-12 23:09:32
えみゅう提督 @emyuteitoku

アンダーテイカーの転進の遠心力をのせ、アルキドクセンはフラスコを投擲!「避けてみい!」たぎる血潮のままに吐き出された言葉に操られるが如く、ソーシャークはテールソーをフラスコに――「HEEEE――おっと」止めた!それどころかテールソーの側面にフラスコを受け止めた。33

2017-09-12 23:11:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

「うそ、だ…」アンダーテイカーは真っ直ぐ行けと言われた事も忘れて、テールソーに器用に乗せられたフラスコに目を見開いた。ソーシャークはフラスコをまじまじと観察する。「爆弾だな、これ。起爆は三ヨウ化窒素か?敏感物質を起爆剤にするとは思い切ったことする。ギシシシシ!」34

2017-09-12 23:12:18
えみゅう提督 @emyuteitoku

アルキドクセンの奥の手、必殺の一撃だった。それを投擲の一瞬で見切られた。「射出に衝撃を伴わない遠心力を使ったからピンときてな。ギャシャシャシャ!残念だったな!こんなナリだが俺も薬学治療担当なんだよ!」ソーシャークは体をねじり遠心力を使ってフラスコを明後日の方向へ遠投!35

2017-09-12 23:13:27
えみゅう提督 @emyuteitoku

BOOOMB!フラスコは着水の衝撃で爆発!その威力にソーシャークは感心する。「おー、こわ。用心慎重の安全にだ。団長を見習って正解正解」「ハ…これはまいった」非戦闘艦の二隻にこれ以上攻め手はない、命乞いも無意味。だけど、希望だけは捨てたくない。「走るよ、じいちゃん」36

2017-09-12 23:15:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

アンダーテイカーは進路を北に向け走った。「鬼ごっこの続きか?!HEEWHEEBEEEEE!!!」すかさずソーシャークはエンジンを全開に回し追撃する。「WHEEE!――BE?」彼女はすぐに異変に気付いた、追いつけないのだ。先ほどあっさりと追い越せた輸送艦との距離が縮まらない。37

2017-09-12 23:16:49
えみゅう提督 @emyuteitoku

不明な急加速、本来ならば焦るだろう。だが、ソーシャークはあっさりと答えを導き出す。「なんてこたない、元はこっちが上、今は同速。ギシシ!簡単だ、エンジン焼きながら走っているだけだ!一分持たないだろうさ!HEEEEWHEEEEBEEEEEEE!!!」BOOGRRGIGGLEEE!38

2017-09-12 23:19:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ハッ…ハッ!」心臓が破れかねない疾駆、死の秒読みと比べれば背後に迫るソーシャークのシャウトは怖くない、だけど、それでも、「怖いよ…」追いつかれれば、先に切り裂かれるのは背負っているアルキドクセンだ。「じいちゃんが死ぬなんて嫌だ!」アンダーテイカーはさらに速度を上げる。39

2017-09-12 23:20:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

気付けば彼女はエレファント達の屍が浮かぶトラップを通り越していた。足に纏わりついたコート剤は速度が生む暴風に吹き飛ばされた。アンダーテイカーの足を、喉を、火傷に似た激痛が襲う。しかし、どれほど身を焦がし走っても――GRRGIGGLEEE!ソーシャークを振り切れない。40

2017-09-12 23:22:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

けれど、振り切れなくたっていい、同じ速度で、同じ方向、北に向けて走っているのなら、ライオンハート達からどんどん離れていっている…これでいい。「あ…」無謀な速度でのチェイスはプツリと音を立てて終わる。体のどこかで大きな腱が切れ、アンダーテイカーは転んでしまった。41

2017-09-12 23:25:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

彼女は支えを失い海面に体を擦り付ける。転倒の衝撃で背負い紐が千切れ、アルキドクセンも海面に投げ出された。そこでようやくアンダーテイカーはアルキドクセンの傷を見た。「ああ…そっか。えっと…確か、ドクター・ブヨージョーだったっけ…」「ふぇっふぇ…耳が痛いな。アバッ…」42

2017-09-12 23:26:13
えみゅう提督 @emyuteitoku

接着剤で無理やり止血していたアルキドクセンの傷は、転倒の衝撃で再び裂け、夥しい量の血液を流していた。「いくら何でも…その傷じゃ助手がいるよね」アンダーテイカーはぼろぼろの足に力を込め、立ち上がり――「HEEEEEWHEEEEBEEEEEEE!!!」膝裏を切り裂かれた。43

2017-09-12 23:27:37
えみゅう提督 @emyuteitoku

アンダーテイカーは再び海に倒れ伏す。「じい…ちゃん」手を伸ばしても届かない、もう這う事すらできない。「ようやったな、アンダーテイカー…立派に、役目を、果たせたなぁ」アルキドクセンは仰向けで、空を見上げながら呟いた。元より二隻の役目は時間稼ぎ、すでに戦果は得ていた。44

2017-09-12 23:29:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ハハハ、そうだね。私達頑張った」「ふぇっふぇっふぇ…」「うんうん頑張ったなぁ!ギシシシシ!」ソーシャークが自由勝手に会話に割り込んだ。「中々楽しかったぜ。でもこれで終了終幕の結末だ!HEEWHEE――!!」ソーシャークは止めをさすべくテールソーが振り上げた。45

2017-09-12 23:30:28
えみゅう提督 @emyuteitoku

「シネ!BEEEEE!!」GIGGLEEE!――死ぬ。それは決まった事だから、別にいい。だけど、まだ!「イヤーッ!」アンダーテイカーは背筋を使いエビ剃り、迫りくるテールソーを逆立ち回避!そのまま腕の力だけで跳び上がり、ソーシャークに向かい合うようにアグラ姿勢で着水!46

2017-09-12 23:31:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

「もう少し、後一分!稼がせてもらうよ!」おお見よ!アンダーテイカーの構えを!ザゼンめいた姿勢は、セキバハラにてシマヅ・ヨシヒコが命じたとされる不退転のカラテ、ステ・ガマリ!アンダーテイカーは自分から置き捨てを選ぶ!大将を信じるからこそできる勇猛なるワザを選ぶ!47

2017-09-12 23:33:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

アルキドクセンはアンダーテイカーの背中を目にし、涙を浮かべた。「おおお…何と、立派な」輸送艦とは、こんなにも、勇ましい艦だったのか。「長生きするもんだ、いい物見れたわ」「ごめんね、じいちゃん。その長生きも終わるけど、サンズ・リバーは私が背負って渡ってあげる!」48

2017-09-12 23:34:29
えみゅう提督 @emyuteitoku

「それは頼もしい限りよ…ふぇっふぇっふぇ」二隻の決意を前に、ソーシャークはしばしの沈黙を挟み、ニヤリと笑った。「――これで一分だ。死に際はサービスタイム、団長の口癖でね。ギシシシシ!せいぜい悶え苦しめ!楽しけりゃ何分でも遊んでやるぜ!」GIGIGILEEEE!!!49

2017-09-12 23:35:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

テールソーのエンジンが唸る。アンダーテイカーの瞳に恐れはない。アルキドクセンも、穏やかな笑みを崩さない。されど、二隻は死を受け入れたのではない、飽くまで、いま生きているこの瞬間に向かい合う。ただ一つ、悔いがあるとするならば、役目は果たせても、作戦を完遂できない事。50

2017-09-12 23:37:11