- schsch_schwein_
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@carnevans215 追撃の為ではなく、ただ、開けられた距離を詰めようと思っただけの、他愛なさ。 夏の夜は短くとも、いくさは今まさに始まったばかり。 故に焦ることは無く、魔女の笑みに、こちらもおどけた声音を返す。↓
2016-08-07 03:43:08@carnevans215 「それはお姉さんも、だねぇ……危うく、身体の風通しが、良くなるところだったよぉ……?」 目を細めながら、さて、と、次手への思案をよぎら、せ、 ――破裂音。 ↓
2016-08-07 03:45:07@carnevans215 一呼吸の安堵を、叩き壊すかのごとき、不意の炸裂。 魔女の獣脚から、黒い大樹が、急速にせり上がり始める。 炎に焦がれたような枝葉が、切っ先を、こちらへ。 「……っ……!!」 混沌の針槐が、猟犬達の牙が、怒涛の勢いで殺到していく。↓
2016-08-07 03:46:17@carnevans215 影化し、周囲の粒子に溶け込まねば、命はないだろう。そう過ぎると、同時に。 ――避けて。 虚を突かれて、瞬く。 つい先程まで、こちらを斬り伏せんばかりの怒気を帯びていた魔女が。 (ねえ) (気遣って、いいの?) 動きを止めて、そちらを見やった。↓
2016-08-07 03:47:28@carnevans215 (だって、さあ、貫かれた方が、お姉さんは――) その、刹那だった。 ――数百のほんの一端、それでも幾本もの枝が、己の肩を、腿を、下腹を、足の甲を、次々に穿つ。 「あ゛っ……ぃ、ぎっ!」 血濡れたまま、中途半端に夜の闇へ混ざり込んで、残りを凌ぐ。↓
2016-08-07 03:48:10@carnevans215 痛い。痛い。あつい。 全身を貫かれて、暗がりに、あかが、散り、意識が明滅する、痛い、身体が、血が、噛まれた、すごい、ああ、きんいろ、月が、きれいで、傷も、痛みも、構わずに、厭わずに、そちらへと宵闇の一部と化した手を伸ばして―― 【HP:76→56】↓
2016-08-07 03:48:40@carnevans215 金炉の瞳の奥で、熱が熾る。 夜の闇に溶け込んでいた身体が、悪夢の水底から浮かび上がるように、輪郭を取り戻していく。 森の中に存在する、数多の影。 そこから、混沌を元にしたとろみのある黒水が、どっと大量に溢れ出した。↓
2016-08-07 03:50:12@carnevans215 黒い水は渦巻き、隆起し、夜天に聳える黒海の高波となり―― 灼の黒咢と変じて、幾百の猟犬達を飲み込もうと大口を開いた。 芯からの陶然と、ひどい昂揚で、表情に喜悦が深まる。 熱に浮かされた瞳で、己が“強欲”を、あるがままに。↓
2016-08-07 03:50:35@carnevans215 「奪え」 混沌の塊を心行くままに、灼き、蝕して、己が物にしてしまえ。 「猟犬どもから、全てを、奪え」 熱で思考が鈍り、儘ならない。 あぎとを駆り立てながら、ふと仰のいた。↓
2016-08-07 03:50:53@carnevans215 獣を前に、喉元を無防備に晒して、月を仰ぐ。 そうして、猟犬達の起点におわす、月、を。 「……ああ」 なんて、良夜。 【良夜に、蝕:21】5,1,6,6,3 (02:16:12)
2016-08-07 03:51:18@schsch_schwein_ 疾駆する。殺到する。迫り来る。 "夜"を濃縮した獣の牙が雪崩の様に降り注ぐ。 それは術者の意図の外。 混沌に依って呼び出された魔狼による叛逆行為。↓
2016-08-08 20:05:15@schsch_schwein_ 元より、『獣の鎧』とは一個の生命である。 常世の混沌を楔として彼岸より召された、この世ならざる存在。 魔法師……特に召喚師はそれらを自身の得物として扱う訳だが、 それらが自我を持たないとは、誰が言ったであろうか。↓
2016-08-08 20:05:32@schsch_schwein_ 気づいた時にはもう遅かった。 鎧は爆ぜるように解け、周囲の闇を巻き込みながら夜へ夜へと伸びていく。 目で追えば、それは死をもたらす大樹の様であり、地獄から這い上がらんとする悪魔の掌にも見える。 それらが、めきめきと耳障りな唸りを上げた。↓
2016-08-08 20:06:27@schsch_schwein_ (――!) 息を呑んだのは彼だけではない。 自分の意志に沿わない形態変化……そんなのはこれまで、"一度しか"無かった。 月の綺麗な夜に蛍火と陽炎が揺らめいた、あの、 混沌の海に落ちた、あの夜しか。↓
2016-08-08 20:06:45@schsch_schwein_ 「避けて!」 だから咄嗟に叫んだ。黒豚からすれば滑稽だろうが、この魔法はきっと"よくない"ものだ。 ――きっと、彼の命に届いてしまう魔法だ。 殺したい程の相手なのにそれはいけないのかという声が過ぎったが、知らない、そんなのは関係ない。 ただ、↓
2016-08-08 20:07:40@schsch_schwein_ そう思ったが、しかし、 非情にも彼は一瞬動きを止めた。 時間が凍る。 視線が重なる。 毒気のない、呆けた表情が見えた。 蜂蜜色の瞳が見えて…… 束の間、 それも槍の雨に飲まれて闇に溶ける。↓
2016-08-08 20:08:21@schsch_schwein_ 思わず手を伸ばす。 彼は無事……ではないだろう。大樹の枝が突き立った場所に、いくつか黒い水たまりが見える。 奥歯を噛みしめる。何故だろう、憎き相手を仕留めたかもしれないのに、腹の底が煮えるように熱い。↓
2016-08-08 20:09:05@schsch_schwein_ 混沌の樹の幹を殴りつけ、理由もわからず自分に腹が立った、その時。 全身に、じり、とした熱を感じた。↓
2016-08-08 20:09:33@schsch_schwein_ 盛夏の蒸し暑さによるものでは、ない。それよりももっと熱く、脈打つような、生々しい熱。 (まるで火に炙られているような) 野火かと思い辺りを見回しても、それらしい火の手はない。 代わりに、
2016-08-08 20:09:54@schsch_schwein_ ごう、といううねりとともに、赤黒い濁流が迸る。 ――混沌を通して伝わる、箍の外れた歓喜の笑み。 夜影から進み出た黒豚は星を仰ぎ、すらりと綺麗な腕を広げているように見えた。 "ああ" 陶然とした声。 背景にそり立つは、混沌による強欲の洪水。↓
2016-08-08 20:11:01@schsch_schwein_ 「……っ!」 「《千変たる星の影!》《巡りて、転ぜよ!》」 高波は大樹すら喰らい尽くそうと大きく口を開け崩れ落ちてくる。 ……唇が乾く。息苦しさが増し高波の頂点は揺らめいている。熱源は、あの粘水全て。となれば、↓
2016-08-08 20:11:36@schsch_schwein_ 思考を切り替え、まともに受けるわけにはいかないと判断する。大樹を壁に造り変えて凌ごうと詠唱を紡いだ。しかし、それは、↓
2016-08-08 20:12:06