日向倶楽部世界旅行編第14話「トラック泊地・帝王の休日」

バヌアツを発ちシドニーを目指す日向達。 一方トラック島では、軽巡洋艦娘那珂が一人優雅な休日を謳歌していた…
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三隈グループ @Mikuma_company

やがてそれを戻し、彼は安堵の表情を浮かべた 「でも楽しそうで良かったよ、変装して出かけるのにも慣れてきたみたいだし」 那珂はそれに微笑んで応える 「そうだね、でもまだまだ行った事のない場所ばっかり。」 指をくるくる回し、あそことか、こことか、思い出すように語る。

2017-09-12 21:53:08
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それに対し、これから行けば良いさと提督は励ました 「島は逃げたりしないんだから。」 「ふふっ、そうだね。」 そんな風に話していると、注文していたパスタが二つやって来た 「美味しそうだな」 「ね、いただきまーす。」 二本のフォークがくるくる回り、二つの口へ運ばれて行く。

2017-09-12 21:54:09
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どちらのパスタもクリィーミィーな口当たり、そして魚介類の味わいと絶妙な塩梅の香辛料達がしつこさを消し、喉を過ぎれば次が欲しくなる 「…」 「…うん」 そんな料理を前に二人は黙々と食事を進めて行く、気が付けばパスタもクリームソースも皿の上から姿を消していた。

2017-09-12 21:55:07
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次に二人が言葉を交わし始めたのは、食後のコーヒーと紅茶が来た頃であった。 「美味しかったね…」 しみじみと言う那珂に提督は同じ言葉を返す、世辞抜きに美味しいものを食べた人間は大体こうなるのだ。 「こんなに美味しいなら外回りのついでに寄りたいなぁ」 「ふふっ、良いかもね。」

2017-09-12 21:56:06
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二人はしばらく談笑した後、晴れやかな気分で店を後にした。 「後は帰るだけなの?」 那珂は14時を示す時計に目をやって尋ねる、互いにとって帰るにはだいぶ早い時間であった。 「そうだけど、どこか行く?」 「うーん…」 提督の問いに指をくるくる回して考える。

2017-09-12 21:57:09
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やがてピタッと指を止め、提督の鼻先を指差した。 「連れてって欲しいかな、知らないトコロ。」 「ははぁ、なるほどね…」 差された彼の脳内に提督などと呼ばれる前の苦い思い出がふわふわと浮かび、そこにいる過去の自分達が彼の答えを緊張の面持ちで見守り始めた。

2017-09-12 21:58:05
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「…そうだ!あそこに行こう。」 おっ、と期待する那珂、自信に満ちた顔で歩き始める提督、二人は再び大通りへと向かって行った。 〜〜

2017-09-12 21:59:04
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〜〜 二人が、もとい提督が向かった先は、トラックストリート三丁目にある三隈系列の大型百貨店。 「ここ?」 那珂は疑問符を浮かべて尋ねる、積極的に行きはしないが百貨店に馴染みがないわけではない。 むしろ泊地で身に付けている物達は、ここにあるものよりずっと高いものだった。

2017-09-12 22:00:12
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そんな事は提督とて分かっていた、故に惑わず答える 「せっかく街を歩くんなら、もっともっと、色んな服を着た方が楽しいと思うんだ。」 那珂が変装に使っている洋服は提督の持参していた古着達、綺麗に保存されていたとはいえ何十年も前のものであり、うら若き乙女には似つかわしくなかった。

2017-09-12 22:01:09
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しかし、「らしい」格好をすれば当然那珂の正体を悟られやすくなる、故に彼女の方は乗り気ではなかった。 「良いよ、歩くだけで楽しいし…」 「大丈夫大丈夫、人間の目って結構悪いから!」 「ええ…?」 珍しく意見を通そうとする提督に言われるまま、那珂は百貨店へと入って行った。

2017-09-12 22:02:05
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足を踏み入れた二人は白くつるつるとした床を歩く、清潔な店内は買い物客で賑わっており、化粧品売り場から漂うほのかな香水の香りが鼻腔をくすぐる。 幸い客層の中に二人はよく馴染んでおり、泊地の重要人物が揃って歩いている事など誰一人として気がついていなかった。

2017-09-12 22:03:06
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やがて二人は婦人服達が出迎えるフロアへたどり着く、色とりどりの品の良い服達が花園のように那珂を取り囲んだ。 「ここは島でも有数の婦人服売り場、ここなら不満なく買い物が出来るぞ。」 随分と詳しい提督を見て那珂は適当な相槌を打つ、だが彼の言うように品揃えは圧倒的であった。

2017-09-12 22:04:08
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しかしこれだけの品揃えがあると、当然どこから見れば良いのかという問題が起きる。 「すいませェん、ちょっと良いですか?」 そんな風に売り場を見渡している那珂をよそに、提督はてくてっくと店員の女性に声をかけた。 「実はあの娘に似合う服を探してるんですけどね…」

2017-09-12 22:05:09
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少し話した後、提督は店員を連れて那珂の元へ戻って来た。 「…この人は?」 「この売り場もファッションも知り尽くした婦人服売り場のプロフェッショナルだ、要望に応えてビシィッと服を決めてくれるよ。」 店員は深々と頭を下げ自己紹介をしてくる、那珂もぺこりと頭を下げた。

2017-09-12 22:06:06
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やがて互いが頭を戻すと、店員はすぐに本題へと入った 「まず…何かご要望などはありますでしょうか。」 「えっと…無いです。」 着てみたい服、そんな物思いつく訳がない。 「では店内をご案内致しますので、気になるものがございましたらお声掛けください。」 「はあ…」

2017-09-12 22:07:05
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こうして店員を含めた三人での婦人服売り場ツアーが始まった。 「これなんて如何でしょう?」 店員のその言葉が試着の合図だ。 「花柄のワンピースです。」 それは 「黒のジャケットとストライプでスラッとした印象に」 何度も 「赤とチェックで情熱的に」 手を替え品を替え

2017-09-12 22:08:05
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「こちらは背中の開いたデザインとなってます…」 「あっ、そういうのは無しで…」 時には那珂本人が断りつつ服選びが続く、そうやって何着も試着するうちに、だんだんと彼女自身からも服に対する要望が出始めた。 「ねえ、これどうかな?」 「良いと思うよ、着てみる?」 「うん。」

2017-09-12 22:09:09
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那珂は選んだ服を試着室に持ち込むと素早く着替え始めた、それを見て提督は店員に礼を述べる。 「だんだん乗り気になってくれて良かった、本当にありがとうございますね。」 「いえいえそんな、最初は手が出なくても、色々と着た自分を見るうちにイメージや着たいものが膨らむんですよ。」

2017-09-12 22:10:09
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しばらくすると試着室から那珂が出て来た、そして出て来るなり 「決めた、私これ買うよ!」 服の襟をつまんでそう言った、それは蝶と花がデザインされた綺麗なワンピース、お値段は少々張るが手触りも色合いも文句なしの一級品だった。 「おお…」 「ありがとうございます。」 〜〜

2017-09-12 22:11:22
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〜〜 その後も何着か服やアクセサリを買い、多くなってしまった為に宅配便で全て送った。 「あ、お金下ろしてくるから待っててな…」 正体を隠すためにも支払いは全額現金、艦娘割や提督権限は無しの100%支払いであった。 〜〜

2017-09-12 22:12:15
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〜〜 二人が店を出る頃には空は夕焼け、通りは帰宅する人々やディナーに行く人々で賑わっていた。 「ああ、もうこんな時間か。」 「ふふっ、いっぱい買ったもんね。」 「そうだなぁ、これなら連れて来て正解だったと思えるよ。」 提督は笑いながら軽くなった財布をポケットにしまう。

2017-09-12 22:13:11
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那珂の方はオレンジ色の空の下、機嫌良さそうに指をくるくると回す 「連れて来てくれてありがと、今度はあれを着て出かけたいね。」 買った服達を思い浮かべると、彼女の頬はやんわりと緩んだ 「それが良いよ、着た方が服も喜ぶ。」 提督もウンウンと笑いながら首を縦に振った。

2017-09-12 22:14:05
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「あっ、でもね…」 そう言って彼女はオレンジ色のワンピースをひらひらと揺らす 「私、この服も好きなんだよ?」 「えっ?俺の母さんの服なのに…?」 「うん。」 提督が感じていた古着を着せていた事に対する負い目は、那珂の言葉で不思議な気持ちに姿を変えた。

2017-09-12 22:15:07
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そんな風に話しながら二人は街を歩き、トラック・ストリート8丁目の外れにある雑居ビル、もといトラック泊地へと繋がる秘密の通路へと向かって行った。 「この路地ちょっと暗いよね、夜に歩いたらやばそう」 「実際暗いけどこれでも海よりは明るいよ」 「艦娘だけあって海慣れしてるなぁ…」

2017-09-12 22:16:08
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二人は人気のひの字もない路地を歩く、すると提督が足を止めた。 「どうしたの?」 「…あの穴、何だ?」 彼が指差したのは小さな空き地…に、ぽっかりと空いた大きな穴だった。 「あっ本当だ、気がつかなかったしいつからあるんだろ…」 二人はそっと近付き、穴の様子を伺う。

2017-09-12 22:17:06