エピローグ「デュラブル・フォート：オールドワン」

えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスとの戦いはディープオーダーにとって忘れられない大イクサとなった。忌まわしい記憶でも、残さなければならない。この戦いの中にあった空白を埋めなくてはならない。「二人とも…何しているの？」アンダーテイカーが、顔を突き合わせるボトムレスとリンクスに問いかけた。1

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「お、丁度いい所に来たな。こっちに来てくれ」リンクスの手招きに、アンダーテイカーは首を傾げながら歩み寄る。リンクスの手元ではボトムレスの台座にキーボード状のタイプ装置が浮かび上がっていた。「どしたのそれ？」「戦闘詳報を作ろうと思ってな」リンクスがたしたしとキーを叩く。2

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ボトムレスが艤装に埋め込まれた上体を前に倒し、アンダーテイカーに顔を近づける。「リンクスは最初の戦いの後ずっと眠っていたから、何があったかを教えていたんだけど、それなら記録を残しておこうって話になってね」「ブレイブハート作戦の詳細をタイプしていた所だ」3

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ディープオーダー最大の作戦【ブレイブハート】。発端はいつものライオンハートの気まぐれから、大型ミサイルの基地の調査だった。「それがよくもまあこんな大事になったもんだ。オールドワンなんて、金輪際かかわりたくないな」リンクスはタイプの手を休め両手を頭の後ろにやる。4

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「それは無理でしょ」ボトムレスの冷静な指摘、避けようにもすでに味方に【王権】が参入しているのだ。「しょーじき、王様にはついていけないな」「私はいい人だと思うよ？」アンダーテイカーはのほほんと応えるが、リンクスにはのっぴきならない事情がある。「あの城は…厄介だ」5

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いつになく神妙な面持ちでリンクスは語る。「あの城では…好きな格好ができん！せっかくこの世ではない場所に行ってもこの体のままだ！何か、納得いかない！」リンクスはわなわなと両手を震わせる。フッドの城では、リンクスは文字通りの即身仏めいた僧衣を着せられるのだ。6

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「そういえばあの城はコトダマ空間とも違うんだっけ？」ボトムレスが瞳を上げ、絢爛な城の様子を思い返す。「そうだな、簡単に言うと小規模なもう一つの世界を造り出すジツだ。城には城のコトダマ空間がある。途方もない話だ」「そう聞くと滅茶苦茶だね」「実際滅茶苦茶な人だよね」7

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リンクスは改めてタイプ装置に食い入る。「私もディープオーダーに入って色々な奴と会ってきたが、フッドが二番目にわけわからん。あの時、あのままライオンハートが沈んでいたらと思うと魂が抜けそうになる」「…あの時ね、皆大慌てだった」「うんうん」三人が思い返すのはイクサの終幕。8

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「チェルノボグが鬼の形相で海から釣り上げていたな」「私、駆けつけた時ダメかと思ったけど、まあ祈ったよね」「私も諦めてなかったよ。お葬式は嫌だし」ライオンハートが倒れた時、ディープオーダーの全員が祈った。「…祈るだけでは、きっと届かなかっただろうな」リンクスが呟く。9

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「アルキドクセン、すごかったね。アンダーテイカーも両足動かないままでよく頑張りました！」ボトムレスが右手を艤装から引き抜き、アンダーテイカーの頭を撫でる。「でも、じいちゃんも傷だらけで、いつも通りとは行かなかったね」「ああ、皆がもうだめかと思った、その時――」10

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「――スクトゥムが現れたよね」「心の底から忘れてた」「あれもまた鬼神の如き形相だったね」憐れスクトゥム。ライオンハートの治療に精一杯で迎えは誰一人いなかったのだ。「コールドレインの『何者だ！』は傑作だったね」「スクトゥムの方からパリーンって聞こえた気がしたよ」11

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「スクトゥムって艤装が無い方が速いんだね」「私もチェルノボグから一度聞いただけだったから驚いた」「でも、そのチェルノボグに引っ叩かれてたね。何で？」「何かアホだの、ドクロだの言ったらしいぞ」憐れスクトゥム。猛進虚しくチェルノボグはしっかり約束を覚えていた。12

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「まあ、スクトゥムの事は置いといて…【王権】とは、オールドワンとは途方もない力なのだな」「フクウォーター・オボン・ノー・カエラズなんて所詮庶民のコトワザってことでしょ」「葬儀は嫌だけど…あれはいけないことだって、私でも思うよ。フッドも今回限りにするんじゃないかな」13

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リンクスはバック・スペースキーを十秒ほど押し続けた。ブレイブハート作戦は記録に残さなければならないイクサだが、全てを記録する必要はない。例えそれが星の摂理を穿つ行いだとしても、残すべき物だけを残せばよいのだ。語るべきことだけを伝えればいい、リンクスは王を恐れた。14

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「さて、続きと行くか」「うんうん、それじゃあ続き頑張ってね」アンダーテイカーは首振り張子バッファローめいて頷いた。「何が頑張ってね、だ。これからがお前の出番だろう」「私が？何で？」「北方方面軍と戦ったのはお前とアルキドクセンだろ？」「それなら、じいちゃんに聞いた方が…」15

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「もう聞いた。で、アルキドクセンは途中で気絶してたとさ。だから、ソーシャークとやらと最後まで戦っていたのはお前だけだ。どうやって勝ったのか詳報に残したい」戦いの空白を唯一知るアンダーテイカーは、”あの”光景を思い出し青ざめた。「…あれはね、悪夢だった」16

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―――――17

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「まずは後ろのてめえからだ！ＨＥＥＥＥＥＥＥＷＨＥＥＥＥＢＥＥＥＥＥＥＥＥ！！！」 ソーシャークが金切り声を上げ突進する。アンダーテイカーは足の健を切られもう動けない。後ろで倒れるアルキドクセンを庇うことはできない。（ごめんねじいちゃん…私には、何もできない！）18

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ソーシャークはアンダーテイカーを飛び越え、アルキドクセンも飛び越え、その後ろにテールソーを振り下ろした。「え？」アンダーテイカーは振り返り、それを見た。ソーシャークの背中、火花と共に砕け飛び散るテールソーの歯、そして首筋に無数の刃を受けて微動だにしない人型。19

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「いてえだろ。何だてめえ」「ＨＥ！？ＷＥ？！」不満を述べられソーシャークはスウェーで距離を離す。彼女は何か攻撃されたわけではない、ただ威圧されたのだ。テールソーの直撃を受けても皮一つ削れない装甲、見上げる程の長身、ボロボロのコート、そして両手の鉄塊の如き艤装。20

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「何だかんだのどうだはこっちの台詞だ！ディープオーダーの配置は全艦確認済み、どこから来やがった！」ソーシャークが突如現れた人型に食い掛った。その正体を知らぬが故の、無謀な行動だ。「北からだよ」人型はのしのしと海面を踏みしめソーシャークの横を通り抜ける。21

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眼中になし、一度は恐れたが、屈辱の炎がソーシャークの炉心を熱する。「てめえ！――ッ！」ソーシャークは振り向きざまに人型を切りつけようとして――テールソーを口から落とした。人型は何かしていたわけではない。ただ、半面を向け蒼い目でソーシャークを睨みつけただけだった。22

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ソーシャークは尻もちを付く。彼女は知っているのだ、決して届かない場所、抗えない絶望的な力の差を、その目で何度も見てきた。人睨みされただけで、彼女の戦意は粉々に砕け散る。ソーシャークが黙ったのを確認して、人型はゆっくりとアンダーテイカーに歩み寄る。「おい」「ヒッ！」23

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アンダーテイカーは両腕で顔を覆い海面に額を擦りつけた。彼女は人型が何なのか薄々感づいていた。だが、彼女は自分が言ったこと後悔した。何故こんなモノに。顔を見に行くなどと、約束してしまったのか。怯えるアンダーテイカーを、人型は寂し気に、しかし慣れた様子で見下ろす。24

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「ま、元気出せよ。…二隻に切り傷。で、テンションがあいつ好みってことは。てめえが敵だな、のこぎり女」25