こじらせていたリーマン不定期更新7(20170814-20170820)
- tsutsujishika
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「ちーっす」 適当な挨拶で出勤したが、社内は人がまばらだった。大体の人間はまだお盆休み中で、出勤しているのは少数だ。今日は取引先との予定もないし、事務作業に精を出そう。
2017-08-14 08:32:16コンビニで買ってきた弁当を、自分の席でもさもさ食べる。風邪で休んでいたせいもあって、やることはたくさんある。あるのだが、社内に人がいないせいで、イマイチやる気が起こらなかった。…つっても、やる気なんていつでもないんだけど。宝くじ当たったらニートになりてえなあ。
2017-08-14 12:29:35まあでも、やることやっとかないとチョロ松がうるさいしな。構ってもらえるのは嬉しいけど、困らせるのは俺としてもよろしくない。午後はきりきり働いて、そしたらあいつが家でまってる。しょーがない。がんばってやりますか!
2017-08-14 12:33:00「ちょっと早すぎたかな」 ひとりごちて、改札を出る。おそ松が帰ってくるのはまだまだ先だ。今日は料理をすることもないし…スーパーで適当な酒でも買っていこうかな。おそ松の家でくつろがせてもらおう。
2017-08-14 14:12:02冷房が効きすぎて寒いくらいのスーパー。ビール6缶と、梅酒を2缶。これだけで結構重いけれど、おそ松の家まですぐだし、どうってことない。
2017-08-14 14:22:03「よぉ。…見事に酒しか入ってないなぁ」 不意に後ろから声をかけられた。嫌な予感しかしない。 「…先輩」 「よく会うなぁ。松野。ここで会うってことは、彼氏とはうまくいってんのかぁ」 前の会社の、先輩。彼はちょっと高いラベルのビールをかごに入れる。くそ、いちいち癪だ。
2017-08-14 14:23:00「…おかげさまで」 「俺のおかげで?」 「社交辞令です。…ちょっと、ついてこないでください」 「俺もレジに行くんだよ」 まるで連れ立つようにしてセルフレジへ向かう。隣同士で商品をスキャンしながら、なおも先輩は話を続けた。
2017-08-14 14:24:04「で?俺に相談できるようなことはないの」 「…ありません」 「どうだか」 松野はくだらないことで悩むタイプだと思ってたよ。俺は。会社で一緒だったときもそうだったろ。スキャンした商品を袋に入れて、彼の顔を見る。人を食ったような笑み。
2017-08-14 14:25:06「後輩教育とかめんどくせぇから、口ださなかったけどな。今なら助けてやれるよ」 「……めんどくさいんじゃないんですか」 「今のお前には興味があるってことぉ」 「どういう…」 「わからない?」 僕の頭のてっぺんから、つまさきまで。じっくりと見られる。
2017-08-14 14:26:07「なんで自分は女じゃないんだろうって、思ったことない?」 「…!」 喉の真ん中を掴まれたみたいに、息が詰まる。 「図星かぁ」 「そんなこと、ありません」 「…俺はあるよ。ちょっとお前とは違うけど…」 男だ女だ、なんでこんなつまんないことで、悩まなくちゃならないんだろうってさ。
2017-08-14 14:28:09「僕は、そんな、悩みは」 「無い、って顔には見えねえよ。…まあ、今度またゆっくり聴かせてくれよ」 そう言って、先輩はスーパーから出て行った。まただ。あのひとは、また会えることを確信しているような言葉を残して、去っていく。
2017-08-14 14:29:02「た、ただいまー」 言いなれないからちょっとどもった。すぐに、「おかえり」と返事がある。それだけでじわじわ胸が暖かい。 「ご飯炊いたし、ビールもあるよ」 「やりー!チョロ松大好き!」 「はいはい」 「流すなよ」 ネクタイを緩めて、チョロ松の傍による。小さな瞳が、俺を捕らえた。
2017-08-14 20:21:09「治ったら唇に、って言ったろ?」 「あ…」 それ以上言葉を紡がれる前に、口をつける。食べるみたいに何度も何度も。上唇も下唇もぜえんぶ舐めて、口内へ下を挿入する。ちょろまつの口の中、甘い。はあ、やっと思う存分味わえる…。
2017-08-14 20:23:23「はー美味しかった」 「おそ松のお母さんの料理、本当に美味しいよね」 「おふくろの味って感じだよなあ」 心なしか膨れた気がする腹を撫でながら言う。美味しいのはいいが、一人暮らしの俺に大量の料理を押し付けてくるところは問題だ。
2017-08-14 21:12:04「おそ松のことを想ってでしょ。…その感じじゃ、風邪は完全に良くなったみたいだね」 「その説はお世話になりました!お前のおかげで治ったようなもんだよ。ありがと」 「どういたしまして。皿洗うから、お風呂の準備してよ」 「おう」
2017-08-14 21:13:00二人そろって立ち上がる。ただいまとおかえりのやりとりが。こうやってそれぞれ手分けして家事をやることが。改めて思うとむずがゆくなるくらい嬉しい。…そういえば。 「一緒に住むっていって、なんも決めてないよなあ」 「…そうだね」
2017-08-14 21:14:07