創作荘東京オフ会小説『絡めた指、唐草模様』その35、その36

小田原征伐に絡んだ陰謀劇は意外な真相をたどり、主人公は次なる捜索に乗り出します。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「リオ@忍びの者さんから、上げ蓋の穴から会場へご招待とのことです」 「あの……。オズボーンさん、桜さんによろしく。何だか私の知っている人に少しだけ似ています」  毒気を抜かれたオズボーンさんに、私は言って、雅さんを目で促した。

2017-10-10 20:34:49
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「私もこれで失礼します。今朝のご飯、とてもおいしかったです」 「ふ、二人とも何を……?」 「今度お会いする機会があれば、お茶を楽しみましょう」  本当に、じっくり話を交わしたかった。でも帰らないといけない。私は上げ蓋を上げて、中に入った。雅さんが後に続いた。

2017-10-10 20:35:19
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「あ、みやびん! ぽてこたんおいしいよ!」  オフ会の会場で、みどりんが手を振った。他の皆もめいめいお菓子を楽しんでいる。 「私の分、残ってるかな」  わざと心配そうなふりをしておどけながら、雅さんは席に戻った。ふと壁を見ると、また肖像画が一枚増えている。

2017-10-10 20:35:49
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

『アンナ・オズボーン 1564~1621 オズボーン商会アジア支部の立役者。夫のヘンリーと1581年に結婚するが、三年後にヘンリーが亡くなり、夫の事業を引き継ぐ。豊臣家の小田原征伐に巻き込まれ、軟禁されるも、見事脱出して徳川家康と結び巨利を得た』

2017-10-10 20:36:19
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「まだいない人がいるよね。どうしたんだろ」  浅縹さんが首を傾げた。 「私、探してきます」  私は再び会場を後にした。 続く

2017-10-10 20:36:35
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

#創作荘 東京オフ会小説 絡めた指、唐草模様 36 ドアを閉じると、辺りは材木だらけだった。テレビで見たことのある貯木場だ。香りからすると桧だろうか。暗くてそれ以上は確かめられない。かすかにちゃぷちゃぷと水が打ち寄せる音はした。空を見上げたら綺麗な三日月が雲を突き抜けていた。

2017-10-13 18:09:51
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

どこに向かおうかと思案に暮れていると、背中を誰かに突き飛ばされそうになり息が詰まった。 「うぐっ! あ、あれっ!? ごめんなさい」  ぶつかってきた人が、背中越しに可愛らしい謝罪をした。 「蟹糖さん!」  振り返れば確かに蟹糖さん。うなじか少し出るくらいのショートカットに、

2017-10-13 18:11:14
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

瑞々しい手足。鼻筋の通った端正な顔立ち。 「藍斗さん! 助けて下さい!」  再開を喜ぶ暇もなく、蟹糖さんは真剣そのものの表情で訴えた。 「どうしたの?」 「変な人達に……」  息が切れかけて、蟹糖さんは両手で膝を掴んで背を屈めた。 「この裏に隠れて」  咄嗟に、

2017-10-13 18:12:05
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

私は三角形に積み上げられた材木の束を指した。 「はい」   蟹糖さんがすぐに身を寄せてから数十秒と経たずに四人の男達が現れた。紋付袴に刀を差している。頭は髷を結っていた。 「おい、そこの女。この辺でこのくらいの娘を見なかったか」  男の一人が、右手で蟹糖さんくらいの背丈を示した。

2017-10-13 18:12:55
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「向こうへ走っていきました」  見当外れな方向を指で教えると、四人はうなずきあってそこへ去った。 「もう大丈夫です。ケガはないですか?」 「はい……」  即席の隠れ場所に行って声をかけると、蟹糖さんはまだ息が乱れたままだった。

2017-10-13 18:13:36
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「ここにいると、またあの人達が戻ってくるかも知れないですね。私もこの辺は良く分かりませんが、少し離れましょう。歩けますか?」 「どうにか……」  気丈にうなずく蟹糖さん。 「歩きながらでいいですから、いきさつを教えて頂けませんか?」  適当に方向を定めて足を動かしながら、

2017-10-13 18:14:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

私は事務的な言い方にならないよう気をつけた。 「ええと……気がつくと、どこか知らない港にいました。桟橋から人の声がしたので見てみたら、外国の人がいたんです」 「外国……?」 「どこの国かまでは分かりません。水に浸かって桟橋の柱に捕まっていました」  歩く内に貯木場は途切れ、

2017-10-13 18:15:18
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

港が私達を出迎えた。  何隻かの船が停泊している。全部帆船だった。 「この港です。外国の人は、私が手助けして近くの蔵の陰に一緒に行きました」  少なくとも蟹糖さんよりはずっと体格が大きいだろうし、何に巻き込まれるかも差し置いて助けたなんてとても勇気のある振る舞いだった。

2017-10-13 18:16:03
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「その人は無事なんですか?」 「幾つかケガをしていました。服も何ヵ所か破れていましたし」 「そのあとあの侍みたいな人達に追いかけられたんですか?」 「はい。藍斗さんのお陰で助かりました」 「いえ、大したことじゃないですから」  私だったらその外国人を助けたかどうか自信がない。

2017-10-13 18:17:12
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「その人のところに行ってみます?」 「うーん……さっきの人達の仲間がいるかも知れないですよね」  蟹糖さんの心配はもっともだ。 「私があらかじめ様子を窺います。その上で二人して行きましょう」  本当は私も怖かった。それで逃げ出しても、二人であてもなくさ迷うことはできない。 続く

2017-10-13 18:18:58