休養でしばらく後方に下げられた艦娘が、戦闘で無残に死んだ戦友よりも厳しい環境に耐えかねて自殺した戦友を思い出す話ください。
2017-10-22 00:26:24内地に戻って、夢を見るようになった。いつ以来だろう、任務に就いていたころは夢を見ることもなく泥のように眠っていたから。 聞いた話だと、疲れすぎてると夢も見れないとか。となれば少しは、疲れもぬけてきた、ってことなんだろう。
2017-10-22 00:31:08見るのはいつも同じ夢だ。 夢の中で私は、いつも同じことをしている。いつも同じ場所で、同じものを見ている。変わらない、変わることはない、変えることはできない。
2017-10-22 00:36:45夢の中の私は、いつも食堂の中にいる。赤灯照らす夜の食堂、赤く暗い夜の艦内で、私はテレビから離れた入口の方の席に座っていた。 手に持っているのは、熱い缶コーヒー。熱くて、甘くて、夜間哨戒開けの、冷えた体に沁みわたる…筈だ。夢の中では、そういう感覚はわからない。
2017-10-22 00:47:33夢の中で私は、いつもテレビを見ている。テレビの方向を眺めている。電源が切れていて黒い画面。何も映していない、視聴者は誰もいない。 同時に私は、確かに見ている。私にだけ見えている。あの日、あの晩、テレビの目の前の席で、プロレス番組を見ていた”彼女”を。
2017-10-22 00:56:27あの時、彼女は正しい意味でテレビを見ていた。今の私と違って、電源を入れて、チャンネルを合わせて。見ているのはプロレス。楽しんでいるように見えた、熱中しているように見えた、少なくともあの時の私にはそう見えた。 今夢で幻視している彼女は違う。空虚な歓声と、ひび割れた笑いをあげている。
2017-10-22 01:05:48どちらが本当で、どちらが私の思い込みなのか。真実は永遠に分からない。こちらで聞くことは不可能になったし、私は多分、彼女と同じ所へはいけないだろう。 そう、彼女は死んだ。次の朝に、自ら首をくくって。
2017-10-22 01:11:54「やった…!」 嫌に耳に残る、押し殺した歓声。一方のレスラーの勝利。立ち上がってガッツポーズ。 私はそれを見届けて食堂を去る。缶コーヒーが空になったから。その時何を思っていたのか、夢の中の私は思い出せる。 (よかったじゃぁないか、楽しみがあって) 何が良かったというんだ、何が。
2017-10-22 01:20:17何もよくはない。いいところなどない。彼女は追い詰められて死んだ。恐怖と重圧に追い詰められて、まったく大丈夫なところなどない。 じゃあ何かをするべきだったのか。できることなど何もない、私にそんな力などないのに? だがそれ以上に、私は何もしなかった。するべきだとわかっていたのに!
2017-10-22 01:33:27