ストレイトロード:ルート140(30周目)
- Rista_Bakeya
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疑い深い自称探偵は私を標的にして詮索を始めた。面倒な事情を抱える私が返答に詰まると相手は攻勢を強めたが、そこに藍が立ちはだかった。「聞いてどうするの。今あなたに悪いことした?まだ何も起きてないでしょ?」今の言葉は私の為か、あくまで彼女の利益の為か。それこそ余計な詮索は無用だろう。
2017-09-23 19:48:32車を右折させると、派手な色使いの横断幕が視界に飛び込んできた。博物館の存続を求めている。だが文言を音読した藍は首を傾げた。「この辺にそんなものあったっけ?」車が市街地を進む間に藍は端末で情報を集めた。「あれ、別の町から持ち込まれたみたい」懸命な人々が活動の範囲を広げているらしい。
2017-09-24 19:18:06「今まではどうやって調査を?」「パパに連れてってもらったり、執事を呼んだり……」子供の単独行動には多くの危険が伴う。だが常に親を頼ったなら、娘の野望にどれほど寛容な親なのか。「暇そうな大人に声かけて手伝わせたり」単独で危ない橋ばかり渡る娘を止めない親なのか。何度聞いても信じ難い。
2017-09-25 19:15:44仮設の市役所の前で揉める一団に遭遇した。陳情に訪れた市民が反対派と衝突したらしい。「これじゃ中に入れない」口を尖らせる藍を宥めつつ、暴言の応酬に耳を傾けた。倒壊した庁舎の再建計画が対立理由だった。「襲撃対策で地下に造る案が不評とか」「何が問題なの」「市民を盾にする形とも取れます」
2017-09-26 21:09:47「まだ人間には地対空兵器が残っています」空軍の広報担当者が胸を張った。逆に怪物の襲撃を誘発するとの批判も根強いが、未知の侵略者との戦いで世間体を気にするような政府ではない。藍が幾つか質問する間に、試作品の一発が練習場を横断していった。耳を劈く爆音が宿敵を怒らせないかと心配になる。
2017-09-27 19:42:34140文字で描く練習、1468。劈く(つんざく)。 当たり前ですが、この連作の舞台は架空の時代で架空の国です。どこをモデルにしているとかは別にないです。
2017-09-27 19:42:40人垣の隙間に見えたのは、屋根に貼り付くクリーチャーの背中だった。それが姿勢を変えたり長い尾を振り回したりするたびに悲鳴が上がり、避難を呼び掛ける警察官の声がかき消されている。「危ないって感じしないなら逃げないわよね」藍曰く、怪物の首が飲食店の割れた天窓に突っ込み、抜けないらしい。
2017-09-28 19:07:54「ここに出てる話、本当のところどうなの」藍が端末に大衆紙のアーカイブを表示させた。謎の怪物の猛威がついに宇宙開発計画を頓挫させたという十七年前の記事は、当時を知る身には懐かしい話題だった。しかし私が見聞きした話と異なる説明が目立つ。混乱だらけの記事はさぞ人々に不安を与えただろう。
2017-09-29 18:37:54買い出しに備えて車内を整頓していると、冷蔵ケースから小瓶入りの軟膏が出てきた。「これ何だっけ」「頂き物の傷薬では」数日前まで滞在した村で老婆から渡されたことを藍は早くも忘れたのか。「そうじゃなくて、『何』か説明できる?」名称。成分。確かに聞いていない。「いいわ。後で解析頼むから」
2017-09-30 19:31:01「まだあきらめてないの」「怖い顔しないで」全身に赤色を纏う女が私達の行く手を阻む。睨む藍に怯みもせず、手を差し出した。「ワタシは招待したいだけ。無理やり引っ張っていくなんて乱暴じゃない?」それは本当に任意なのか、実は強制したいのか。深紅の笑顔と職員達の無表情との落差が気にかかる。
2017-10-01 20:30:17新聞を広げる藍の手が震えていた。「この前の話が出てる」怪物の幼体を憐れみ見逃した人情が巡り巡って刃傷沙汰に。悲しい事件の顛末を語る記事に嘘はなく、しかし肝心の原因をぼかしていた。「一番傷ついたのはあの子なのに」藍が呟く。親を失った幼体と共に泣く孤児の少年を思い出しているのだろう。
2017-10-02 19:21:04廃墟ばかり並ぶ土地の片隅に車を止めた。藍は助手席のシートを倒して眠り、私は彼女の宿題を採点する。答案用紙を照らす月明かりを眩しく感じ、窓の外を見上げたが、月は見慣れた大きさだった。私が勉学に励んだ年代、恐らくこの一帯がまだ街だった頃を思う。夜の地上には空より明るい場所が多かった。
2017-10-03 19:40:09「あれがさっき話した家」ある暢気な男が晴れた日に屋根で昼寝を始めた。しばらくして目を覚ますと、周囲が瓦礫の山に変わっていた。藍が伝え聞いた生存者の噂だ。「きっと襲われても騒がなかったのね」さすがに暢気な性格だけで片付く話ではないはずだが、時代が進めばそんな話に変わるかもしれない。
2017-10-04 19:10:57