【悪堕ちシナリオ】敵幹部でありながら終盤まで主人公に寄り添ったヒロインの末路
一方で彼女は、恐らくどう転んでも納得するように深く考えて、俺と首領の元に来たに違いない。 だから、俺が首領を追おうとした時に、冷酷な形相で俺を止めた。 彼女が負ければ、俺も首領も失わなくて済む。 彼女が勝てば……いや、彼女に勝つという選択肢は、やっぱりなかったはずだ。
2017-11-05 22:58:16だから、その決定権を俺との本気の決闘に移譲した。 この状況になれば、彼女は鬼神として覚醒し、彼女の人間としての部分は眠りにつく。 彼女は最後の最後で、決定権を「本当の彼女」に委ねた。 「認めねぇよ! こんな現実!」 俺はこれまでの考察を頭から振り払うかのように大声を上げた。
2017-11-05 23:05:49「ミトメ……ナイ……?」 彼女は、ぽかんとした表情で激昂する俺を見ていた。 その両手は相変わらず俺を傷付けた返り血で染まっていたが、自慢の角は片方折られ、彼女の象徴であった両翼はもがれ、既に飛べもせず羽ばたけもしない状態になり、全身からぼたぼたと血を流していた。
2017-11-05 23:10:39致命傷を負っている訳ではないが、これだけの多量の傷を負ったらもう動けない状態になるはずが、まるで彼女は、俺に傷付けられることが快感であるかのように、痛みを感じることなく相も変わらず身悶えしていた。 ……口を開く毎に、俺の血なのか、彼女の血なのか分からない血を垂れ流しながら。
2017-11-05 23:15:03「認めない! この戦いも! この結末も! お前の姿も!」 「ワタシヲ……ヒテイスルノカ……!」 怒りの一撃だったのだろう。 俺の身体を目掛けて飛んでくる彼女の拳を避け……ることはしなかった。 彼女の左手は俺の右肩を抉る形で貫通した。 右半身の感覚がなくなったが、それでよかった。
2017-11-05 23:24:41「これで、頭を冷やしてこい」 俺の右肩に左手を突き刺した彼女の動きが止まった瞬間、俺は左手で彼女の脇腹を掴み、俺の力を集中させて弾いた。 その衝撃の反動で俺は彼女から遠ざかる形で壁へと背中からぶつかった。 彼女は、何が起こったのか分からずに左手を前に突き出したまま固まっていた。
2017-11-05 23:31:13……彼女は、右脇腹から右胸に掛けてを失っていた。 その傷は心臓には至っていなかったが、臓器の大半を失っているため、命を落とすのも時間の問題だろう。 彼女はぽかんと口を大きく開けて天を仰ぎ、両腕をだらんと垂らした後、両脚を折って地面へとへたり込んだ。
2017-11-05 23:36:30痛みからか、それとも悲しみからか、天を仰ぎ見ている両目から涙が流れていた。 「あなたが……私を否定する……」 それまでの鬼神の如き戦いをしていた彼女の雰囲気から、少しだけ人間味がある声に戻っていた。 「あなたが勝ったのだから仕方ないか……」 「いいや、俺は勝つ気も負ける気もない」
2017-11-05 23:43:03「えっ……?」 彼女は天を仰いで不動のまま、その瞳だけをこちらを見下ろすように向けた。 「ほら、こっちに来いよ。俺の血でも肉でも、自由に持っていけ」 「でもそれじゃああなたが……」 「いい……お前は俺の全てを喰らいたいんだろう?」 「いいの……?」 「ああ……」
2017-11-06 00:18:04「いいの?」と答える時点で、冷静に考えて彼女の意識は人間には戻っていなかった。 せいぜい、俺が与えた衝撃で、理性の皮一枚戻ってきたくらいだろう。 説明が抜けていた。 私は悪魔で、好きな人の血肉を喰らいたいという衝動に突き動かされているという、彼女の口からの説明が、欲しかった。
2017-11-06 00:22:35でも、もう俺にはそれは必要ない。 彼女にそれを説明する発想も余力もないし、彼女の衝動の中身を俺は彼女と一線交えてよく分かっていた。 それに……本当の彼女を、彼女の全てを受け入れるっていうのはそういうことだろう? なんだかんだ言って、俺も出血のせいでもう長くないのだから……
2017-11-06 00:28:23彼女は、もう立って歩くこともできなかった。 ズリズリと、残された両手と両足を駆使して身体を地面に這いつくばらせながら、ゆっくりと俺に到達した。 彼女に残された最後の力で、その両手によって俺の身体が引き裂かれてもいいと思っていたが、彼女はそれをしなかった。
2017-11-06 00:35:20壁に倒れ掛かっている俺の目の前で彼女は上半身を両腕で支え、俺の身体に顔を擦り付けるように、付着した血を愛おしく舐め取っていた。 「お前、我慢しなくていいんだぞ」 俺は、唯一動く左手を彼女の背後に回して、彼女の身体を引き寄せた。 「直に俺は死ぬから、その後は自由にしろ……」
2017-11-06 00:40:06温かい……怪人だって、悪魔だっていうから、もっと冷たいものだと思っていた。 彼女の温もりは、俺のよく知っているものだった。 左手で彼女の髪を撫でてみても、銀色に変わってしまった彼女の髪の感触だって、俺のよく覚えているものだ。 俺の前にいる彼女は、まさしく俺の知っている彼女だった。
2017-11-06 00:47:07「ごめんなさい……」 彼女がポツリとこぼした次の瞬間に、俺の首筋に彼女の吐息が掛かり、俺は首筋に少々の痛みを感じた。 恐らく、彼女が俺の肉を食べようと、その牙を突き立てているのだろう。 生きたまま肉を食われることを想像しただけでも鬼畜であるが、何故か俺は安堵感を抱いていた。
2017-11-06 00:52:15……そこから先の反応はなかった。 どんどんと彼女の体温が失われていくのを感じた。 そうか……結局俺の肉を食わせてやることはできなかったか。 でも、彼女と一緒に死ねるのなら、俺はそれでよかったなぁと、失われていく温度と、感覚と、意識の中で俺は両目を閉じたのだった。
2017-11-06 00:56:53