【完結】亜里沙のことが大好きな雪穂 短編(9)「私たちが歩む道」

■あらすじ  卒業する3年生に、最後の歌を贈る。そして、雪穂と亜里沙は、μ'sに対してある決意表明をする。スクールアイドルの原点をずっと抱きしめて。 ■主要登場キャラ  雪穂、亜里沙、穂乃果
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亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

明日のことを考えながら、お姉ちゃんのこの一年を振り返っていた。 生徒会長としては――個性的というか、独創的だった。なにを言い出すかわからないので、生徒会長の挨拶があるたびに、全校生徒の間に不思議な緊張感が広がった。いつ見てもこのときの海未ちゃんは胃に穴があきそうな顔をしていた。

2017-10-07 19:34:17
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

地味な仕事は最後まで苦手で海未ちゃん頼りだったみたいだけど、校内イベントへの意気込みはすごくて、球技大会なんかはお姉ちゃんの提案と交渉で、他校との交流戦を実現してしまった。とにかく抜群の行動力は、μ'sが終わったあともまったく変わらなかった。

2017-10-07 19:34:28
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

音ノ木坂は、スクールアイドルで有名な学校となった。知名度は一気に上がって、廃校は免れて、新入生はたくさん入ってきた。でもμ'sが――そして少しすればその元メンバーさえ――残らなくなったあと、本当にこの勢いが続くのか。お姉ちゃんもそれはわかっていたみたいだった。

2017-10-07 19:34:41
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

だから、大好きな音ノ木坂の魅力を、地元でもっと知ってもらおうと、地元で存在感をしっかり高めようと、半年間全力で走っていた。スクールアイドル活動もなお続けながら。お姉ちゃん自身が地元で有名人になっていたこともあって、突飛な発想に呆れられながらも概ね好意的に受け止められていた。

2017-10-07 19:34:51
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

生徒会から離れたあとは、やっぱりスクールアイドルは続けながら、かなり真面目に受験勉強をしていた。「海未ちゃんと同じ大学に行く」と、それはもう凄まじい執念を見せていた。見事に合格発表を受け取ったときは、私に抱きついて泣いて、海未ちゃんに抱きついて泣いていた。

2017-10-07 19:35:00
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「雪穂、いるー?」 お姉ちゃんのことを考えていたら、ノックの音とともにお姉ちゃんの声が聞こえてきた。 「どぞー」 返事をすると、少し遠慮がちに戸を開いて、お姉ちゃんが入ってきた。その顔を見た瞬間に、これは甘えたがってるときの顔だな、とすぐにわかった。やや照れながらはにかむ癖。

2017-10-08 18:28:30
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「どうしたの? 明日で学校行くの最後だから、寂しいの?」 「……うん。まあ、そうかな」 聞いてみると、お姉ちゃんは素直にそう応えた。まあ、無理もない。お姉ちゃんのここ二年間は、音ノ木坂を盛り上げるためにあった。これほど思い入れの深い場所もないだろう――とりあえず、この家を除けば。

2017-10-08 18:28:40
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「それに、雪穂と同じ学校行くのも、たぶん最後だし」 「……うん、たぶん」 大学も結局同じになる可能性はゼロではないけど。 「でも、お姉ちゃんのおかげで、今年は一緒になれたんだよ」 本当なら、同じ学校に通うのは三年前が最後になっていたはずだった。 「そっか……本当によかった」

2017-10-08 18:28:50
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

お姉ちゃんは嬉しそうに笑って、私のベッドに腰掛ける。 「楽しかったなー……まだまだ高校生続けたいなあ」 「受験勉強が永遠に続くよ?」 「あー、それはなしで……」 本気で嫌そうに顔をしかめた。私もいずれあんな顔になるのかもしれない。 「スクールアイドルも、終わりかあ」

2017-10-08 18:29:01
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

お姉ちゃんは、ぼんやりと上のほうを眺めながら、呟く。 「限られた時間の中で、精一杯輝こうとするスクールアイドルが好き――みんなが、あとに続いてくれて嬉しい――後悔もやれなかったこともない――でも、やっぱり、寂しいね。最後は夢を叶えるとか関係なくて、ただ、歌うのがすごく楽しかった」

2017-10-09 19:09:26
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「そうだね。お姉ちゃんはいつもすっごく楽しそうに歌ってた。だから、私も楽しくなれて……大好きだったよ」 「雪穂~~……ありがと……っ!」 「ううん。ありがとうは、私のほうだよ」 しっかりとお姉ちゃんに向き合う。 「私をここまで連れてきてくれて、ありがとう」

2017-10-09 19:09:42
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

お姉ちゃんがこんなに寂しそうな今だから、私も素直に言える。 私たちからμ'sへの言葉は明日贈る。私からお姉ちゃんへの言葉は、今日でもいいだろう。 「私はもう、お姉ちゃんを頼りないなんて思わないよ。きっと、なんでもできる力があるんだと思う。……危なっかしいとは思ってるけど」

2017-10-09 19:11:23
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

だから、きっと。 「お姉ちゃんなら、どこででも歌える。きっと新しい場所でまた新しい伝説を作るんだ。スクールアイドルじゃなかったとしても、μ'sと同じ経験はできないとしても、たぶんお姉ちゃんはずっと青春してるんじゃないかなって気がする。百才になっても。私はそれを――」

2017-10-09 19:11:31
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

ぐっと、拳に力を込める。 この言葉に、力を込める。 「ずっと、応援するよ」 「……っ」 私の顔を見つめながら真剣に聞いていたお姉ちゃんの、その目から、ぶわりと急に涙が溢れ出した。頬を伝って、ぼたり、とすぐに床に滴り落ちた。くしゃ、と表情を歪めて、涙を隠そうともしない。

2017-10-09 19:11:48
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

私は、しょうがないな、という仕草を見せながら、小さく笑った。 「泣くのは、明日まで取っておきなよ。どうせ明日はいっぱい泣くんでしょ」 「う……うん……っ……でも、無理だよぅ……雪穂に、こんな、こと、うっ……う……雪穂、雪穂ー……わたし、うれしい……ありがと……っ」

2017-10-10 19:33:59
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

ああ。駄目だ。そんなの見てると私までこみ上げてくる。 「……いいよ。頭撫でてあげるから、ほら」 「雪穂ぉ……」 言うと、お姉ちゃんはすぐに飛び込んできた。こんなに偉大で有名になったのに、妹に甘えるところは変わっていない。まあ……こんなこともいつまでできるかわからないんだし。

2017-10-10 19:35:20
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「……あー」 抱き合ったまま、何分くらい経っただろうか。 急に思い出したように、お姉ちゃんが照れながら顔を上げた。 「恥ずかしいくらい、思い切り甘えちゃった」 「たまには、いいんじゃない」 「雪穂が珍しくすっごい優しいんだもん」 「いつも優しいつもりだけどなあ」

2017-10-10 19:35:35
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「よし!」 お姉ちゃんが、気合いを入れて立ち上がる。 「雪穂にも力を貰ったし、明日は泣かないぞ! 笑って終わるぞ!」 きっと大泣きするんだろうなと思いながら、私は小さく笑って、ありがとっと元気に部屋を去るお姉ちゃんを見送った。 「おやすみ、お姉ちゃん」

2017-10-10 19:36:04
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

ついにこの日が来た――お姉ちゃんの、卒業式。お姉ちゃんが音ノ木坂の制服を着る最後の日。そして、私たちが歌と決意を贈る日。 「おはよ、亜里沙」 「おはよー! がんばろうね!」 教室には、亜里沙が先についていた。 「うん。亜里沙は今日も元気だね」 「雪穂は元気じゃないの?」

2017-10-12 19:29:46
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「んーーやっぱりちょっと切なさある」 「よしよし」 すぐに亜里沙は頭を撫でてくれた。うん。教室の中で、周囲にはクラスメイトも普通にいるんだけど。あまりに今さらなのか、もはや特別な注目を浴びることもなかった。すごい。色々とクラス公認。やりたい放題。

2017-10-12 19:30:04
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「大丈夫? 雪穂、ちゃんと言える?」 「うん、それは大丈夫。亜里沙が隣で支えてくれれば、なんでもできるから」 「愛の力?」 「もちろん」 「うん! 今日もいーっぱい愛をあげるね。雪穂の気持ち、全部伝えられるように」 「ありがと! 気持ちよく見送って、私たちも見送ってもらおう」

2017-10-12 19:30:48
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

そして、卒業式が始まった。 在校生代表は当然のようにお姉ちゃんで、結局私たちは最後の最後まで「今度はなにをやらかすのか」とハラハラする羽目になった。まあお姉ちゃんの長い思い出話が脈絡もなく続いて「とにかく熱意だけは伝わった」という、らしいけど大人しいものではあったんだけど。

2017-10-12 19:30:58
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

ただ、その大演説に対する拍手は、壮大なものだった。知ってはいたけど、やっぱりお姉ちゃんは学校の大英雄だと、この瞬間に改めて思い知らされた。学校のために全力で走った姿を、みんなが見ていた。結果を残した。もしかしたら、何十年後まで語り継がれるのかもしれない。

2017-10-12 19:31:08
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

卒業式が終わると、私たち一、二年生は屋上に集まった。歌の準備をしながら、最後のホームルームを過ごしているであろうお姉ちゃんたちを待つ。 歌の前に、二年生から三年生に言葉を送ることになっていた。 「私たちから、先輩たちみんなに話したいこともあります。少し時間をください」

2017-10-13 20:10:11
亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

私と亜里沙が並んで花陽さんに告げると、「あら、楽しみね」と真姫さんのほうが先に反応した。「もちろん。期待してるよ」「婚約発表かにゃ?」「さすがにそれは驚くわね」「時間の問題にゃ」「それはそうだけど」など色々と言葉は続いたけど、とりあえずOKということらしい。

2017-10-13 20:10:20
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