【完結】亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（９）「私たちが歩む道」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

こちら側はみんな元気そうで、問題なさそうだ。まあ、私たちの挨拶はこれからなんだから、まだ泣いている場合ではない。 そう思って先輩たちを眺めている間に、お姉ちゃんたちも屋上にやってきた。お姉ちゃんは……泣いていたんだなという顔をしている。私と目があって、えへ、と照れ笑いを浮かべた。

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「屋上も今日が最後かー」 「来るとしたら、学園祭のときくらいになるでしょうね」 「ここで見送ってくれるの嬉しいよ。ありがとう♡」 お姉ちゃんが、海未ちゃんが、ことりちゃんが、自然と横に並んで向かいに立つ。 「真姫ちゃんたちは一年、雪穂たちはまだ二年使えるんだよね。いいな！」

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お姉ちゃんの言葉に、真姫さんは目を細めて笑った。 「一年二年、大きなものを背負って守っていかないといけないものがある、ということでもあるのよ。そのプレッシャーを背負ってるのはこの二人だけど」 促されるように、前に出る。亜里沙といっしょに、手を繋いで。 偉大な先輩たちの前に、並ぶ。

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「私たちのスクールアイドル活動は、μ'sへの憧れから始まりました」 左側に三年生、右側に二年生を見て、言葉を紡ぎ始める。 「そんなμ'sに、技術面でも、精神面でも、たくさんのことを教わって、支えてもらって、とても恵まれていて、幸せでした。成長できたのは、先輩たちのおかげです」

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間違いなく、日本一恵まれた環境だった。こんなに支えてもらいながら、私たちはとても自由に楽しんでやってきた。 自分たちの活動に加えて私たちの世話までしてくれた先輩たちは、今も、こうして優しい目で見守ってくれる。 「そして、今の私たちを表現しきって、全力を出した大会で、負けました」

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「私達に勝ったのは、個人の夢を超えた、大きな希望とストーリーを持った子たちでした――μ'sがそうだったように」 スクールアイドルの力。それこそがμ'sが示したものであり、私たちがまた語り継いだものでもあった。ただ、私たち自身に、そんな世界を動かすほどの物語がなかった。

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「ラブライブに、スクールアイドルに、μ'sの思いはちゃんと引き継がれている。そういうことだと思います。私たちは、μ'sの力と思いを借りて、μ'sの壁に打ち砕かれました。以前言われたとおり、音ノ木坂のストーリーはもう完結しています。私たちに叶わせるべき大きな『夢』はありません」

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少し、先輩たちの表情が緊張してきているのがわかる。引退宣言にも聞こえるかもしれない――もちろん、そんなわけはない。 「μ'sは、これからも私たちの永遠の憧れで、伝説です」 「μ'sが作ったスクールアイドルの夢の世界を、ずっと大事にします」 亜里沙の言葉も加わる。 「そして――」

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ここで少し間を開けて、大きく息を吸う。 「私たちは、日本中のみんなの大きな夢と希望を肯定して、受け止めて、そのうえで、それを――打ち砕きます。勝ちます。たった一点『楽しさ』だけで」 だから。 「今日からμ'sは、私たちの、ライバルです」 これこそが私たちの独り立ち、その宣言。

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A-RISEがプロ並みのレベルの高さからスクールアイドルの世界を切り拓いて、μ'sがそこに物語を持ち込んで、「誰でもなれるスクールアイドル」まで広めた。みんなで叶える物語は、世界を動かすほどの力になった。でも、忘れてはいけない。μ'sだって単純に、ものすごくハイレベルだったのだ。

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みんなが夢を追って、大きな物語を背負ってるのは素敵だ。この流れはずっと応援したい。この、夢と希望を持って輝くみんなの姿が、μ'sが望んでいたものだから。 だったら、私たちは、その前に立ちはだかってやろう。誰よりも純粋にスクールアイドルを楽しんで、重しのない自由さを羨まれてやろう。

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μ'sの流れに乗っているのは、私たちじゃない。みんなが乗っている。私たちにとって「μ'sに続く」ということは、そういうことじゃなかった。μ'sが新しい世界を切り拓いたなら、次は私たちが新しい流れを作る番なんだ。 『大きな物語がない子も、楽しもうよ！　楽しいでしょ？』

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この流れのなか、恵まれた環境で、自由に歌う私たちは、夢を追う子たちには邪魔かもしれない。いいさ、邪魔してやろう。だって、世界の主人公たちには魔王だって必要なはずだ。 私たちはもう迷わない。二人が一緒なら、逆風だって超えられる。相手がたとえ、μ'sが作った世界そのものだとしても。

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「だから私たちは、これからも全力で笑って遊んではしゃいで……まああといちゃついたりしていきます！　それが私たちの進む道です！」 「はい！　雪穂と愛し合っていきます♡」 そういう総括。 しん……としたあと、「結局、婚約発表だったにゃ」という小さな声が聞こえてきた。

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「すごい！　すごいよ！　かっこいい！！」 ぱちぱちぱち、と手を叩きながら、お姉ちゃんが叫んだ。みんな、それに続いて拍手を始める。しばらく大きな音に包まれて、亜里沙と一緒に照れ笑い。 どんな反応があるかちょっと心配だったけど、これで少し安心できた。

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「成長したんだねえ……お姉ちゃんは嬉しいよ……うう」 「雪穂は昔から、穂乃果よりは大人だったと思いますが」 「海未ちゃんひどいっ！　私もそう思うけど！」 「でも、凛々しくなったよね。雪穂ちゃんも、亜里沙ちゃんも」 何度か聞いたようなお姉ちゃんたちのやりとりに笑って。

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「いいよ！　次は二人がみんなの目標になろう。μ'sとは違う道を見つけてくれて嬉しいよ！」 「まあ、やることは今までと変わらないってことよね」 「でも、負けたばかりでも迷わない軸を見つけたってことは、大きな意味があるよ」 お姉ちゃんに、真姫さんに、花陽さん。しっかり伝わっている。

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「これからも応援しますよ。……その、学生としての節度は保ってくださいね？」 「海未ちゃん、それは具体的にはどういう意味かなぁ？」 「それは……二人は少し、舞台の上でも親密すぎるといいますか……って、ことりは別に言わなくてもわかるでしょう！」 海未ちゃんとことりちゃんから、応援を。

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「先輩としてこれからもしっかり鍛えてやるにゃ！　もっと動き回ればきっともっと楽しいから！　特に雪穂ちゃんは！」 「はい！　走り回ってみせます！」 「私も頑張りますよ！」 凛ちゃんからはスパルタ宣言を。いや正直こわいけど頼もしい。正直凛ちゃんの特訓はすごくきついけど。がんばろう。

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「さ、二人の宣戦布告を聞いたところで、私たちから卒業生に――花陽」 「はい」 真姫さんの合図とともに花陽さんが前に出て、私たちはその後ろに下がる。自然と、まだ亜里沙と手を握ったまま。 「先輩たち、卒業おめでとうございます。高校生三年間、スクールアイドル二年間、お疲れ様でした！」

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いつもより大きめの、はっきりした声で、花陽さんは話す。一番控えめな人ではあったけど、今はそこに風格を感じる。部長として、いつも私たち全員をサポートして導いてくれた人だ。私も、こんな感じになれるだろうか。 「先輩たちが始めたμ'sで、私たちの人生は変わりました」

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「世界まで駆け抜けたあの一年間は、今思い返しても夢のようでした。大変なこともたくさんあったけど、九人で一緒に過ごした時間は、一生の思い出です」 お姉ちゃんたちも、懐かしそうに遠い目をしている。それは、私達には共有できない時間だ。最後のひととき、あの秋葉原でのお祭り以外は。

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「それまでただアイドルに憧れているだけだった私を――」 「女の子らしいこと無理だって思ってた凛を！」 「私の音楽は終わったと思っていた私を」 「こんなにも変えてくれました！　μ'sに出会えなかったときの高校生活は、今では想像できません。きっと先輩たちも同じだと思います」

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「この一年、いろんなユニットが組めたのも楽しくて素敵でした。これからは、私たち三人でやっていきます。どこかで見かけたら応援してくれると嬉しいです。そして、先輩たちの新しい夢と活動も、これからも追いかけさせてください。大好きな、敬愛する先輩たちへ――歌を、捧げます」

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二年生たちが前に、私たちが後ろに。音楽とともに歌い始める。お姉ちゃんたちに贈る感謝の歌。私たちに新しい世界をくれてありがとう。そして、新たな旅立ちに祝福を。真姫さんの優しいメロディに、みんなで考えた歌詞が乗る。 最初に泣いたのは、予想通り、お姉ちゃんだった。