【完結】亜里沙のことが大好きな雪穂 短編(9)「私たちが歩む道」
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お姉ちゃんの頭を、海未ちゃんが、ことりちゃんが、左右から優しく撫でる。二人で抱きしめながら、静かに私たちの歌に耳を傾けてくれる。 どうか心の深くまで届いてほしい。これが、高校生のお姉ちゃんたちに届けられる最後の歌だから。すべての気持ちを込めて歌うから。
2017-10-22 16:45:18お姉ちゃん。いつも矢のようにまっすぐ前だけ見て進み続ける無謀な勇者。いつの間にか集まった仲間から愛されて尊敬されて、とてつもないことを成し遂げた英雄。でも、いつまでも甘えん坊でいつもどこか抜けている私のお姉ちゃん。いつでも私が力になるから、ずっと目を輝かせて走り続けてください。
2017-10-22 16:45:29海未ちゃん。真面目でしっかり者。きっと自分でも自覚していなかった殻をお姉ちゃんに破られて、本当に表情豊かになった。たぶん、私と同じように。誰よりもお姉ちゃんから信頼されている海未ちゃんが、自分の道を行きながらも、ずっとお姉ちゃんを支えてほしい。これからも穏やかな笑顔で。
2017-10-22 16:45:43ことりちゃん。お姉ちゃんと海未ちゃんの間で、そして私たちやみんなの間にいて、いつも優しくて穏やかな雰囲気を作ってくれた。とても可愛くハイレベルな衣装で私たちの世界を彩ってくれた。きっと何十年経っても可愛いことりちゃん、世界に羽ばたいても私たちを見守っていてください。
2017-10-22 16:45:55凛ちゃん。元気で可愛らしくてとっても乙女な、誰からも愛される先輩。私たちが目指す楽しいアイドルという道にとっても、一番のライバルになる。特に私をとても可愛がってくれた、その恩返しにも、もっと私も舞台ではしゃぎまわりたい。でもスパルタ特訓はちょっとだけお手柔らかにお願いします。
2017-10-23 20:05:31花陽さん。誰よりも情報通で、マメで、いつも部を支えてくれる本当に頼りになる部長さん。温かくて優しい、名前通りの先輩。常に一歩引いてるような控えめな人だけど、ここぞというときにはいつも的確なアドバイスをくれた。来年から後輩ができる私も、あなたのようになりたいです。
2017-10-23 20:05:42真姫さん。作る曲はどれも印象的でイメージに的確。忙しいなか、亜里沙のことをしっかりと育ててくれた。とてつもない美人で、天才。完璧超人みたいな人だけど、仲間内からは弄られポジションで、その隙がまた可愛い。どうか、これからも音楽を続けて愛してほしいと、私は願っています。
2017-10-23 20:05:50亜里沙。世界一可愛い、私のアイドル。隣にいてくれてありがとう。支えてくれてありがとう。手を引いてくれてありがとう。ついてきてくれてありがとう。私はあなたの輝きを、無邪気な笑顔を永遠に守りたい。あなたがずっと遠くに羽ばたくときも、側にいるのが私であれば、これ以上の幸せはない。
2017-10-23 20:06:13「卒業、おめでとう」 歌い終わって、花陽さんがかすれた声で言った。その頬を伝わる涙が地面に落ちる前に、凛ちゃんが駆け出して、お姉ちゃんに抱きついた。 堰を切ったように溢れ出す鳴き声。みんなで抱き合う先輩たち。 躊躇する私の手を引いてくれた亜里沙と一緒に、私もその中に飛び込んだ。
2017-10-23 20:06:40さんざん泣いて、ごちゃごちゃになって語り合って。 いい加減みんなもう声が枯れたという頃になって。 「だって可能性感じたんだ――」 お姉ちゃんが、空に向かって、歌いだした。 さすがに長い付き合いだけあって、海未ちゃんとことりちゃんがすぐに続いて歌う。
2017-10-24 19:53:13お姉ちゃんが、私たちのほうを見て、微笑む。 やっぱり最初は凛ちゃんが飛び出して、花陽さんと真姫さんが遅れて続いた。私は亜里沙と目を合わせて、笑って、続いて歌いだす。 声なんてほとんど出やしないのに。でも今は誰もそんなことなんて気にしない。私たちが、私たちのためだけに歌うんだから。
2017-10-24 19:53:36練習なんてしていないからダンスもめちゃくちゃ。お姉ちゃんに誘われて二人で適当に絡んでると、お姉ちゃんが海未ちゃんに引っ張られて、私が亜里沙に引っ張られて引き裂かれた。離れたところでは花陽さんが真姫さんの背中を押して、凛ちゃんに飛び込ませていた。抱きしめて受け止める凛ちゃん。
2017-10-24 19:53:47くるくると舞い、走る。適当に目についた相手に絡む。演奏もないまま枯れた声で歌う。なんてでたらめで、なんて楽しい。 ああ。そうだ。私たちはスクールアイドルだ。歌って踊って笑って、ほら、こんな楽しい。みんなで歌って動いて、幸せ。これでいい。 別れの日だって、笑ってしまおう。
2017-10-24 19:53:58この単純な真理を、ずっと忘れずにいこう。 そうすればきっと、楽しさはもっと広がり続けるから。 ひとつの終わりと、ひとつの始まりに、幸あれ。
2017-10-24 19:54:12「まあ、元気な顔を見せて、いっぱい話してきなさい」 「おみやげ楽しみにゃ!」 「気をつけてね。次に会うときはもう私たち三年生だね」 一年ぶりの空港。あの日は亜里沙と一緒に、先輩たちを見送った。 今日は亜里沙が見送られる番。こうして、凛ちゃんたちと一緒に見送りに来ている。
2017-10-25 19:38:05「ありがとうございます! スクールアイドルのこともいっぱいお話してきます!」 元気いっぱいの亜里沙の声。すぐに帰ってくるとわかっているから、しんみりした空気はない。ああ、でも、きっと、急に本当の別れになる日がくる可能性だってあるのだ。そんなことをちょっと考えてしまう。
2017-10-25 19:38:18もし、向こうでなにかあって、戻ってこられなくなったりしたら――考えすぎだ。だからって急に転校なんてわけにもいかないはずで。 「そろそろお邪魔な私たちは退散しましょ。あとは――ごゆっくり」 真姫さんの楽しげな声で我に返る。言うが早いか、すでに踵を返して私たちから距離を取っていた。
2017-10-25 19:39:49「真姫ちゃんは、人のことならあんなに余裕たっぷりでかっこいいのににゃー」 「ふふ、そうだね」 「どういう意味よ!」 「きゃー、真姫ちゃんに襲われるにゃー」 ……だんだん声が離れていく。あっちはあっちで楽しそうで気になる。 亜里沙もくすっと笑い、そして私の目をまっすぐに見つめた。
2017-10-25 19:40:36「……行ってくるね」 「うん。寂しくなるけど、浮気したりなんかしないから安心して」 「この前のは冗談だから気にしないで! 心配なんてしてないよ、雪穂は私だけに夢中だから」 「……う……うん」 「ん、やっぱり雪穂の照れ顔、可愛いっ」 「からかわないのっ」 「でも全部本気だからね」
2017-10-25 19:40:59「帰ってきたら、私たちも先輩スクールアイドルになるんだね」 「人に教えられるほどの技術、持ってるかなあ」 「魅惑的な脚の作り方なら私も教えてほしい」 「それいまだに自分ではよくわからないんだけど! ってこんなところで触らないのっ」 「だってしばらくすりすりできないんだもん……」
2017-10-26 20:23:57ため息を付いて、苦笑い。こういうときも亜里沙のほうがいつもどおりで落ち着いてるな、と思う。 「もう。帰ってきたら好きなだけ触っていいから……ね?」 小さな声で呟くと、亜里沙は目をぱちぱちさせて、ぎゅっと私の服を掴んだ。 「……録音するから、それもう一回言って?」 「やだよっ!?」
2017-10-26 20:24:09「……じゃ、はい、これ。忘れないうちに渡しておくね」 準備しておいた小包を亜里沙に手渡す。 「ん? なあに?」 「亜里沙と、亜里沙のご両親にプレゼントだよ。ご両親と一緒に開けてね」 「わ、ありがと! 楽しみだなっ」 私も楽しみだ。読んだときの反応が。 「それじゃ、亜里沙――」
2017-10-26 20:24:24そろそろ時間だ。うん、と亜里沙は頷く。私から両肩を抱いて、そっと顔を近づけて、目を閉じる。 唇に柔らかい感触。もう何度も味わっていて――少しの間、お預けになるもの。このまま貪ってしまいたい。でも、さすがに、今は駄目だ。ほんの一瞬で、離れる。大丈夫、まだ次があるから。いつまでも。
2017-10-26 20:24:58「元気でね」 「雪穂もね」 繋いでいた手が離れる。最後に亜里沙は、私と、後ろの先輩たちに向かって大きく手を振った。遠くなったところで、すうっと息を吸う。 「愛してるよー!」 叫んだ。 「私も愛してるー!」 振り向きざまの返事は、間髪入れず返ってきた。 後ろから、笑い声が聞こえた。
2017-10-26 20:25:32