はぁ……なりてぇ……最終形態に……

最近ちょっと最終形態ご無沙汰で なんかこうピクリともしないんだけど レベル99の勇者と戦わないと いけなくて憂鬱…… 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

「はー…馬鹿でよかった…本当に馬鹿でよかった…まあ馬鹿だから位階九十九とかまで飽きもせず鍛錬するんだろうな。もっとほどほどのところで来いよ。我の初期形態で返り討ちにできるぐらいの未熟さで…しかし冥界の龍神

2017-12-05 21:29:58
帽子男 @alkali_acid

「元気なご老体だったな…死ぬ直前まで最終形態になって、さらってきたきれいどころの乙女等をこう、左右に侍らせて…あれもなんか飲んでたのかな…そういえば最近我も姫をさらったりとかしてないな…勇者が救い出した王女も人質にと思って捕まえたっきり洞窟に入れて放っておいたやつだしな…」

2017-12-05 21:32:10
帽子男 @alkali_acid

「なんかこう…最終形態になれなくなってから、何もかもやる気が出なくて、おざなりになったな。我も昔はこうではなかった。あの戦い、攻め寄せる騎士団の轟くような蹄の響き、煌く甲冑。雨と降る弓矢に火球。我はたった一柱、哄笑しつつ迎え撃ち…つまんね

2017-12-05 21:34:20
帽子男 @alkali_acid

もうどうでもよいわ…もうよい。どうせあの頃は戻って来ぬわ…なにが最終形態だ。変身できなきゃ魔王失格とか古い考えよ。むしろ自由。魔王という役割から自由になった我。すがすがしい。意外性もある。え?魔王なのに変身して最終形態にならない?紳士?みたいなね」

2017-12-05 21:36:06
帽子男 @alkali_acid

「…はー…死にてえ…もういっそ神威滅邪斬とかいうの初期形態で食らって消滅しようかな…いや、つらい。死ぬときは派手に逝きたい。世界を揺らして、何回も閃光を放って、ゆっくりと手足の先から崩れてゆきながら、不吉な予言とか残したい」

2017-12-05 21:37:59
帽子男 @alkali_acid

「魔王だもん…ずっと魔王やってきたのに…そんな“え、こいつ変身せずなんの盛り上がりもなく死んで終わり?”とか語り継がれるの耐えられない…裏にもっと強大なやつがいるのでは?みたいな消化不良の期待させといて特になにもなしとか…耐えられぬ!!!

2017-12-05 21:39:05
帽子男 @alkali_acid

「うう…原初の邪精霊よ、混沌の父よ…どうか我にあと一回…あと一回だけ最終形態になるお力をお与え下さい…どうか…」

2017-12-05 21:40:00

帽子男 @alkali_acid

三度目の正直だ…魔王よ…今日は容赦せん…私の一存でこの世界を危機にさらしたままにはできん」 「おう!かかってこい!」 「いくぞ!!イヤー!!」 「グワー!」 「イヤー!」 「グワー!」 「イヤー!」 「グワー!」 「イヤー!」 「グワー!」 「イヤー!」 「グワー!」

2017-12-05 21:42:08
帽子男 @alkali_acid

「げほ…げほげほ…腕をあげたようだな…勇者よ」 「いや、というか魔王よ。貴様前よりもさらに弱く…?力が萎えて」 「萎えてない!!その言い方はよせ!」 「うむ?」 「いくぞ!!我が最終形態!!」 「おう!!」

2017-12-05 21:43:31
帽子男 @alkali_acid

「ふんぬ!」 「く!煙!…魔王やつはどこへ」 「ここだあ!勇者よ!」 「ぬ!それが最終形態だと!!なんと…禍々しい!!巨大な翼、ぬらぬらと光る鱗、三つの瞳に無数の牙、棘のついた尾に、剣のような鉤爪…まさに伝説にある通り…」 「さあ!!ぶつけてこい!神威滅邪斬とかいう技を!!」

2017-12-05 21:45:44
帽子男 @alkali_acid

「いくぞおおおお!!神!威!滅!邪!」 「おお、青白い炎が聖剣をおおってゆく…あれが勇者の必殺技か…かつて我と一騎打ちにのぞんだ騎士団長をも超える技のキレ相手にとって不足なあっ(ビリッ」 「!?」 「(ビリリリリ…ズポッ…ドサッ)」 「着ぐるみ…?」

2017-12-05 21:47:22
帽子男 @alkali_acid

「…」 「…」 「…これは」 「…急ごしらえが…仇になったか…」 「魔王、貴様まさか」 「く、くくくく…く…」

2017-12-05 21:48:24
帽子男 @alkali_acid

「ああ、そうとも!その通りだ!!我はもうね!ここ数年というもの!」 「はじめから…最終形態などなかったというのか」 「えっ」 「人の恐怖が、憎悪が…醜い幻影を作り出していただけ…あれは…初めから」 「その解釈はさすがに無理があるんじゃないかなぁ…あ、いやよく気づいたな勇者よ

2017-12-05 21:50:29
帽子男 @alkali_acid

「今までの戦いはすべて…この私の独り相撲私の闇への恐れが…魔王、お前を邪悪な存在に見せていたということか」 「…うん、うん…?」 「たしかに、くもりなき眼で見れば、なんと貧相で、みじめで、弱々しくくたびれた存在だ…私はこんなものを討とうとしていたのか」 「な、なにを」

2017-12-05 21:52:03
帽子男 @alkali_acid

すまなかったな。魔王よ…貴様を…悪を生み出してしまったのは我々人間の弱い心だ「おい」 「もはや…この城を騒がせることはしまい」 「おい、おい」 「静かに…穏やかに生きてくれ」 「ちが…」

2017-12-05 21:53:17
帽子男 @alkali_acid

魔王の最終形態…それは人の心が生み出した影…そして…闇雲に戦うのではなく許し受け入れることこそ真の平和なのだ」 「…違うわ!我はちゃんと!本当に!!!昔!王国一の騎士団長と」 「もういい。もういいんだ魔王…いや、精霊王よ」 「なんだその名前!?勝手にこじつけるでないわ!」

2017-12-05 21:55:07
帽子男 @alkali_acid

「貴様がもとは決して人を傷つけられるような存在でなかった必ず民に伝える王女にも陛下にも…本当の貴様は、萎えて、しなびて、かわいそうな生きものなのだと」 「やめ、やめろおお!!」 「さらばだ…永遠に…」 「こ、殺せえ!!!我を殺していけえ!!頼む!!殺せえ!!!うぁあああ!!」

2017-12-05 21:57:24
帽子男 @alkali_acid

こうして、長きにわたる闇と光の戦いは終結した。勇者が持ち帰った真実に人々は驚いたが、その言葉にこもる力強い響きに説得され、かつて恐怖と憎悪のまなざしをむけていた闇の城を、以降はほのかな憐れみと優しさで見つめるようになったという。

2017-12-05 22:00:00
帽子男 @alkali_acid

「あそこに、いるんだなあ。萎えたやつが」 「おかあさん!今日は天気がいいから、なえたおうさまのおしろがよくみえるよ!」 「はあ。萎え王さまさ今日もぐったりしてらっしゃるだかなあ」

2017-12-05 22:01:03
帽子男 @alkali_acid

かくして王国は長い繁栄のときを迎え、 勇者と王女は船に乗って新天地を求めて旅立っていった。 二人のゆく先々で、萎えた王と存在しなかった最終形態の物語は口伝に広まり、 憎悪や恐怖がもたらす闇を戒める叙事詩(バラッド)としていつまでも炉辺で吟じられるようになった。 めでたしめでたし

2017-12-05 22:05:31