「ニコニコ売春」から考える「自発的な売春」について

読みながら感想を書いていく読書実況。 末尾に全体感想を付けてフィニッシュです。 過去の読書記録はこちら→ https://togetter.com/li/1144604
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波島想太 @ele_cat_namy

買春ツアーの行き先には当時米軍統治下にあった沖縄もあり、やがて東南アジアへシフトしていく。本書では「ジャパ行きさん」として触れているがここでは割愛する。

2017-12-07 14:48:13

「ニコニコ売春」とは

波島想太 @ele_cat_namy

いよいよ本題であり本書のタイトルでもある「ニコニコ売春」についてである。従来の売春婦は経済的苦境などからやむを得ず身体を売るものであったが、自らの意思で、さしたる忌避感、嫌悪感も持たずにニコニコと売春をしているというものである。作者の造語ではないが、その語源については詳しくない。

2017-12-07 14:57:51
波島想太 @ele_cat_namy

ちなみにウィキペディア等にも項目はなく、一過性の流行語のようなものだったのかもしれないが、とにかく自発的に身体や使用済み下着を売る女性が登場したことを、著者は驚きをもって受け止めている。

2017-12-07 15:01:47
波島想太 @ele_cat_namy

本書では「ニコニコ売春」の事例を紹介している。演劇コースのある高校に通い、ピアノを習い、バンドを組んでキーボードを担当していた。中原中也や澁澤龍彦を愛好し、卒業後独り暮らしを始めると、多くの本に囲まれた独り暮らしを始める。

2017-12-07 15:14:05
波島想太 @ele_cat_namy

やや衝動的な部分があり、バイト先で出会った男性と恋に落ちて同棲を始めるやまもなく妊娠する。妊娠三ヶ月で相手の男性が引ったくりで2、3年の実刑を受けると、彼女はファッションヘルスで働き始める。妊娠中なのにというのも異様だが彼女の両親が承知していたのも理解を越えると著者は言う。

2017-12-07 15:18:13
波島想太 @ele_cat_namy

出産自体は夫の実家近くで、費用は夫の両親持ちでしたというから、ヘルス勤めは出産のためということでもない。彼女は赤子を連れてすぐに上京、高級なマンションを借り、深夜まで預かってくれる私立託児所に子供を預けてまたヘルス勤めを再開する。

2017-12-07 15:20:46
波島想太 @ele_cat_namy

やがてヘルスに勤めながらバレエを習い英会話を習い、子供を生家に預けて短期だがシアトルへ留学する。著者にその女性のことを話してくれた女性編集者によれば、服装や化粧などもきれいにしていて、悲壮感はまるでないという。

2017-12-07 15:23:44
波島想太 @ele_cat_namy

「岡崎京子の“PINK”というマンガはご存知ですか。ホテトル嬢が主人公でセンセーションを巻き起こした作品ですけど、あの主人公が彼女の姿にぴったり重なるんです。“あれが欲しい、こんなことしたいけどお金がないよーん”なんての大嫌い。それなら体で稼げばいいじゃんって感じで」

2017-12-07 15:26:42
波島想太 @ele_cat_namy

「それもそれを豪語するのでなく実に淡々とやっているのです。一見気が弱そうな無口でボーッとした可愛らしい雰囲気なのですが、一度決めたら誰にも相談せずさっさとやってしまう実行力、それと先のことはあまりくよくよ考えない。“今こうしたいからこうするんだ”という思いきりのよさです」

2017-12-07 15:29:05
波島想太 @ele_cat_namy

「彼女」が極端な事例なのかよくある事例なのか本書からはわからないが、以後も彼女の破天荒な人生が続く。その得意な価値観に圧倒されつつも、同年代の女性編集者との間の距離感が興味深い。 女性編集者は怪しげな事業に誘われたことで以後疎遠になったが、「彼女」の生き方自体を否定していない。

2017-12-07 15:32:40
波島想太 @ele_cat_namy

ただ、自分は「彼女」のようにニコニコと売春ができるかといえば、それは無理だと言う。「彼女」とて好きで見知らぬ男と性愛を交わしていたわけではないだろうが、それでも自分のしたいことを経済的理由で諦めるくらいなら、稼ぎのよいバイトと割り切ることもできたのだろう。

2017-12-07 15:40:12
波島想太 @ele_cat_namy

その後、著者は何人かのソープ嬢に聞き取りをする。嬢たちの話をまとめると案外ソープ嬢たちの学歴は高かった。中には低学歴(あるいは何らかの障害を抱えている女性)もいたが、そうした嬢はヤクザやヒモに縛られ搾取されることが多く、一方で高学歴ソープ嬢は「自分のため」に働いていた。

2017-12-07 15:55:53
波島想太 @ele_cat_namy

お金を貯めて店を持ちたいが、OLでチマチマ働いてもなかなか貯まらない。この商売が手っ取り早いと嬢は言う。OL時代の職場の男はただやりたいだけで言い寄ってくるし、結婚といってもセックス付きの家政婦が欲しいだけに見えた。それならやりたい一心でソープに来る男の方がまだ可愛く思える。

2017-12-07 15:59:56
波島想太 @ele_cat_namy

別の嬢は、「いいなと思った服がすぐ買える」と語った。先の嬢のように将来を見据えてこの仕事をするのは少数派で、「人よりいい暮らしがしたい」という動機が多いという。この辺も「最貧困女子」で同様の状況が語られている。

2017-12-07 16:06:24
波島想太 @ele_cat_namy

確かに彼女たちに悲壮感はない。「仕事なんて誰だって辛いものでしょ」といった具合である。 著者は本書の20年前(70年代)に従軍慰安婦に関する本を出版した際、それを読んだ女性たちに「売春を強制された女性の苦しみや悲しみがわかっていない」と取り囲まれ説教されたことを懐かしく思う。

2017-12-07 16:10:42
波島想太 @ele_cat_namy

(90年代の)今や売春の是非など問題にもならない。もちろん心からニコニコと笑って売春するわけではないが、サラリーマンが会社に対して抱くくらいの感情でしかない。 とはいえ(と逆接を連ねることになるわけだが)「ニコニコ売春」という言葉は、買う方の罪悪感を軽減することにはなるまいか。

2017-12-07 16:19:47
波島想太 @ele_cat_namy

「万引き」と言葉を変えてみても窃盗である。「いじめ」と濁してみても暴行や傷害等といった人権侵害行為である。「ニコニコ売春」と言ってみたところで、ちゃんと女性に働く口があれば、性を売る必要などないのである。

2017-12-07 16:23:20
波島想太 @ele_cat_namy

著者も「ニコニコ売春」という言葉の欺瞞を指摘しようとしてはいるが、本書の中では結論には至っていないようである。94年当時すでに70才の著者にとって、その価値観は理解の範疇外でも仕方ないかもしれない。

2017-12-07 16:30:36
波島想太 @ele_cat_namy

真っ当な仕事で男性並みの稼ぎがあったとしても、店の開業資金など簡単に貯められるだろうか。売春は不快で不本意かもしれないが、稼ぐ手段があるだけマシという考え方もできるだろうか。非常に難しいところである。

2017-12-07 16:34:11
波島想太 @ele_cat_namy

たとえばワタミの創業者は佐川急便で猛烈に働いて開業資金を貯めたというが、2017年現在、佐川でもどこでもそんな風に稼げる場所はあるだろうか。なんてことを考えると、日本がこの二十年で失ったものなどにも想像が及ぶわけであるが、本書の範囲を越えるのでそれは別の機会とする。

2017-12-07 16:37:23
波島想太 @ele_cat_namy

togetter.com/li/1178720 例によって最後がグダっとしてしまいましたが本書もここまでといたしとうござりまする。どうもありがとうございました。

2017-12-07 16:39:11
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