ZK -瑞雲仮面-　＃７

劉度 @arther456

「……ッ！」同胞を沈めたのは、これが初めてだった。「……オオオオオッ！」言葉にならない不快感を、雄叫びで押し殺す。犠牲は出したくなかったが、こうなった以上、ためらっていられない。カタパルトを展開し、ありったけの瑞雲を上空に射出、制空権を守る。22

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「沈めぇっ！」欧州棲姫の主砲が火を噴いた。戦艦の主砲にも耐えられる装甲空母姫だが、姫の攻撃ともなれば話は別だ。大きく旋回して砲弾を避ける。その途中で、戦艦棲姫たちが主砲を構えていることに気付いた。欧州棲姫の砲弾は囮、こちらが本命か！23

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「瑞雲！」頭上の機体に命令を送り、爆撃を敢行させる。戦艦棲姫たちは爆撃機に気を取られ、狙いが乱れた。装甲空母姫の両サイドで水柱が上がる。飛沫を被りながら装甲空母姫は戦艦ル級に向けて砲撃！ル級は両腕の艤装を盾にして、これをなんとか防いだ。24

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直後、ル級の足元が爆発した。砲撃は囮、本命は雷撃だ。不知火が使っていた戦術だが、中々に効果的だと、装甲空母姫は感心する。そして、自分の足元に迫る魚雷を機銃で迎撃する。水雷戦隊はまだ遠い。「潜水艦か」言うが早いか、彼女は対潜ソナーを起動させた。25

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５体、いや、６体。瑞雲たちに場所を伝え、対潜攻撃を行わせる。低空飛行を始めた瑞雲を狙って、深海の戦闘機隊が襲いかかる。それらに向け、彼女は主砲を撃った。放たれた砲弾は空中で炸裂、無数の火の玉となって戦闘機隊を焼き尽くす！「何だその砲弾は！」「三式弾だ」26

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「人間の兵器を……！」怒りは隙だ。動きを止めた欧州棲姫に、装甲空母姫は主砲を放つ。しかし、割って入った戦艦棲姫に防がれた。「チッ」舌打ちしてしまう。彼女の砲では、戦艦棲姫たちの分厚い装甲を抜くことができない。アレをなんとかしなければ、欧州棲姫を倒すことはできない。27

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戦いながら装甲空母姫は考える。魚雷、爆撃、どちらも火力が足りない。装甲空母姫が生まれ持った力では、戦艦棲姫を倒すことはできない。ならば。「……試してみるか！」装甲空母姫は手を掲げる。空間に紫電が奔り、異次元への穴が開く。「ッ！させないわ！攻撃を集中させなさい！」28

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砲弾が飛んでくる前に、装甲空母姫はその場を離れた。異次元への扉は開いたままだ。水雷戦隊が追いかけてくる。魔力は扉と瑞雲の維持に回しており、主砲も副砲も使えない。頼れるのは外付け武装のみだ。彼女が艤装の中から取り出したのは、バネ式対戦車砲、PIATだ！29

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「喰らえっ！」向かってきた軽巡に向け発射！弾頭は奇跡的に顔面を捉え、一撃で吹き飛ばした。同時に、PIATのバネ機構が壊れた。「ちっ！」敵はまだいる。彼女はPIATを投げ捨て、銃を取り出した。砲ではない、銃だ。それを駆逐艦に向け、狙いを定めて引き金を引く。30

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わずか7.56mmの銃弾が、駆逐艦の装甲を抉り、爆散せしめた。技研の試作艤装の１つ、砲弾と同じ威力を持つアサルトライフルだ。「ぐうっ……！」装甲空母姫を反動が襲う。戦艦でもなければ耐えられないだろう。そしてこの銃、威力は駆逐艦の主砲と同程度しかない。つまり失敗作である。31

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しかし、今は無いよりマシだ。彼女は銃撃で次々と水雷戦隊を蹴散らしていく。ガキ、と異様な音が響いた。引き金を引いても弾が出ない。弾詰まりだ！「くそっ！」魚雷を避けた彼女は、すれ違いざまに銃床でロ級を殴りつける。ロ級はもんどり打って倒れた。そして銃も壊れた。32

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続いて、彼女は槍を取り出した。ホームガード・パイク。鉄パイプに銃剣を溶接しただけの、英国版の竹槍だ。それでも魔術で強化し、装甲空母姫が握れば。「ハアッ！」重巡すら貫く、必殺の武器になる。すぐに引き抜き、横薙ぎに払い、背後の駆逐イ級を殴り飛ばす。33

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そこに重砲弾が降り注いだ。「ぐうっ！？」肩に直撃、右腕にヒビが入る。欧州棲姫が味方もろとも砲撃したのだ。当然、周りにいた駆逐艦たちは巻き添えを食って大破している。「いい加減にしろ、フッド……！」我慢の限界だった。そして、時間も十分に稼いだ。34

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【第2次スパロボOG】 LOST CHILDREN 【BGM】 youtu.be/EdLFKOhR1qo @YouTubeさんから

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「来いっ！」はるか後方、異次元の扉に向け左手を掲げる。扉が空間ごと大きく脈動し、そこから何かが飛び出した。装甲空母姫の身の丈ほどの大きさのあるそれは、自律航行し、猛スピードで彼女の元へと向かう！「させるかあっ！」欧州棲姫が砲撃するが、装甲空母姫は紙一重で避け続ける！35

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「来い……っ！」強く念じる。それは武器ではない。艦でもない。彼女の半身。フューリアスという船を形作り、後に分かれたもののひとつ。その名を叫ぶ。「ロォォォド・クラァァァイヴ！」フューリアスがその手に掴んだのは、身の丈を超える長さを持つ巨砲だった。36

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フューリアスは世界初の航空母艦である。しかし、最初は巡洋艦として作られた。それも、バルト海沿岸砲撃専用という、奇怪な肩書きがついた船だ。フューリアスの魂を色濃く受け継いだ装甲空母姫は、そのおかげで、空母と巡洋艦、両方の性質を手に入れた。37

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だが、彼女の原点である主砲だけはどうしても復元することができなかった。その話を聞いた提督は、横須賀技研や魔術の専門家、インド洋の遭難宇宙人にも相談した。そうして完成したのが、深海棲艦の為の艤装、式神を宿らせたモニター艦型アンドロイド、ロード・クライヴだった。38

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装甲空母姫はロード・クライヴを腰だめに構え、狙いをつける。実戦で使うのは初めてだったが、利き手で物を取るように、しっくりきた。戦艦棲姫たちが、欧州棲姫の盾になる。２隻がかりなら防げると考えたのだろう。正しい判断だ。しかし、装甲空母姫はためらいなく引き金を引いた。39

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耳をつんざく轟音、視界が眩む閃光、全身を襲う衝撃。撃ち出された砲弾は、1体目の戦艦棲姫の胴を貫通し、2体目に突き刺さり、大爆発を起こした。フューリアスが最初に積んでいた地上攻撃用の単装砲、その口径は45.7cm。大和に次ぐ規格外の巨砲は、姫をも貫く破壊力を備えていた。40

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「キャアアアアア！？」悲鳴が上がる。欧州棲姫の胴に砲弾の破片が突き刺さる。「……ひいっ！」ボウガンを放り出し、自分の腹を抑える。「や、やめて、爆発しないで！」当然、この程度の負傷で、姫は爆沈しない。ホッとして顔を上げる欧州棲姫。その肩に、槍が突き刺さった。41

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「あぐっ！？」爆炎の中を突っ切った、装甲空母姫の槍だった。「外したか……！」心臓を狙っていたが、目も眩む炎の中で狙いをつけるのは難しい。彼女は欧州棲姫を蹴りつけ、槍から引き剥がす。右手があればそれで振り回せたが、さっきの砲撃の反動で吹き飛んでしまったから、仕方がない。42

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「あなた、その腕……！」欧州棲姫が目を見開く。「なんだ、腕一本で怯むと思ったか？この程度で怯んでいては、ロイヤルネイビーは務まらん」フューリアスは、大戦を戦い抜いた船である。首都にミサイルが降り注ぐ毎日を潜り抜けた彼女にとって、この程度は苦境の内にも入らない。43

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「武器を取れ、フッド！皆殺しなどと嘯くなら、腹にヒビが入ったぐらいでガタガタ言うんじゃないっ！」砲を撃つなら避ける。剣を振るうなら受け止める。あらゆる出方を伺いながら、装甲空母姫は敵を睨み据える。それに対し、欧州棲姫は。「……くううううっ！」背を向けて、逃げ出した。44

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「……なっ！？」あまりの行動に、装甲空母姫は呆気にとられ、初動が遅れた。「待て、待てバカ！？」慌てて砲を構えるが、巡洋戦艦の足は速い。命中弾が出る前に逃げられてしまった。「……どういうことだ？」困惑していると、レーダーが新たな艦影を捉えた。45