CT(貨幣循環理論)からMMT(現代金融理論)へ

Bill Mitchellの翻訳をしつつ思ったことを纏めました。
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

MMTネタ。最近、ビル・ミッチェルによるCT批判記事を訳したので、それに関連して、CTとMMTの関係(というよりfrom CT to MMT?)を論じたいと思う。 CTというのは、貨幣の信用理論とほとんど同義で、生産-消費における信用貨幣の運動を理論化したもの。

2017-12-18 22:42:54
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

CTにおいては、銀行、企業、家計があり、まず企業が銀行から借入を行い、それに応じて銀行が信用貨幣を新規発行する。企業は資本購入ないし賃金としてその信用貨幣を支出し、それが家計の収入となる。家計は、その収入を企業生産物の購入に用いて、企業はそうして稼いだ信用貨幣を返済する。

2017-12-18 22:44:34
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

CTでは、生産において信用貨幣が創造され、消費において信用貨幣が償却・破壊される。 現実の信用貨幣経済の運動の骨格を鮮やかに表現している理論で、MMTも、非政府主体間水平取引に限れば、このCT(サーキット・セオリー)の説明を受け入れている。

2017-12-18 22:47:23
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ただし、CTの中には政府は出てこない。それどころか、CT(及び貨幣の信用理論)では、この信用貨幣運動理論に照らし合わせて、非生産的な政府の支出は、必ずインフレ的であると結論付けてしまう。これは、現実の経済的事実(詰みあがる政府の赤字と、上がらないインフレ率)を説明できない。

2017-12-18 22:49:19
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

それだけでなくて、CT単体では、いくつも説明できない経済事実がある。 まず、CT単体では、なぜ信用貨幣単位に政府通貨単位(日本なら円、アメリカならドル)が借用されているのかがわからない。 次に、CTの場合、非政府主体(民間)は純資産を持たず、したがって純貯蓄が形成できないことになる。

2017-12-18 22:50:49
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

まずは後者の問題から。 CTでは、民間の(潜在)貯蓄需要を満たす分だけ民間の借入が生じている場合のみ、経済は"均衡"する。 これは極めて特別なケースだろう。 したがって、もし民間の借入が相対的に不足する場合は、財政赤字により民間純貯蓄を提供しなくてはならない。 twitter.com/motidukinoyoru…

2017-12-18 23:18:29
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

次に前者の問題に移る。 なぜ、(銀行)信用貨幣は、国家貨幣単位を借用するのか。 それ以前に、そもそも銀行信用貨幣は、あくまで国家貨幣単位を「借用」しているに過ぎない、ということを十全に理解しておく必要がある。 銀行預金の"円"は、本来の"円"そのものではない。 twitter.com/motidukinoyoru…

2017-12-18 23:22:35
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

本来の"円"というのは、当たり前だが、政府日銀が直接発行した貨幣・紙(・準備預金)だけだ。 銀行通貨(銀行信用貨幣)は、あくまでそれを単位として利用しているだけで、円そのものではないのである。円を小麦とすれば、銀行通貨は"小麦(kg)"という単位を使っているだけ、といった具合なのである。

2017-12-18 23:25:06
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

このように"貨幣単位"と"貨幣"というのは、きっちり区別しないといけない。 例えば、仮に金貨が"貨幣単位"だったとしても、その単位を『借用』してレバレッジ発行された信用貨幣が、それ自体のみで売買に利用された場合、その信用貨幣は"貨幣単位"ではないが、紛れもなく"貨幣"に他ならないのである。

2017-12-18 23:27:20
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

さて、なぜ国家貨幣が、貨幣単位として(銀行)信用貨幣の計数単位に借用されるか、という話に戻ると、要するに、国家貨幣の信用力が高位(≡決済ヒエラルキーが高位)であり、いざとなれば国家貨幣と対応する(例えば、国家貨幣の形での引出にある程度は応じる)という形で紐づけているからである。

2017-12-18 23:31:02
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

なぜ国家貨幣が高位の決済ヒエラルキーを持つのかというと、その裏には政府の(実物的)徴税能力への信用があり、政府はそれを間接的に利用して、手形(政府通貨)の発行による支出と、発行手形の無償回収(=金銭徴税)を行っているからである。

2017-12-18 23:33:13
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

(実はこのことは、必然的に「国家の統治能力に疑問符がつけば、即座にその発行手形である政府通貨の価値も揺らぐ」ということを意味する。実際、岩田一政が指摘する通り、租税体制が不安定な途上国では、金による貯蓄が選好されたりする。この意味でMMT的観点は、無税国家構想と対極にある)

2017-12-18 23:34:35
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

(国家的統治・租税体制への信用という前提の上で)高位決済ヒエラルキーを持つ国家貨幣(≡唯一の納税手段)に、(銀行)信用貨幣が紐づけられるというのが、MMTの論ずる現代金融制度の構造である。こうした国家単位の貨幣単位の付与・確保は、取引コスト・取引不安定性を大幅に引き下げる。

2017-12-18 23:40:19
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ただ、信用貨幣は、国家貨幣単位を借用し、国家貨幣に紐づけられているとはいっても、大部分の信用貨幣は、信用貨幣単体で売買手段として利用可能であり、信用貨幣を通じた国家貨幣需要は、(信用貨幣全体の規模に比して)極めて小さいものに留まる、というのが経済的な事実である。

2017-12-18 23:42:05
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

「信用貨幣に対する国家貨幣需要は極めて小さい」という事実は、信用貨幣創造>>国家貨幣を可能にする。これをミッチェルは「HPM(ハイパワードマネー)のレバレッジング」と呼んでいる。絶妙な表現だ。こうした構造から、銀行はそもそも保有するHPMよりはるかに大きい融資がもとより可能なのである。

2017-12-18 23:45:28
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

こうして、MMTにおいては、財政赤字(垂直取引)による民間純貯蓄の供給と、そうして供給されたHPMのCT的な信用創造(水平取引)によるレバレッジングという構造が想定される。なお、MMTにしても、CTにしても、貨幣乗数というアプローチ(特に連鎖的融資による信用創造という俗説)には極めて否定的。

2017-12-18 23:49:48