異世界小話~変な文字でノートをとるJDの話~

なろうは異世界小説がしのぎを削る戦場で怖いお…だからTwitterでやるお!!!
7
帽子男 @alkali_acid

「山田さんありがとう。やっぱり山田さんと友達になれてよかった」 「いやーあんまり役に立てなかったというか」 「ううん。山田さんだからそんなこと考え付くんですよ…そうか…そうだよね…あたし、目の前ばかり見て、そんな風に一歩離れたところから考えたことなかった」

2017-12-25 02:12:57
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんが王冠を掲げる。 「どこの誰だか。知らない。でもこれが欲しいなら、あたしをもう一度連れていって。あそこへ。娼館と迷宮のあるあの町へ。そうしたら渡してあげる。聞こえる!私の声が!」 それから知らない言葉に切り替わる。山田はびびる。 「あの、いや、そういうのはむずかし…?」

2017-12-25 02:14:41
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんの姿がかすみはじめる。王冠を持ったまま。勝ち誇った笑みを浮かべて。 いつも変な文字でノートをとる佐藤さん。スポーツ万能な佐藤さん。真顔でよくわからない冗談を言う佐藤さんが。 「ちょっ、まっ」 今度は逆にその手をつかむ山田。

2017-12-25 02:16:53
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんが我に返ってたしなめる。 「だめっ」 「ひゃいっ」 「山田さん…話聞いてなかったんですか。危なく、お兄ちゃんにくっついてきたあたしみたいに…みたいに…」 異様な匂いが二人の鼻をつく。獣臭と屎尿の薫り、それを消し去ろうとする香辛料の匂い。次いで訳の分からぬ言葉で飛び交う悪罵。

2017-12-25 02:19:05
帽子男 @alkali_acid

すばやく王冠をふところに隠す佐藤さん。 きょどる山田。あたりを見まわすと、あやしげな風体の男達がこちらをながめては胸のあたりを指さしてひそひそやっている。 「なんて?」 「…あの胸のでかい女。色町に高く売れそうだって」 「か、帰ります」 「…うんと…それは…あんまり簡単じゃないかも」

2017-12-25 02:21:34
帽子男 @alkali_acid

とりあえず山田の腕をつかんでずんずん歩き始める佐藤さん。 「ここは市外市場の一つだと思う。市内の冒険者の酒場か、訓練所まで行けばとりあえず安全は」 喋る言葉がもう地元のそれに切り替わっていて山田にはなんだかわからない。 「あのあの…あの…ちょっ…ゆっくり」 「のろのろ歩いちゃダメ」

2017-12-25 02:23:13
帽子男 @alkali_acid

「カモだと思われる」 「いやでも、これは歩くというより走っているという…??!」 「よそみしない」 「いや、あれ…え?」 道の反対側に佐藤さんの首をぶらさげて歩いている人がいたのだ。

2017-12-25 02:24:22
帽子男 @alkali_acid

あわてて佐藤さんを見直すと、その首はちゃんと肩の上についている 「えええ?」 「さっきからなに?…」 視線を追って佐藤さんも自分そっくりの首をぶらさげて歩く人に気づく。 緑のマントをまとい、手に黄金の鳥籠をぶらさげている。その檻の中に、首がひとつ。生きているかのようにみずみずしい。

2017-12-25 02:26:20
帽子男 @alkali_acid

いきなり首の瞳が開いて、まばたきをし、また閉じる。 「お兄…ちゃん」 「え、うそ、うそお?!」 追いかけようとする佐藤さんをあざ笑うように、相手は人ゴミの中に消えた。 「あのう…」

2017-12-25 02:27:52
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは山田の手を離し、駆けてゆこうとして、振り返り、いらだちをあらわにし、そしてあえぐ。 「…そうじゃない…よね…」 「わ、わたし足手まといなら…」 「山田さんは。あたしが巻き込んだ。あたしがちゃんと還す…そうする」 「はい、あの…ほわああ!?」

2017-12-25 02:29:47
帽子男 @alkali_acid

また生首。今度は白銀の鳥籠に入って。やはり佐藤さん。佐藤さんのお兄さんそっくりの首だ。手に持っているのは別人。 「え?え?」 「…ちっ」 佐藤さんはすばやく自分の顔をパーカーのフードで隠した。 「迷宮の財宝」 「はい?」 「何か…起きてる…誰かが…遊んでる…お兄ちゃんの首で」

2017-12-25 02:31:30
帽子男 @alkali_acid

「あの、どういう…」 「つきとめる。あたしからはなれないで」 「はいぃ…」 佐藤さんの固くて怖い表情は、山田が今まで見たなかで一番きれいだった。

2017-12-25 02:32:49