#ダークエルフ王国見聞録 その22 ~オーガの治むる地にて~上編

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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

巡回から戻ったスパルガとペイテスは、この気温の低さにも関わらず、屋外の大甕に蓄えられていた冷水を浴び、またに水に入れて搾った布で汗をかいた肌を拭き清めていた。体を拭き終ると、別の甕から柄杓で酒をぐいぐいと呷り、しばらくすると緋色の肌から湯気が立ち上る #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:47:40
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私もこの水浴びを勧められたが、この寒さではとても無理だと答えると、巨躯の鬼達は人間というのは弱い、だらしないなどと言いながらも、別に蒸し風呂を用意してくれた。これはまず、三本の長く太い棒を互いに立て掛けさせ、それを厚い毛氈で覆ったものである。 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:48:11
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中には腰掛ける台と金属製の鉢が置かれ、その鉢の中に焼かれた石が並べられて針葉樹の葉をすりつぶして水で溶いたものが掛けられる。すると、爽やかな香気を帯びた蒸気が内部を満たして、私は大変に発汗しながら、用意された垢擦り用の箆と冷水で濡れた布で体を清めた #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:48:35
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非常に体が温まったが、毛氈の覆いから出て寒気の中で服を着ているとすぐに体が冷えて来て身震いしてしまう。私の姿を面白おかしそうに眺めながら、新しい焼き石を用意したオーガが、セラにもこの蒸し風呂に入る様に勧めると共に、私に酒を飲んで体を温めるように言う #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:48:55
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私は旅路で愛用している、毒消しの呪文が透かし彫りにされた翡翠の杯を荷物からで酒を受けようとするが、そのような小杯で酒を受けるなどは言語道断だと言われ、彼らから大牦牛の角をくり抜き、表面に草木や鳥獣を彫刻した酒杯を渡される。 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:49:30
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この角杯は地に置くことが出来ず、酒を注がれれば飲み干さなければならないものである。また、私が渡されたのは彼らの夫人や年寄りが用いる者で、目前の彼らは更に大きな津の杯を手にしていた。オーガ達は酒好きであると聞いていたが、見た目通りに飲み方も豪快であった #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:49:50
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複数の穀物を砕いて混ぜ、地中で発酵させたものを蒸留し炭で濾したという透明な酒が大きな手によって器用に柄杓で注がれた。独特の強い香気に狼狽えるが、それを一口飲むと、非常に強い酒であることが分かり、咽喉が焼かれ、胃がかっと熱くなるような感覚であった #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:50:07
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確かに体は温まる様であったが、強い香気に咽て、また胃が驚くために目を白黒させる私の姿を、周りのオーガ達は笑い立ち、どうしたもっと飲めと囃し立ててくる。受けた酒杯を干さないのは失礼と考え、努力したのであるが、なかなか飲み干すことができなかった #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:50:26
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「おまえら、我が夫に何をしているか!客人に対する扱いとは思えぬ!」 蒸し風呂から出て、用意された帳の向こうで急ぎ着替えてきたセラが駆けつけてくる。 「いや、御主人に酒を進めていただけだ。それにしても、酒にも弱いのだな、人間は」 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:50:52
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そう言われてムッとしたセラは、私の手から角杯を奪うと、残った酒をグイと飲み干す。 「夫を守るは、妻の務めぞ。どうした、代りを注げ。酒ならば私が相手をしよう」 やぁ、ダークエルフの女と飲み比べだ、その細い体の何処に酒が入るのだとオーガ達は囃し立てる #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:51:28
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毒に対する耐性が高いダークエルフ達は、酒精に対しても解毒する力が強いのか、めったなことでは泥酔しない。その礼に漏れず、妻も酒に強いので、褐色の肌に赤味を増しながらも強気の表情を崩すことなく、酒杯を受け続けていた。 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:51:45
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そうこうしている内に、互いに打ち解けたのか、飲み比べではなく、普通の酒宴となっていた。焚火が起こされ、角猪の肉の塊や桜鮭の片身などが炙られて、その周りをオーガ達と囲む。私は先程の酒を薄く水で割って、果汁を煮詰めたものを足した剛零なる飲み方をしていた #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:53:02
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私を除けば、皆戦場に立つ戦士であるため、宴席ではそれぞれの武功話が為された。先日のオーク禍の話になって、セラが此度のオークどもは方陣などを組んで向かってきた言えばオーガ達も豚鬼どもにそのような知恵があったとはと驚き、とは言え奴らなど一捻りと自慢する #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:53:24
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「オークなど、この剛腕さえあれば殴殺、絞殺、思いの儘よ!」 「おうとも、俺は投槍でオークを二体串刺しにしたことがある。知恵を付けたとは言え、あれに手こずるとはエルフは白いのも黒いのもまだまだだな」 「ふん、我らを白エルフなどと同列にするな、心外だ」 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:54:01
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「驕るなよ、黒エルフ。俺は前の戦で黒エルフの槍衾を大剣で薙いで四人は胴切りにしたぞ!」 「おい、馬鹿者、ここでその戦の話はやめろ」 酔った勢いか、前のめりになって豪語したオーガが仲間に言葉を制止される。 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:54:37
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セラとオーガ達の間に重い沈黙が流れる。私も気まずかったが、意外にもその沈黙を破ったのはセラであった。 「戦場でのことであれば、何も遺恨はない。私もそなたらも皆誇り高き戦士だ。次は戦場で堂々と相見えようぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:55:01
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スパルガが酒甕の一番近くに居る者に目くばせると、彼はセラも含めた全員の杯に酒を注ぐ。次いで、スパルガがずいと酒杯を前に突き出し、他の者もそれに続く。これにセラも応えて、無言で酒杯を突き出し、神妙な顔をした全員で軽く杯を打ち合せた。 #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:55:26
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怒りでも憎しみでもなく、それでいて燃える様な感情を瞳にたぎらせた彼らは酒杯を飲み干す。学士である私には分からないが、戦士としてセラと彼らに何か共通した想いや矜持を感じさせる光景であった。静かに宴はお開きになり、私とセラは堡塁の中で毛皮に包まれ眠った #ダークエルフ王国見聞録

2018-01-28 14:55:47
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