異世界小話~異世界召喚されたらチート能力なかったけど息してるだけで偉いとか褒められまくる話~

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帽子男 @alkali_acid

「うん。決まった訳じゃない。でもその可能性は考えておかなきゃ…山田さん…ありがとう…ほんとすごいね…」 「え?いや?」 地獄の猟犬団のみんながまた熱いまなざしをぶつけてくる。おかしい。遅かれ早かれ誰かが思いつくことをたまたま先に口に出しただけでこの持ち上げ方。とてもおかしい。

2018-01-09 23:01:01
帽子男 @alkali_acid

「ほかには何かある?何でも言って。お願い」 「あの…龍が出入口の向こう側、街の側からあらわれたって聞いて…そういうことってよくあるんですか?」 「ううん。聞いたことない」 また山田さんの話を佐藤さんが翻訳する。とたん草採君が立ち上がり、何か小鳥のさえずりのように話す。かわいい。

2018-01-09 23:02:52
帽子男 @alkali_acid

「草採君もそれがとても気になったって。うん。山田さん。もっと言って」 「あの、私ぜんぜんわからないんですけど…龍は、冒険者の皆さんが気づかないうちに出入口をいったりきたりしてたのか、帰還の魔法陣?というものから街にいったのか…そういうのってあります」 「ないと思う」

2018-01-09 23:06:01
帽子男 @alkali_acid

「出入口の近くには魔物が勝手に通れないように警戒の護符が貼ってあるんだ。念のためね。だから龍なんかが来れば痕跡が残る。冒険者は気づく…帰還の魔法陣も同じだと思う。あっちは、今どうなってるのか詳しく分からないから断言まではっできないけど」

2018-01-09 23:08:29
帽子男 @alkali_acid

「そう…だとすると…もしかして…あの…いやないか…迷宮には…」 「ほかにも出入口があるってこと?そうだよね?当然そういうことになるよ。山田さん…さすがだよ…」 ここまでやりとりを佐藤さんが翻訳。しばらく他の仲間が分からない言葉で会話。親犬は眠そうに伏せ、仔犬は山田さんの胸を揉む。

2018-01-09 23:10:38
帽子男 @alkali_acid

「草採君が、街にいるあいだに取引のあるお店から聞いたんだけど、最近は街にも魔物があらわれるという噂があるって。どこからか迷宮とつながってる別の出入口があるのかもしれない」 「え…こわ…」 「恐いけど、あたし達にとっては朗報。そこから出られるかもしれない」

2018-01-09 23:12:36
帽子男 @alkali_acid

「だから言ったろ、草採は役に立つって」 嗅鼻氏が口を挟む。 「ヤマダサンがいたおかげ」 「そりゃそうだけどよ。草採もえらいだろ」 「うん。えらい」 「おう」 という細かいやりとりもいちいち佐藤さんはすぐ翻訳してくれる。

2018-01-09 23:14:13
帽子男 @alkali_acid

嗅鼻氏が草採君の髪をくしゃくしゃにする。犬にやるのと同じしぐさだ。草採君は目をぎゅっと閉じて手を膝について、身を縮めたままおとなしくしてる。でも嫌がっている訳ではないみたい。 二頭の巨犬がわれもわれも撫でろとその掌に頭を押し付けてくる。

2018-01-09 23:16:21
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんがにまっと笑って、手で口許を隠してささやく。 「嗅鼻って、団じゃ一番したっぱだったんだよ。犬飼いたいつってのもそのせいだと思う。弟分ができたからって偉そうにしちゃってまあ」 「あはは…」 山田さんはつられて笑い、ふと胸にしがみついている仔犬たちの視線に気づく。

2018-01-09 23:18:02
帽子男 @alkali_acid

「あ、すぐやります。すいません…」 仔犬三匹の頭を順番に撫でてやると、満足げなうなりが聞こえる。 「甘やかさなくていいよちびすけ達」 「あ、いえ、別に」

2018-01-09 23:18:46
帽子男 @alkali_acid

「さてと。話を戻すね。計画を変更。あたし達は、迷宮下層の帰還の魔法陣をめざすが、そこが崩れている可能性もふまえ、別の出入口も探す。もちろん龍が全部の出入口をしらみ潰しにしてたら…困るけどね」 「それもありえますね…」 「うん。ありえる。でもこの方針でいく」」

2018-01-09 23:24:12
帽子男 @alkali_acid

移動の準備を開始しながら、なおぶつぶつとぼやく。 「出入口…すぐ見分けがつくといいんですけど…」 「ここにあったのも、帰還の魔法陣も、人造のものだから、そういうところを探すよ」 「はあ…龍さんも見分けがついちゃうんでしょうねえ」 「うん…そうだ…そうだよ。龍…山田さんほんとすごい」

2018-01-09 23:27:04
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんの瞳が考えありげにきらりと光るのに、山田さんは気づいた。 「あの…もしかして…龍のあとを追っていけば…出入口が見つかる…とか思ってませんよね」 「いい考えじゃない?」 「それで、龍が壊す前に、うまくすべりこめばいいとか、思ってないですよね」 「うんまあそれもありだけど」

2018-01-09 23:28:41
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは楽しげに嗤った。 「そこで龍を倒しちゃうって手もあると思うよ」 山田さんは心臓がぎゅっとつかまれたような苦しさを覚えて、気が遠くなりかけた。 そして、この人と一緒にいられるなら、いくら褒められるのがしんどくても、おつりが来るな、と思ったのだった。

2018-01-09 23:31:14