- mzyukn_0809
- 1021
- 1
- 0
- 0
彼女が指差した先、俺の腰部には、いつの間にやら有機的なベルトが装着させられていた。昔日曜日の朝に見たような、そういう類の意匠だ。 「は?」
2018-01-17 01:03:09「それこそはァ、装着者の知己が抱く本人への『属性』を抽出、その情報を解析しインプットされたものを『女性の肉体』にアウトプットォ! 即ち女体化せしめる夢の発明! 百合ゾンズドライバーですゥ!」 彼女は何やら自慢げに説明しているが、こっちはそれどころではない。
2018-01-17 01:03:38THOOOOOM!! 大仰な起動音と共に眩い閃光が周囲に満ちる! 光は断続的に発せられ、それは恰も心臓の脈動、或いは胎動! はんちょ〜は腕で廂を作り、瞳をきらきらと輝かせて事の成り行きを見守る。
2018-01-17 01:04:44次いだ異変は俺の身体に起こる。ベルトのどういう作用によるものか、全身が発熱し、思わず悶絶して跪かずにはいられない。 「……ッ! んん、グワーッ!」 柄にもないシャウトは、信じられないことに自分のものだった。
2018-01-17 01:05:17光の明滅は徐々にその間隔を狭めていく。やがてその間隔が零になった時、 『Show me your another face!She-She-She male!』 ベルトから音声が響き、ビッグバンのように閃光が炸裂した!
2018-01-17 01:05:56【当ドーナツは材料にオーガニック・シュガーを使用しており実際安全です。担当者が見学に訪れたドーナツ熔接工場では「生活感のある職場」「流れ作業」「年間ローサイ・インシデント300件未満重点」などの奥ゆかしいカケジクが随所に吊るされていました】
2018-01-17 01:08:29(前回のあらすじ) 秘密裏に依頼を受け要人暗殺を生業とする男水ようかんは、かつての知己はんちょ〜からの電報により絶海の孤島に訪れていた。そこで彼は、はんちょ〜の恐ろしく速いベルト装着により今生の危機に瀕していた!
2018-01-17 01:13:27光も熱も止み、やがて元の静穏な埠頭に戻る。距離を取っていたはんちょ〜が私に駆け寄り、大きな目をいっそう大きく見開いた。 「おォ、成功ですねェ! いやァよかったよかった、元々水ようかんは素質があると思ってたんですよォ!」
2018-01-17 01:14:12女の勘ってやつですねェ! 欣喜雀躍というふうに、はんちょ〜は嬉々として笑う。先程の獰猛なそれではなく、安堵と歓喜が入り交じったものだ。
2018-01-17 01:14:37視界は頭2つ分ほど下に、纏っていた衣服は吹き飛んで全身を薄紫の体毛に覆われ、フェネックのように大きな耳と先が二股に分かれた柔らかな尻尾を得、乳房は僅かに影が差す程度膨らんでいる。慣れ親しんだ股間の一物の感覚は既になく、代わりに妙な喪失感があった。
2018-01-17 01:15:40「……?」 そう、私は女の身体に変わっていた。 否、変わったという実感はあるが、変わる前が既に私には思い出せなくなっていた。私は男だった。ではどんな男か? すっきり忘れてしまっている。そういう状態だ。
2018-01-17 01:16:18では変化前と変化後のいずれか(或いは両方)が知覚、認識できない場合、それは変化と呼べるのか? 私は哲学的思弁に引き込まれる。
2018-01-17 01:16:41私が変化したことについては、私Aと私Bの実存が連続性を伴っていることを証明しなければならない。しかし私Aは最早現実には存在しえず、当て推量で仮定するしか方法はない。
2018-01-17 01:17:26仮定から得られる結論に真理は含まれるか? 本質を蔑ろにし、表象に囚われてはいないか? スワンプマンやテセウスの船の事例を思い出す。私が嵌まっているのはまさにそういった陥穽であり――。
2018-01-17 01:17:44