ストーカー事件なう
- alumisorane
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「やっぱり!実は私も売っていたことがあるんです」「え!」「もう辞めちゃいましたけどね」こんなに気さくな方ならたくさん売れたと思うのに、ダメなんだ。「一年働いて一つしか売れなかったんです」「え!?」「気になります?」「もちろんですよ。ボクも、ボクも全然売れないんです…」
2017-11-20 19:02:35「私はみぃ。まとめる者に虐げられて売れなかったんです。唯一売れたのはまとめる者に関わらせなかったから」「え?」「信じなくていいですよ」みぃさんの謎めいた笑みは嘘とも本当とも。「始めた時から見張られて、さんざん嫌がらせされて、とうとう先日辞めちゃいました。だって仕事にならない」
2017-11-20 21:40:18「私がお客様のところに行くと、お客様からまとめる者に光が飛ぶの。頭おかしいでしょ?」ボクたちは光で互いに連絡を取り合う。「私が使う配る物によって研修内容が決まるし、誰かと話した内容はことごとく報告」仕事というには集中砲火のストーカーぶり…ん?「辞めても嫌がらせは悪化ですよ」
2017-11-20 22:08:48「もしや飛び回る君が飛んだり次の仕事探せなかったり?」「良くご存知で」「最近そんな噂を耳にしました」「世間は狭いですねぇ」はっはっはっ、と笑い合うボクら。「玉の輿は」「ないわー」「ですよねぇ」「あのね、各地に散らばった者が私を発見すると報告するシステムとか、ただの犯罪でしょう?」
2017-11-20 22:47:43「見張られるのは序の口ですよ。趣味嗜好全部調べられます。私が誰かと話せばその人物から会話を聞き出し、今後私と話すことがあれば報告するよう買収、断ったら圧力をかける。仕事では他の者を取りこんで、私を孤立させ評価を下げ厄介者に仕立て上げる」「それ本当ですか?」「信じなくていいですよ」
2017-11-23 22:56:58「最近では飛ぶ物の進路を変えて、私のアパートの上を通過するようにしたみたいです」みぃさんは淡々と挙げていく。「アパートではお隣さんたちを買収していやがらせ。虫をばら撒いてみたり、音波で私の脳を破壊して殺そうとしたり?」「!」「そう、私かちょさんたちに殺されようとしているんです」
2017-11-23 23:08:16「この国はなんであんな犯罪者たちを止めないんでしょう?」「それは…」「信じなくていいですってば。でも、かちょさんたちが言いふらして回っているような虚言癖はないの」「それはわかります!」「ありがとうございます。バイバイ」「あ…」立ち去るみぃさんの足取りは踊るように軽やかで。
2017-11-24 00:11:36一週間後、ボクはまたみぃさんと会った。「こんにちは!」カフェの店先、みぃさんは不思議な装置の前で険しい顔をしている。「何をしているんですか?」「空気を浄化しています」こんな装置で?「空気の汚染がひどいんです。ほんの半年前はきれいだったのに」そういえば最近咳きこむ者が多いかも…?
2017-12-07 03:37:48「空気が汚れれば次は水と土が汚染されます。作物だって。病の者が増え、死ぬ者もうなぎ上り」私の力は微々たるものだけど、と続けてみぃさんが笑う。「やらないよりはマシです。国が助けてくれないのなら、自力でなんとかしないと」「はい!」「私たちには健康に生きる権利があるんです」
2017-12-07 03:55:48「み、みぃさん!実は先日ボクのところに黒ずくめが──」みぃさんが黙って人差し指を口に当てた。「かちょさんたちに逆らったら村八分にされますよ」「でもこのままじゃみぃさんは…!」「はい。仕事をするなって、死ねと言われているも同然ですよね。だから今の私には生きる道がない」「そんな!」
2017-12-07 04:13:29「直接的には音波で脳と人格を破壊して廃人にしようとしているし、飛ぶ物の騒音で病気にしようとしている。でもね」みぃさんが機影一つない空を見上げる。「最近はアパートだけがうるさいんです。一歩アパートを出れば村は静か。でも飛び回る君はついてくる」「ストーカーというよりただの犯罪ですね」
2017-12-07 04:34:00「そう、ただの犯罪。小遣い稼ぎで済む話じゃないんですけれどもね、みんなお金に目が眩んですぐ共犯者になっちゃって」笑い事じゃないですよ、みぃさん!「とにかく私に関するありとあらゆることに干渉して追い詰めて、生きられないようにしたいみたい。私の個人情報もダダ洩れです」
2017-12-07 05:02:59「あ、そろそろ買い物に行かないと!」にわかにみぃさんが慌てて立ち去ると、その後をカジュアル服の黒ずくめたちと飛び回る君がついていく。
2017-12-07 05:27:59「みぃさん、それ何ですか?」「かちょさんと私のある日の会話です」次に会った時、みぃさんは書類をまとめているところだった。身を守るために録音していたのだとか。「読みます?」「はい」「かちょさんの特技は定時間際に話しかけてくることと、自分が不利になると話を逸らすことです」「うわぁ」 pic.twitter.com/n8HWWEBeBL
2017-12-13 16:08:16「公共ニートにこのかちょさんとの会話を提出したんです」公共ニートは仕事を辞めたら行くお役所さん。「かちょさんのパワハラが原因で辞めましたってありのままにお伝えしたら、職員さん何て言ったと思います?」ボクは前のめりになった。「何一つ問題のないごく普通の会話です、だそうですよ」
2017-12-15 13:11:14「4人の職員さんで回し読みして全員“ごくごく普通の日常会話だ”と思ったそうです」「ボク、公共ニートでは働きたくないです…」なんでみぃさんはこんな苦境に笑っていられるのだろう。「職員さんの目が泳いでました。嘘なんです」「公で働く者は嘘をついたら!」「ええ。でも当たり前に嘘をつきます」
2017-12-15 15:03:22「パワハラは第三者の証言がないと認定が難しく」みぃさんが指折り挙げる。「特定の者にだけ発生するもので」肩を竦めて。「公共ニートでの決定は裁判での証拠にはならないそうです」「そうなんですか!?」「まさか。大嘘ですよ。私が提出した証拠に文句のつけようがなくて、よっぽど悔しかったみたい」
2017-12-15 15:26:38だってね、とみぃさんが窓から覗く黒ずくめに手を振った。「先日、副しょちょさんに聞き取りを行ったって公共ニートから報告があったんです」「副しょちょさんですか?でも」「いやがらせの中心はかちょさんなのに、聞き取りしないの」不正が横行しているなぁとぼやくみぃさんの気持ちがわかりすぎる。
2017-12-15 15:53:31「立場を利用した陰湿ないやがらせをねちねちとずーっと受けて、それは今も続いています」「はい」村のあちこちでみぃさんの悪い噂を聞いた。同時に、密かにだけどいい噂も教えてもらった。どっちが真実かなんて、一目会ってみればわかる。「それと毒を」「え?」「毒を盛られています」
2017-12-15 16:21:27「麻痺を引き起こし、筋肉を破壊する毒です。水道水に、アパートの周辺の空気に、私が定期購入するものに、協力する者たちに。ありとあらゆるものに混入させて私を病気にしようと目論んでいます。あわよくば──」 死んだところでそれこそ願ったり叶ったり。
2017-12-15 16:46:44