戦車小話~T-80軽戦車の開発とソ連軽戦車の終焉

メジャーじゃないほうのT-80戦車についてあれこれ
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ちょっと前のパショーラクさんのT-80記事を読んでみます。あの妙な主力戦車ではなく、みんな大好き軽戦車の方のT-80です。主砲での対空射撃能力を持ってる戦車ということでちょっと変わった存在ですが、その誕生経緯は思ったより複雑かも warspot.ru/10902-pervyy-t…

2018-01-28 16:08:36
リンク warspot.ru Первый Т-80 ​​​​​​​История создания и боевого применения советского лёгкого танка Т-80 189
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まずT-80開発の根底にはT-70への不満があります。1942年夏、T-70の実戦参加とともに前線から問題が報告されたのです。曰く「T-70の車長が視察・砲と機銃の装填、照準と射撃を同時に行うのは困難である。中隊長車では更に隊の指揮が加わるので更に複雑になる。砲塔を2人用に拡大するのは必須」と

2018-01-28 16:11:09
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

それまでのソ連軽戦車もT-50以外は1人用砲塔だったのですが、それに関する問題は特に声高には言われてこなかった印象です。ひょっとすると主砲が重機/機関砲だったので装填手がいない問題が比較的小さかったのかも知れません。ところが砲が主武装になったT-70では表面化したとか……?

2018-01-28 16:15:48
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

というわけでT-70が戦場に初投入されたほとんど直後、1942年7月15日には早くも改良のための会議が開かれます。主な改良点は4つ。その内訳がよくわからんのですが、少なくとも2人用砲塔の採用と駆動系の強化は含まれてるっぽい。まあT-70は軽戦車って割に機動力は並ですものね

2018-01-28 16:17:39
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

8月には2人用砲塔の試作が出来るんですが、注目すべきことに実はこの時点では砲塔はT-70砲塔にほぼ近く、対空射撃能力はありませんでした。まだT-80じゃなくて「2人用砲塔T-70」とでもいうべき物だったんですね。良く知るT-80の前にこんなのがあったのは実際初めて知りました。なお車体はT-70改造 pic.twitter.com/QmOrbVzMUs

2018-01-28 16:19:49
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砲塔の乗員配置の変更に合わせて砲塔上のレイアウトも変わってます。ハッチについてた車長用潜望鏡はなくなり信号用小ハッチに変更。視察装置は装填手用のMk.IV潜望鏡と車長兼照準手用のPTK潜望鏡。ソ連戦車によくある照準機能付のPT潜望鏡照準器ではないようで、照準は砲同軸の望遠鏡照準器のみ pic.twitter.com/gDMZJkYcVV

2018-01-28 16:23:54
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二人を収めるために砲塔リング径は966mmから1112mmに拡大。二人砲塔では役割分担の方法が色々ありますが、これは砲左に車長兼照準手、右に装填手という配置。あと一見地味ですが砲塔が伸びてバスル部分が生まれ、ここに無線機のほか10発の即応弾架を新設されてます。これは発射速度重点な改良ですね pic.twitter.com/tm5GrfbCwj

2018-01-28 16:32:00
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

2人用砲塔T-70のテストは1942年9月から行われます。主眼は乗員の作業環境および発射速度の評価。発射速度は1人用砲塔で照準時間込み4~5発分だったものが8~9発/分に改善されます。命中率も47.5%から71%に。命中率改善は不思議かもですが、装填手追加のため照準手が的から目を離す必要がなくなったのです

2018-01-28 16:35:29
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

1人用砲塔は「忙しい」とはよく言われますが、それが具体的にどういう悪影響をもたらすのか数字に出てるのが興味深いですね。視察・指揮に専念できないだけでなく発射速度は落ち、さらに装填の度にいちいち照準器から目を離す事になるので命中率も落ちてしまうというわけです

2018-01-28 16:37:53
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ただしT-70新砲塔が完璧でない事も明らかになります。椅子の配置の関係で砲塔の向きによっては弾架にアクセスしづらくなり、特定方位では発射速度が5発/分にまで低下してしまう。さらに弾架は装填手の手がまったく届かない。また大型化した1枚ハッチは初期のT-34のそれと同様に重すぎて開閉困難など

2018-01-28 16:40:20
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ほかにも撃発ペダルの配置が不便とか、ハッチについてる信号用小ハッチの取手に装填手の頭が当たるとか小さな問題が10以上見つかります。2人用砲塔それ自体の方向性は有用だけれど、しかし採用するのは改良ができてからとの判定。ちなみにこの辺りからT-80の名で呼ばれるようになります

2018-01-28 16:42:21
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ところで2人用砲塔の改良の時期は、ちょうど赤軍内で対空能力の向上という指向が大きくなる頃と重なっていました。独軍地上攻撃機の活動が活発化するとともに、Hs129を鹵獲しての調査結果が出た事とも関連しているようです。これが後々にZSU-37やT-90(連装重機のやつ)に繋がってくるんですが

2018-01-28 16:47:27
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

これに加えて対空装備として別の方向性も現れます。5月にレンドリースされたリー先生が運用され始めたんですが、その37mm副砲塔は最大仰角がかなり大きく、市街戦に便利なほかに対空射撃にも使えたのです。ならば新しい国産戦車にもそんな能力を与えられれば良いのでは? という話が出てきます pic.twitter.com/Ll41u5lOfC

2018-01-28 16:50:33
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

というわけで1942年10月末にT-80用新砲塔の開発が始まります。まずはハッチの改善で、2枚に分けた上で右にキューポラを追加。つまり車長用ではなく「装填手用キューポラ」という妙な事になりますが、たぶん砲手兼車長よりも装填手の方が忙しくないので、彼の方に全周視察を任せようという訳でしょう pic.twitter.com/ihqg5SljHh

2018-01-28 16:56:23
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

また装填手に全周視察を任せるようになった関係か、車長兼照準手のPTK潜望鏡は英国Mk.IV潜望鏡に変更されてます。PTKはかなり高機能な視察装置ですが精密な分だけ操作が手間で、迅速な周囲視察には向いてないのです。Mk.IVは簡素だけど操作が直観的で素早い。この時期以降のソ連戦車によくある改良です

2018-01-28 17:00:36
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

しかし一番の注目点はなんといっても対空能力。仰俯機構と防盾まわりの変更で60度の最大仰角を得たのはいいのですが、問題は照準です。従来の望遠鏡照準器では対空射撃をするには視野があまりにも狭いし、そもこんな角度を取れば反対側の接眼部が低くなりすぎ、照準器を覗く体勢を取ること自体が難しい pic.twitter.com/6CtGitD2EC

2018-01-28 17:03:32
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

というわけでT-80の新砲塔では戦車史上でも珍しい装備を追加。なんと爆撃機の旋回機銃用だったK-8T光像式照準器を使ったのです。対空射撃時に使いやすいよう天板付近に配置しリンクロッドで主砲と仰角を同期、専用ハッチ越しに照準します。起倒式で普段は寝かせて格納。先の砲塔上面写真も注目です pic.twitter.com/PAje27jFaU

2018-01-28 17:09:20
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

K-8Tは本式の対空機関砲用照準器に比べるとまったく大したものではないんですが、でもあくまでフルサイズ対空自走砲ではなく「航空機とも戦える戦車」が目標なので十分という事でしょう。そもそもデカい照準器など積めません。ちなみにK-8Tは後々ISなんかのDShK車載重機の対空照準にも使われました pic.twitter.com/r2fSXlCJSh

2018-01-28 17:15:55
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ところでT-80試作二号車はT-70Bの生産車を改造して作られてます。……まずT-70Bってのが少々聞き慣れませんが、実はよく聞く「T-70M」なる呼び方は正確ではないんだそうです。尤もT-70Bの改良内容は「T-70M」そのものです。足回りの強化と操縦手視察装置の潜望鏡化、搭載弾薬増加など

2018-01-28 17:18:10
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

T-70BをT-80試作二号車に改造にするにあたっては砲塔拡大にあわせて戦闘室天板を変更、また重量が2トン増えて11.2トンになったのをカバーするためにエンジンをGAZ-203高圧縮比版(GAZ-203F?)に変更。70馬力双発から85馬力双発になってます。これで出力重量比はほぼ維持

2018-01-28 17:20:57
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

T-80試作二号車は1942年12月頭には完成し、早速テストされます。車体はほぼ既存戦車なので走行テストは控えめで重点は射撃能力。停止射10発のテストでは照準時間込みでT-80が2分45秒を要し命中率60%。T-70が4分42秒の命中率30%だったので実質4倍近く効果的に。躍進射では4分15秒に(T-70は不詳)

2018-01-28 17:25:05
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

さらに乗員を親衛戦車連隊に替えた場合は更に良い結果が。10発停止射では1分20秒で全弾命中し、躍進射でも2分17秒で7発を当てる。これはT-80それ自体がどうのというより、一般戦車兵と親衛連隊の練度差が数字として出てるのが面白いですね。ちなみにこのときの親衛連隊は元々KV-1S乗員の人

2018-01-28 17:29:05
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そしてT-80の売りである対空射撃テスト。航空機に対する阻止射撃(弾幕張って妨害する感じでしょうか?)ではなんと10発を31~37秒で撃ててます。ソ連戦車は発射速度遅いようなイメージありますが、照準そこそこにただ撃つだけなら相当に早くする事もできるんですね。「発射速度」の定義は要注意です

2018-01-28 17:32:22
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

だいたい3~4秒に1発というと本式の対空自走砲に比べればあまりにも遅いですが、しかし戦車の発射速度としては相当なものです。実際には単騎ではなく軽戦車中隊9両とかでやるわけですから、合計の発射速度はほぼ高射機関砲1門と同等で、攻撃機の側に立てば無視できるものでもないでしょう

2018-01-28 17:35:05