【ある冒険者の日常】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常1】「爺さん、世話になった」支度を終えた男は宿の主人に挨拶を済ませる。「今度は景気のいい話を土産にな」「はは……頑張るよ」宿を出ようとする男を主人は呼び止めた。「おっと、ここに名前を書いていきな。それがウチの決まりだ」言われるまま男は『冒険の書』に名前を書いた。

2016-09-02 02:43:17
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常2】報酬が用意できないから魔物退治を依頼できない。そんな村人に対して無報酬で依頼を受ける者もいれば、無関心を決め込む者もいる。これらに対して正しさを論ずることの無意味さは冒険者の誰もが理解している、あるいはいずれ理解することである。

2016-09-02 23:21:31
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常3】「いくら魔物と戦っても全然強くなった気がしないよ。腕だってこんな細いままだし」「ボウズ、強くなるってのは経験を積み知識を増やして、敵に楽に勝てるようになることが本質だぞ」「面倒臭いなあ。こう、魔物一匹倒して一気に強くなれない? 珍しい魔物倒すとか」「ねえよ」

2016-09-03 20:58:29
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常4】魔物と戦う剣士。相手の動きは非常に鈍く、身軽さを活かして攻撃するも一向に決定打を与えられない。埒が明かないと逃げ出した瞬間、彼は魔物に回りこまれてしまった。驚き戸惑いつつも別方向に逃げるが、やはり回りこまれてしまった。こんな遅い奴がなぜ――彼の混乱は続く。

2016-09-04 22:30:42
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常5】「くっ、毒液を浴びてしまった……」「しっかりしろ! ほら毒消しだ!」「これは毒芋虫の毒消しだ……」「こっちか!」「それは毒蛾用の中和剤だ……」「ならこっちは!?」「食中毒用の胃薬……」「だったらこれだ!」「それはドクダミ茶の葉で……」「もう自分で探せよ!」

2016-09-10 22:58:13
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常6】目的地への道を大きな川が遮った。ある者は引き返した。ある者は橋を探し始めた。ある者はその場で筏を作った。ある者は浮遊魔法を唱えた。ある者は泳ぎ始めた。ある者は川を凍らせた。ある者は神に祈った。ある者は川を蒸発させた。皆、川を渡ることができた。諦めた者以外は。

2016-09-11 00:46:41
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常7】「お姉さん、僕に魔法教えて!」「私は精霊魔法使いですから、精霊と仲良くなれば使えるようになりますよ」「仲良く?」「自然の中で遊んでいれば、声が聞こえるかもしれませんね」「わかった! 遊んでくる!」子供を見送りながら彼女は思う。(才能があれば、ですけどね)

2016-09-11 22:30:32
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常8】その盗掘団は、宝はすべて持ち帰り、解除した罠はすべて元通りに仕掛け直すことを方針としていた。無論「遺跡を本来の姿に戻すため」などという綺麗事ではなく、後からのこのこやってきた間抜けな冒険者が罠で命を落としたら、遺品を頂戴することができるから――だという。

2016-09-13 00:40:56
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常9】「こんなこと勉強しても冒険の役に立つの?」「確かに、学んだことが必ずしも役に立つとは限らない。だが世の中何がどんな役に立つかなんてわからないものでな、俺の聞いた話では踊りと遊びを極めた青年が勇者になったそうだぞ」「それ絶対ウソでしょ……」

2016-09-15 01:54:39
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常10】魔法使いは非力と印象付けられているが、魔法の使用にも体力が必要なこと、近接戦闘では詠唱の余裕がないことから己の肉体を鍛えている者も少なからず存在する。ある魔法使いの一族は鍛錬に鍛錬を重ねた結果、魔法を用いずとも体一つで魔法を再現するに至ったという。

2016-10-02 21:46:15

11~20

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常11】「携帯食料の利点は調理が不要なところだな。これが肉だったら炙って岩塩や胡椒をふりかける必要があるし、野菜なら様々な具材と一緒に煮込むための待ち時間がある。調味料の選定も必要だな。果物は洗って皮を――」「やめてよ! ここんとこまともな食事してないんだから!」

2016-10-03 23:04:03
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常12】死者の蘇生は神の奇跡に依るものであり、敬虔な信徒が祈ったとしても成功する可能性は極めて低い。それだけに要求される「お布施」の額は莫大なものとなり、支払えそうにない者は生き返って早々に身包みを剥がされ叩きだされることもある。

2016-10-06 00:29:22
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常13】「フ……飯の匂いに誘われて姿を現したようだが、この俺の存在は計算に入れていなかったようだな。貴様に相応しい末路は既に用意されている。我が漆黒の闇に抱かれ、抗う間もなく堕ちるがいい!」「猫ちゃんをマントでくるんで、何やってるの?」「ニャー」

2016-10-08 17:37:36
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常14】どこかで一山当てたのだろうか、酒場から景気の良さそうな声が聞こえてくる。いつ命が失われるとも限らないことを知っている彼らは、その日その瞬間を楽しみながら生きている。そして明日になれば、寂しくなった懐を温めるために、また冒険へと出かけるのだろう。

2016-10-10 16:56:04
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常15】「ドラゴンを倒してこそ一人前の冒険者だなんて、馬鹿な噂もあったものです。あんなものを倒せたら、一人前どころか英雄になれますよ」「でも、さっき話聞いてたときは否定しなかったよね。あの人、本気にして一人で行っちゃったよ」「馬鹿は死ななきゃ治りませんからね」

2016-10-10 22:52:49
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常17】「『私のことは構わず!』って言ったから人質ごと爆破したのに、なんで怒られるんだ? 死んだわけでもないのに」「そりゃあ死んだら怒りようがないし……まあ、ああいう場面では何であろうと躊躇うのがマナーってもんだ」「自分で自分の身も守れないくせに、贅沢だなあ」

2016-10-23 15:57:28
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常18】放置された冒険者の死体。その遺品を漁ることに抵抗がない者もいれば、そんな彼らを軽蔑する者もいる。そこにあるのは主義主張の違いでしかなく、無意味に朽ち果てるはずだった重な鉱物や名だたる刀剣の再利用が冒険者たちの利益になることには違いない。

2016-10-30 23:28:18
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常19】「こんなに魔物共を簡単に片付けられるなら、報酬はもっと安くてもいいよな!」――「こんなに手早くあの魔物たちを片付けてくれるとは! 報酬は上乗せしよう!」――依頼人にも様々な人間がいる。依頼を終えた後で報酬を渋ってきたとして、その後の展開は君の交渉術次第だ。

2016-11-04 00:44:45
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常20】準備さえできていれば容易に撃退できるスライム。それが「弱い」という部分だけ強調されて伝わり、無防備なままスライムに挑む冒険者は決して少なくない。特性を理解していれば積極的に関わろうという気は起きないものだが、その判断を誤るのも未熟ゆえと言えるだろうか。

2016-11-25 03:23:59

21~30

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常21】「日頃の生活で、無意識に詠唱して魔法を放ったことってないんですか?」「そうならないように、詠唱は普段使わないような言葉と音で構成されていますよ」「へー。かっこつけてああいう記述になっているわけじゃないんですね」「当然です。一種の安全装置とも言えますね」

2016-11-25 03:25:20
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常22】病によって冒険者を引退できた者は幸運である。病を患ったことを知らず、気がついたときに適切な治療を受けられるとも限らず、さらには手遅れである場合がほとんどだからだ。例えば一ヶ月分の食費に相当する薬を、万が一に備えて常備する冒険者はどれだけいることだろうか。

2016-11-25 03:27:03
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の日常23】「この槍は何も貫けないらしい最弱の槍! この盾は何も防げないらしい最弱の盾だ!」「曖昧だなおい! では、その槍でその盾を突いたらどうなる?」「儂も知りたいから買い取って試してくれ。どっちも金貨100枚な」「く、好奇心につけ込みやがって……」

2016-11-25 03:28:41
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