鋼の鎧、鋼の拳、鋼の意志
仮設指揮所から100メートル近く離れた茂みで身を起こし、鷲塚が思考リンクを介して言う。 「お疲れさま、翔鶴。加賀、評価は?」 『全弾目標の5メートル以内に着弾。爆風で怪我をしたみたいだけれど、全員生きているわ。さすがね、翔鶴』#落ちぬい二次
2018-04-03 16:16:07レーザー誘導爆弾が使えれば鷲塚と翔鶴だけで精密爆撃が出来たが、生憎と艦娘用のそれは実用化されていない。そこで攻撃役の翔鶴と観測役の加賀を組ませたのだ。 「それは重畳。憲兵は?」 『演習場に入りました。間も無くそちらに到着するかと』#落ちぬい二次
2018-04-03 16:18:17陸軍に対する精密爆撃作戦の直後だというのに、加賀の思念に興奮や動揺はない。この揺るぎない精神こそ、鷲塚が戦力として信頼する所以である。 「彼等に見付からぬよう速やかに撤収を。お疲れ様でした」#落ちぬい二次
2018-04-03 16:20:46事務的に告げる鷲塚に、翔鶴が遠慮がちに問うた。 『無事に済んだからよかったものの、わざわざ提督がご自分で乗り込む必要はなかったのでは?』#落ちぬい二次
2018-04-03 16:23:00「いいえ。これは私がやらねばならない仕事でした。彼等は藤郷の研究品を奪い、兵頭を拉致して、外国に売ろうとした。彼らは、我々海ぼうずを舐めたんです。徹底的にやり返さねばなりません」 鷲塚の思念はいつもと変わらず淡々としていたが、その裏には煮えたぎる怒りが渦巻いていた。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:25:14「我々は9人。たったの9人しか残っていない。だが深海棲艦を滅ぼすのはこの9人です。何者であれ、これだけは邪魔させない。邪魔するならあらゆる方法で排除します」 鷲塚の目に宿る獰猛な光は、炎に照らされたためばかりではなかった。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:28:15後日、兵頭の基地で。兵頭は煙草を吸いながら鷲塚に電話をかけていた。 「病院帰りに拉致られて気付いたらまた病院だったわけだが」 『ええ。その間こちらは大迷惑でしたよ』 「顛末は藤郷から聞いた。悪かった」#落ちぬい二次
2018-04-03 16:31:12長瀬と長門が兵頭を救出し、藤郷の分析を基に鷲塚が敵の拠点を叩いた。当然、この作戦と情報隠蔽にかかったコストはかなりのものとなった。 『そう思うなら一生恩に着るように。で、検査結果はどうでした』 「いつもと変わりねえよ」 『というと?』#落ちぬい二次
2018-04-03 16:34:46「どうして生きてるかわからないとよ」 『違いないですね』 電話の向こうで鷲塚がくつくつと笑う。 『さて。事の発端ですが』 「おう」#落ちぬい二次
2018-04-03 16:36:57『端的に言うと、兵頭が拉致されたのは自業自得ですね』 「おいおい、そりゃねえだろ、俺は被害者だぞ」 兵頭の反論に被せるように続ける。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:45:34『以前、陸軍の駐屯地が不審者二名に襲撃され、複数の将兵が重傷を負った事件がありましたね。それをきっかけに彼らが外国と通じていた事が明らかになり、処分が行われたわけですが』 「謎のマスクマン事件な」 兵頭がすっとぼける。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:47:56『それですよ。駐屯地に勝手知ったるといった具合で襲撃をかけられるのは軍人でしょう。まさか陸軍が陸軍を襲うわけはない。残るは空軍と海軍ですが、勤務地が関東で当日休暇を取っていた者、尚且つ白兵戦能力が極めて高い者、と限定すればかなり絞られる』#落ちぬい二次
2018-04-03 16:50:09ボクシングでオリンピック候補にまでなった長瀬は言うに及ばず、兵頭も当時の上官に命じられて暇潰し感覚で出場した自衛隊拳法大会で、陸のメンツを潰しかねない成績を残したことがあった。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:52:46自衛隊が軍に再編されてからは右目の失明や薬漬けの身体の具合もあってそうした公式の大会には出場していないが、今でもそれを覚えている軍人がいても不思議ではない。#落ちぬい二次
2018-04-03 16:54:15「…………」 『それで、摘発された腐敗軍人の残党があなたたちへの意趣返しと、パワードスーツの完成という実利を兼ねて兵頭を拉致したわけです』 「逆恨みじゃねーか!」#落ちぬい二次
2018-04-03 16:56:08『そう、逆恨みですね。同時にあなたたちの落ち度でもある。一味を根こそぎ消してしまえばこんな事にはならなかった』 「全員口をきけないようにしとけばよかったってのか。あの駐屯地には関係ない奴らも多かったってのに」#落ちぬい二次
2018-04-03 16:58:28『疑わしきは罰せ。温情が仇になる場合もあるんですよ。特に相手が組織の場合は厄介だ』 「長門にも言われるよ。甘すぎるのが一番駄目なところだって」 すぱー、と煙を吐き出す。#落ちぬい二次
2018-04-03 17:00:38情報の送信は民間回線を使っていたのだが、日本にはそもそも公的機関が民間の通信を自由に傍受・検閲する仕組みが法的にも設備的にも存在しない。そのため、非合法の手段ではあるが、鷲塚が個人的に持つ設備を活用せざるを得なかった。#落ちぬい二次
2018-04-03 17:04:15『データが南米だのアフリカだのとあちこち経由していて、最終的にどこに送られたのかまでは突き止められませんでした。ですが、何とかワームを紛れ込ませる事には成功しているので、十中八九データは台無しになっているはずです』#落ちぬい二次
2018-04-03 17:05:29「おそらくイワンさんだろうがな。疑わしきは罰するのか?」 『馬鹿ですか貴方は。いえ馬鹿でしたね貴方は。確証もなく国家間紛争を起こそうなんて馬鹿しか考えませんものね』 「お前が言ったんだろうが!」#落ちぬい二次
2018-04-03 17:07:53『一先ずは憲兵のお手並み拝見ですね。身内の大掃除と、これを外交カードにできるかどうかです』 「そっち方面は任せるわ。腹の探り合いはどうにもな」#落ちぬい二次
2018-04-03 17:09:41『憲兵を巻き込んだ以上、ある程度厳しい調査があるでしょう。気を付けなさい、叩けば埃が出る身なんですからね』 「ご忠告どうも。礼はそのうちな」 『期待しておきますよ。では』#落ちぬい二次
2018-04-03 17:12:01