燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx いたずらっぽいまなざしと優しい手が俺の肌を撫でる。羞恥心に堪えきれず、目をそらして冗談めかす。 『お前は謎が多そうだから、一生かかっても知り尽くせそうにないな』 『それは……僕と一生を共にしてくれるってことかな?』 『っあ!? いや、そのっ』 ああもう、本当にこいつは!!

2018-07-28 22:47:10
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx そんなやり取りを思い出してひとり赤面しているうち、タクシーは木々が鬱蒼と茂る坂道をゆっくり登り、目的地に到着した。 明るい色合いの屋根と壁。開放的なガラス張りの廊下。先程行った博物館とは随分趣が異なる、ショールームのような現代的な造りだ。展示品もさほど多くはなく、気軽に回れる。

2018-07-28 22:48:04
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「ここの名物はなんといってもこれだよねえ」 歴史ドラマで有名な藩主の印籠を前に、光忠がキメ台詞を真似た。全然似ていなくて、噴き出してしまう。 「絶対俺の方が上手い」 「言ったね?やってみてよ、さあ、さん、に、いち」 俺が得意気な顔でその台詞を口にするも、今度は光忠が腹を抱える。

2018-07-28 22:56:04
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「よくも、そんなドヤ顔で、そんな下手な物真似ができるね!?」 「はあ!?お前の方が下手くそだったろうが!!」 小声で言い争いながら、俺たちは常設の展示室を移動した。特別展の方では、刀や銃がメインらしい。刀は先程も別の博物館で見たばかりだし、さらりと見ようと思っていた。のだが。

2018-07-28 23:08:10
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 出会ってしまった。 吸い寄せられてしまった。その刀に。 思わず息を呑んだ。無意識のうちに、隣にいる光忠の袖を握りしめてしまった。光忠もその刀に心を奪われていたのか、少し遅れて俺の手に気付いて、手を繋いでくれた。 「これは……この刀は……」→

2018-07-28 23:15:22
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「は、長谷部くん……」 僕の声は震えてやしないだろうか。 僕の袖を掴む長谷部くんの手をそっと外し、先まで僕の何かを掴んでいたであろう隙間の空いた長谷部くんの手の中に僕の手を滑り込ませた。ぎゅう、と彼の手を握る手に力がこもる。 金の鎺が溶解した痕跡のある黒い、焼身の刀。

2018-08-05 19:30:45
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march これ以上は近寄れないというところまでガラスケースに顔を近付けて其れを見やる。ふと、長谷部くんの方へと視線を向けると自身と同じく真剣に其れを見る彼の姿があった。ぐっと曲げてガラスケースに近付けていた上半身を元に戻してゆっくりと息を吐き出す。

2018-08-05 19:31:09
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 長谷部くんと繋いだままの手はじっとりと汗ばんでいた。 「長谷部くん、」 僕が彼の名を呼ぶと一瞬はっとした表情をした後、僕の目を見据える。身体を僕の方へと向け興奮したように握った手を持ち上げ、空いた左手で其の上から被せるように掴んだ。

2018-08-05 19:31:38
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「みつただ。なあ、みつただ……お前の親が数ある刀工の中から光忠を選んだのはこの刀からじゃないのか?」 「……さあ、どうだろう。僕も光忠という刀工の名からとった、としか聞いていないからね」 「そうか、いやでも……」 再度ガラスケースの方へと向き直り、長谷部くんはじっと刀を見つめる。

2018-08-05 19:32:04
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 先の“光忠”は武器だからこそかっこいいのかもしれないと長谷部くんは言っていた。 ──ではこの光忠は……? 「長谷部、くん」 長谷部くんの手を握る手に力が入ってしまう。 「ああ、ああ……わかっている。俺の光忠はお前だけだ。

2018-08-05 19:32:42
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march でも、それでも、俺はお前の名のルーツがこの刀だと思わずにはいられないんだ」 「……でも、武器としては」 「なんだ、さっきの所でのことを気にしていたのか。矢張り正しい鑑賞方法等俺にはさっぱりだが、この刀が美しいことはちゃんとわかっているつもりだ。

2018-08-05 19:33:03
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march “燭台切光忠”、か。ふふ、お前と見に来られて、良かった」 そう言って長谷部くんは、へらり。と笑った。→

2018-08-05 19:33:28
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx ”目に焼き付いた”という表現がこれほどしっくりくるものもないと思う。それは炎だった。目の前の刀、それ自体が燃え盛っているわけではないが、たしかにその刀から炎の熱と光を感じたのだ。じわりと目が熱くなる。まさか眺めているうちに、刀身に熔けた金が俺の瞳の中に溜まっていったのか?

2018-08-07 20:44:13
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「長谷部くん、」 呼ばれてはっと顔を上げる。……ああそうだ、金色は俺の中ではなく。愛しいその瞳を見つめながら、興奮気味にまくしたてる。 「みつただ。なあ、みつただ……お前の親が数ある刀工の中から光忠を選んだのはこの刀からじゃないのか?」 だって、こんなに似ている。こんなに美しい。

2018-08-07 20:48:49
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 俺はそのあとも、自分が感じたことをたくさん光忠に話した。恥ずかしいこともいくらか言った気がする。だが、今伝えなくてはと、掻き立てられるようにして思ったのだ。 「お前と見に来られて、良かった」 嬉しくて、幸せで、自然と表情がほどけた。不思議だ。この刀は俺を素直にさせてくれる。

2018-08-07 20:56:02
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 目の前の光忠は不思議な表情をしていた。真顔に近いが、頬がほんのり赤く、何事かを言いたげに口は薄く開かれ。俺たちはしばし見つめ合った。だが、展示室に人が増えてきたので、なるべく部屋と通路の隅を通って、無言で博物館の外に出た。 「ちょっと、歩こうか」 時間のロスなど考えずに俺は頷いた。

2018-08-07 21:06:35
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx ―― 「すごかったな」 「うん、本当に、すごかった」 もう何度目かわからぬやり取り。感動の余韻。いっそ軽い酩酊状態。俺たちは手を繋ぎ、長い橋を渡りながら、興奮に火照った頬を夕方の風で冷ました。予定では、もう少し早く次の目的地に着くはずだった。だがもはやどうでもよかった。

2018-08-07 21:14:21
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 次の目的地で、本日の旅程は終わる。朝イチで訪れた梅林の、線路を渡った向こう側に、美しい湖があった。宿は湖を見下ろす高台の旅館を押さえてある。まずはほとりの雰囲気の良いカフェで休憩、その後湖の周りを一周して宿へ向かうプランだが。 「ねえ、今体力どんな感じだい?」 「あ……」

2018-08-07 21:22:20
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 正直、疲労感はかなり濃くなっていた。光忠はそれを察したのだろう。俺は素直に状況を伝えた。 「だが、すぐに宿に向かうのはもったいないとも思う……」 「なら、あれに乗って楽に散策しちゃわない?」 光忠は楽しそうに手漕ぎのボートを指差した。なるほど、いい案だ。ボートなんていつぶりだろう。

2018-08-07 21:28:15
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 船着き場の、人のよさそうなおじさんにお代を渡し、やや腰を落として底面に足を下ろす。ぐらついたので、慌ててもう片足も乗せる。 「さあ、行こうか!」 光忠は笑顔を輝かせながらオールを動かした。やけに元気だ。それに嬉しそうだ。まさか、デートの定番らしいこれに憧れていたのか?可愛い奴だ。→

2018-08-07 21:45:06
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 水に浮かんだ花びらをかきわけるようにしてボートを漕いだ。オールを動かすことで水面に小さな波が起こり、花びらも流れていく。 びゅう、と風が僕たちの間を通り、抜けていく。 薄い、ピンク色で、 「まるでハートが飛んでいるようじゃないか」

2018-08-14 10:20:33
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 風で乱れる髪を軽く整えつつ、向かい側に座る長谷部くんの方に視線を向けると両手で顔を押さえて溜息を吐き出す長谷部くんがいた。 「……お前、恥ずかしい奴だなあ」 「えっ、あ……もしかして、声に出してた?」 それに、こくんと頷き返す長谷部くんに、僕はかっこ悪いなあ、と暫し頭を抱える。

2018-08-14 10:20:52
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「でも、本当にこれがハートなら、長谷部くんに僕がどれだけ長谷部くんのことが好きなのか目でわかってもらえるのに。……ほら、これなんかはきっと、長谷部くんにくっつきたい僕のハートだね」 長谷部くんの煤色の髪に絡んだ一枚の花びらを指す。

2018-08-14 10:21:15
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 長谷部くんは視線の先の花びらに手を伸ばし、手に取る。 じわじわと恥ずかしさが込み上げてきたのだろう、頰を赤くした長谷部くんの声が静かな湖に響いた。 「本当にお前は恥ずかしい奴だな!」 「よっ、と」 長谷部くんより先に岸へと足をかける。 「ほら、長谷部くんも」

2018-08-14 10:21:38
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 彼が降りやすいよう場所を空けて促す。 「ああ」 僕に続いて長谷部くんも立ち上がろうとするが何かに阻まれるようにストンと定位置に戻る。肩にかけていた鞄が立ち上がろうとした際に引っかかったのだろう。

2018-08-14 10:22:03
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