燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 眉間に皺を寄せながら無言で片手が差し出される。長谷部くんの表情は、前髪で影になってよく見えない。僕は首を傾げつつ少し膝を曲げて長谷部くんの顔を覗こうとする。 そんな僕に見兼ねてか、長谷部くんが僕を見上げ、再度手を主張するようにして手を僕の方へと向ける。 「……手、」 「手?」

2018-04-30 10:45:50
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 僕の手にはスマートフォンが収まっている。“携帯を渡せ”ということだろうか。 おずおずと携帯を長谷部くんの前に差し出せば、違うと言わんばかりに長谷部くんの眉間の皺が深くなる。その様子に僕は慌てて携帯を引っ込めようとする。

2018-04-30 10:46:46
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march が、僕の携帯は気付いた時には既に長谷部くんの手の中に収まっていた。 真っ暗なままな画面と僕の顔を交互に眺めた後、長谷部くんは自身のコートの中に僕のスマートフォンを放り込む。 「あ……っ」 「……此れで片手が空いたな」 ぽかんとした表情のまま動けない僕の手を掴んで長谷部くんは横に並ぶ。

2018-04-30 10:47:07
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「長谷部くん……?」 「……お、俺が居るのに待ち受け画面ばかり見ていなくても良いだろう、」 「っ……!」 ぽつりと言葉を吐き出した長谷部くんの耳はほんのりと赤い。俯いていて表情は見えないが、恐らく耳同様に顔を真っ赤にしているのだろう。

2018-04-30 10:47:27
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 画面に映る自分自身に嫉妬心を露わにする恋人に思わず笑みが零れてしまう。嬉しさから上ずってしまいそうになる声を抑えるべく口を手で塞ぐ。 「ごめんね、長谷部くん。きみが頑張って笑ってくれたんだと思ったら嬉しくなっちゃったんだ」 「っ、わかればいいんだ。ほら、急がないと全部回れないぞ」

2018-04-30 10:47:48
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「わかってるよ、少し早足で行こうか」 長谷部くんは旅のしおりを僕に突き付け、僕の手を引っ張った。 住宅地を通り、横断歩道を渡る。周辺地図の載った看板を見つけ現在地を確認する。目的地はもうすぐだと看板を指差して長谷部くんの方を見れば、

2018-04-30 10:48:15
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march わかっていると言わんばかりの表情で長谷部くんは頷いた。 建物の中に入れば、ひんやりとした空気にほっと一息をつく。大した距離ではなかったものの、春の陽射しにじんわりと汗が滲んでいた。 「長谷部くん、入場券を買ってくるね」 手を離そうとした僕の身体がつんのめる。

2018-04-30 10:48:38
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 振り返れば、長谷部くんが僕の手を引っ張っていた。 「俺も行く」 「じゃあ、一緒に」 「待ってばかりは嫌なんだ」と口を開いた長谷部くんに応えるように僕は握った手に力を入れた。→

2018-04-30 10:48:53
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx (駄々っ子だと思われただろうか) 少し不安に思いつつ、力を込めてくれた光忠の手をきゅっと握り返して、俺たちは入場券の列に並んだ。自分たちの会計の番になり、いったん手を離す。互いの手は少し汗ばんでいて、館内の空気に触れるとひやりと冷気を感じた。たったそれだけのことに心細さを感じる。

2018-05-07 08:16:30
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx いつもより長く手を繋げたら。俺の願いは叶ったというのに、もっと、もっとと求めてしまうのは、俺が聞き分けのない子どもだからなのか、それとも。 (光忠の手……大きくて、あたたかくて、きもちがいい) けっして変な意味ではないが、繋がっている間、そんなことを考えていた。

2018-05-07 08:16:56
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 会計を終え、展示室の入り口で係員にチケットを見せ、俺はすぐ光忠の手を取った。すると光忠が、鑑賞者の邪魔にならないよう声を潜めながら、少し上ずった声をあげた。 「あの、ね、長谷部くん」 「ん……?」 「外、結構陽射しがあったから、今、ちょっと汗ばんでてさ、その」 珍しくもごもごと喋る。

2018-05-07 08:17:20
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「きもちわるくない?手……」 気まずそうな光忠の顔をきょとんと見上げてしまう。 「そんなわけないだろ?」 「えー、無理してない?」 「してない。全然いやじゃない」 「きたなくない?」 「お前にきたないところなんてないだろう」 よろり。そんな音が聞こえてきそうな動作で、光忠がよろめいた。

2018-05-07 08:18:13
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 口を手の甲で塞ぎ、ふるふると睫毛を震わせる光忠。しまった、俺の発言こそ気持ち悪かったのでは!? 「す、すまない、その、いやな思いをさせて」 「い、いや、ちがうんだ、むしろ逆で」 光忠はふいっと顔を背け、それでも手だけはしっかりと繋ぎ直して、館内の薄暗い照明の中ゆっくりと歩きだした。

2018-05-07 08:18:53
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx この博物館には、かつてこの地方を治めた名家の宝物がずらりと展示されており、漆塗りの食器、金箔が張られたきらびやかな調度品、冑や甲冑のレプリカなど、興味深いものがたくさんあった。一言二言簡単な感想を呟きながら進む。旅程の都合上、あまりゆっくり見ている時間もないのだ。

2018-05-07 08:19:20
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx だが、最後の展示品の前で、俺たちはぴたりと足を止めた。 「光忠……?」 「光忠だね」 「えっ光忠?」 妙な会話をしてしまう。俺は食い入るように展示物の説明パネルを読んだ。 「この刀、お前と同じ名前だ!」 「そうだね、僕も見るのは初めてだ」 「知ってたのか」 「実は僕の名前の由来なんだ」

2018-05-07 08:30:33
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 光忠の親が時代劇好きということで、有名な刀の作者名からその名を借りたのだという。俺は俄然、その刀と作者に興味を引かれた。 「なるほど。俺はこういうものの鑑賞には慣れていないが、それでもこの刀が良いものだというのはわかるぞ」 「あはは、かくいう僕もよくわかってないんだけどね」

2018-05-07 08:38:24
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 繋いだ手をいったん離し、二人で腰を落として刀を見つめる。展示灯の淡い光を刃の上に滑らせるようにして、顔の角度や見る位置を変える。 「綺麗だな」 「武器なのにね」 「武器だからこそ、かもな」 正しい鑑賞方法や見所は正直よくわかっていなかったが、それでも俺はこの刀に夢中になった。

2018-05-07 08:42:49
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「ねえ、長谷部くん」 刀から目を離さぬまま返事をすると、くいっと腕をとられた。 「君の光忠は」 目を上げると、口を尖らせた光忠。 「……こっちだろ?」 ……思わず、ぽかんと口を開けた。そしてすぐに、俺は噴き出した。 「刀に嫉妬したのか!?」 「笑わないでよ……」

2018-05-07 12:30:51
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 可愛い。俺の光忠がこんなにも可愛い。特に「君の光忠」と自覚してるところがたまらない。俺は頬を緩ませたまま、光忠の手を握り直した。 「機嫌を直せよ。昼はお前が気になってた店に行くんだろ?そろそろ出よう」 「食べ物で釣る気かい?」 少々むすっとしながらも、光忠は俺の手を握り返した。→

2018-05-07 12:31:15
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 施設のロビーで電話を掛け、駐車場に出た所で丁度到着したタクシーに乗り込んだ。 行き先を伝えると車はゆっくりと施設を離れて行く。 「……駅の近くじゃなかったのか?」 「あー……うん。周辺ではあるんだけど歩くと時間がかかっちゃうからねえ。

2018-05-29 11:41:50
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march お昼は僕が行きたい店に付き合ってくれるんだろう?」 「だが、」 「昼からも行きたい場所があるんだろ?僕がお店に行きたいって言ったばっかりに行きたい場所に行けなくなっちゃったら、後悔しちゃうから、さ?」

2018-05-29 11:42:29
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march しおりを取り出して二人で昼からの予定を確認する。午後の予定の部分を指差し「此処、行きたかったんだろ?」と尋ねれば、長谷部くんはこくんと頷いた。 ◆ 「美味しかったねえ」 「酒が呑みたかった……」

2018-05-29 11:43:51
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「あはは、そんなに呑みたかったのなら呑んでも良かったのに」 食事が終わり、迎えに来たタクシーに乗り込んで長谷部くんはぽつりと吐き出した。それに僕が笑えば、長谷部くんはむすっとした表情で応える。 「お前が此処に行きたかったように俺も昼からの旅程を楽しみにしてるんだ、未だ酔う訳には」

2018-05-29 11:44:22
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「そっか。ならお酒はまた夜にね」 「ああ」 膝の上で抱えたお酒の入った土産袋を持つ手に力が入る。 長谷部くんの肩を、空いている方の腕でそっと抱き寄せてやれば「暑苦しいだろ」と文句を言いながらも大人しく体重を此方に掛けてくる。僕は、ひとり満足気に微笑んだ。→

2018-05-29 11:44:39
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx @hamu2march 午後は、午前に行ったのとはまた別の博物館に向かった。そろそろ察しがついていると思うが、俺は知識やデータを集積するのが好きな方だ。人生の密度が高まる気がする。旅程を組む段階で光忠にそう告げたら、興味深そうに聞いてくれた。 『それなら、僕のこともたくさん知ってほしいな』

2018-07-28 22:46:14
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