燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 通りを右に曲がり砂利道を歩く。両脇の屋台からの呼び込みを軽く受け流しつつ参道へ。 辿り着いたのは緑豊かな神社。木立に囲まれた静謐な雰囲気だが、梅が見頃のこの時期ばかりは賑やかな笑い声が響いている。境内には大きなテントが張られ、梅酒まつりなるものも開催されていた。なんと魅力的な。

2018-03-23 09:07:24
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「長谷部くん」 笑いを含んだ光忠の声にはっとしてかぶりを振る。 「だめだ。今酒など飲んだら旅程に障るだろ」 「君がいいならいいのだけど」 くそ、見透かされてる。俺は甘いものも酒も好物なのだ。煩悩を振りきるようにして手水舎で手と口を清め、二人旅の成功を祈願するべく社殿へと向かった。

2018-03-23 09:09:41
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 賽銭を入れ、二礼二拍一礼。静かな心で、感謝と願いの祈りを込めて手を合わせる。一通りの手順で願いを伝えてそっと瞼を上げると、光忠はまだ目を伏せており、じつと手を合わせ続けていた。整った横顔。普段は微笑みを絶やさない光忠の、いっそ怖いくらいに真剣な表情。目が奪われた。→

2018-03-23 09:10:01
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 顔を上げる。 一礼し、隣の様子を伺おうと視線を移すと長谷部くんと目が合った。少し時間を掛け過ぎただろうか。 「長谷部くんも終わったかい?それじゃ、列から抜けようか」 「……ああ」 じっとこちらを見つめる彼の肩を軽く叩き列の外を指差しつつ尋ねる。頷いたのを確認して場所を移動する。

2018-03-26 17:56:35
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 僕らが場所を退くと、直ぐに次の組が賽銭を投げ入れていた。待機列の邪魔にならないよう御籤の箱の傍を通り石段を降りていく。 「待たせちゃったみたいで、ごめんね」 「あ、……いや」 「感謝することが多くて、ね。例えば……ほら、長谷部くんと一緒に居させてくれてありがとう。とか?」

2018-03-26 17:57:10
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「またそういうことを言って、お前は照れるということがないのか」 「照れる?何で?」 長谷部くんの返答に首を傾げると、呆れた。と溜息を吐き出されてしまった。 「長谷部くん、少し待っててくれるかな」 「良いが、次の行程もあるんだ。なるべく早くな」

2018-03-26 17:57:31
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「分かってるよ、長谷部くんはせっかちだなあ。……でも、折角なら全部回りたいもんね。直ぐに戻ってくるよ」 長谷部くんを置いて社務所の方へ向かう。御守りを2つ受け取って長谷部くんの元へと早足で戻り、その内1つを差し出した。 「はい、長谷部くんの分」

2018-03-26 17:57:47
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 黒い御守りが差し出された長谷部くんの手に収まる。掌の上に置く際、カランと小さく音が鳴った。 空いた方の手で御守りを持ち上げてまじまじと見る長谷部くんに、先程聞いた御守りについての話を伝える。 「中に小さなカエルが入ってるんだって。無事に“帰る”って……何を笑っているのさ」

2018-03-26 17:58:07
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 説明の途中で長谷部くんが吹き出すものだからじとりと見やった。 「いや、あまりにも真面目な顔で言うものだから……」 「僕、おかしな話はしてないよね?!」 格好良くきめようとしたのに失敗した。僕はしょんぼりと項垂れた。→

2018-03-26 17:58:17
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 光忠からもらった、木でできた変わった御守りを早速鞄にくくりつける。 「お前はかっこつけのくせに、案外素朴というか。その見た目で願掛けや験担ぎに熱心なのが面白くてな」 「……悪かったね。どうせ僕は古くさい男さ」 「はは、悪いなんて言ってないだろ」 むしろ好ましいというのに。

2018-04-02 20:26:15
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx むうっと眉根を寄せた光忠の目が、ふと俺の鞄に留まったかと思うと、みるみる表情が緩んでいき。 「鞄につけてくれるんだ……」 「ん?他につけられそうなところはないだろ?」 黒塗りに金の紋が入ったシックなデザイン。おかしくはないと思うのだが。 「見るからにお揃いだね、ってこと 」 「……あ」

2018-04-02 20:26:47
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx そうか。そういうことになるのか。お揃い。恋人や友達同士でやるアレ。恋人の光忠と、初めてのお揃い。急に実感が湧き落ち着きをなくした俺の目の前で、光忠も自分の鞄にそれを結んだ。 「どう?似合うかな?」 黒と金の御守りは、光忠の雰囲気にとても似合っていた。素直に頷くと、笑顔が輝いた。

2018-04-02 20:43:33
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「よし!神様にご挨拶も済ませたし、そろそろ移動しようか」 俺たちは屋台の通りを引き返し、梅の咲き乱れる庭園に入った。 ――白、薄紅、濃紅、黄。控えめで軽やかな一重、もこもこと晴れ着を着こんだ八重。見渡す限りの梅の花。独特の清涼感のある香りが、辺りの空気を爽やかにしていた。

2018-04-02 20:44:09
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 俺がイメージしていた梅の香りは、梅味のガムや飴のそれだったが、実際には果実のような甘さはさほどなく、お香を思わさせる落ち着いた香り。本当はもっと香るのだろうかと鼻先を花に近付ける。その瞬間、突然パシャリと音がした。 「あっ!?何撮ってるんだ!?」 「何って、君の可愛い姿だけど?」

2018-04-02 20:45:07
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 慌てて光忠のスマホに手を伸ばすも、腕を思いきり高く掲げられてしまい。 「消せ!絶対間抜けな顔してただろ!」 「だぁめ。一生消さない」 いたずらげに笑う光忠の背後で、枝垂れの梅が風に吹かれて優しく揺れた。幾枚かの花びらが空を舞う。俺の胸の内側にも、花びらがふわりと舞うような感覚。

2018-04-02 20:45:55
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx (ああ、好きだ、光忠のことが) 恋をしているな、と自覚する。いい歳した男が言うには寒いが。これをときめきと言わずに何と言う。 (本当に、好きなんだ……どうしたらいいかわからなくなるくらい) 胸の中に舞い落ちた薄紅色の花びらを宝箱にしまうように、俺はそっと胸に手を当てて蓋をした。→

2018-04-02 20:47:11
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march ふと、考え込むような、そんな仕草を見せる彼に声を掛ける。 「長谷部くん。……ごめんね、そんなに嫌だったとは思わなくて」 ああ、僕はまた長谷部くんを傷付けてしまったのだろうか。少し俯きがちに、視線を落とす彼に近付き顔を覗き込んだ。 「君が嫌なら今すぐ消すよ」

2018-04-07 14:11:23
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「そうじゃない、そうじゃないんだ」 僕の言葉に首を横に振り否定する。 「でも……、」 長谷部くんの頰に指を伸ばして触れようとする僕と彼の間でカシャリ。と電子音が鳴った。何事かと目線を長谷部くんの方に向ければ、

2018-04-07 14:11:46
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 僕に向けられたスマートフォンのカメラレンズにうっすらと僕の影が入り込んでいる。 「……仕返し、だ」 ニヤリと口角を上げて見せられる画面にはなんとも情け無い姿の男が映っていた。そこで漸く僕は長谷部くんに己の姿を撮られたことに気付く。 「ああ、もう!早く消して!」

2018-04-07 14:12:09
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「嫌だ。待ち受け画面にしておいてやろう」 「ひどいや、長谷部くん……!」 「お前だって消さないって言っただろう」 「そうなんだけどさ、だからってその顔はダメだよ……!ほら、2人で撮り直そう……!」

2018-04-07 14:12:32
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 自身のスマートフォンを取り出して、写真の撮り直しを強請るが長谷部くんの「却下だ」の言葉で僕は一旦引き下がることにした。 「でも、さ……折角だから2人で映った写真がほしいのは本当だよ」 「……突然何を、」 「今日は良い天気だから、ほら。結婚式の前撮りかな……?」

2018-04-07 14:12:49
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 目線の先には色打掛を着た女性とそれに寄り添うに歩く袴姿の男性。後ろにはカメラを抱えた男性と数人。春先とはいえ陽射しはそれなりに差し込んでおり、女性の額にはじわりと汗が滲んでいた。後ろに控えた女性が化粧と衣装を整え、カメラを向けられれば、

2018-04-07 14:13:20
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 風になびく梅の木を背に笑顔を見せる男女が写る。 「僕らもさ、こうやって何か、残せたら素敵だよね」 「あ、おい──」 すっと内側カメラに設定したスマートフォンを構える。僕らと梅と、画面に写るようカメラを傾けて僕は撮影ボタンを押した。→

2018-04-07 14:13:36
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「長谷部くんありがとう!」 僕はスマートフォンを手に握り締めながら浮ついた気分で足を進める。 僕の携帯の待ち受けは先程撮ったツーショット。画面に映る長谷部くんが不器用に笑う。それだけで僕の目尻は下がってしまう。 「おい」 ざりざりと音を立てて砂利道を抜ける。

2018-04-30 10:45:06
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 一歩出てしまえば其処は直ぐに住宅地で。旅行行程ではさっさと次に進まなければ後がつかえてしまうのだが、もう少し滞在したい気持ちに後ろ髪を引かれる。 未練がましく背後を振り向けば、不機嫌そうな長谷部くんが視界に入る。 「おい、って言ってるだろ」 「何をそんなに怒っているの」

2018-04-30 10:45:25
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