燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 欠伸をしながら、腕を頭上に上げて伸びをする。すると右手に妙な重みというか引っ張られている感じが……っあ!? 「うわ、っ。す、すまない……!」 なんと俺の右手は光忠に繋がれたままで。慌てて手を離すも、そのままでも良かったのにと笑われてしまい。 (いつだってこいつがウワテなんだよな……)

2018-03-18 02:09:50
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 俺だってたまには光忠の想像を越えるようなことをしたい。こいつが顔を赤くして狼狽えているようなところが見たい。難しい表情の俺と、なんだかやたらと幸せそうな光忠は、次の乗り換えのためのホームに向かった。 次に乗る電車は、暖房の熱を逃がさぬよう、ドアの開閉が押しボタン式のもの。

2018-03-18 02:10:18
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 普段乗る電車とは違った雰囲気に、旅をしている実感が湧く。再びボックス席を選び、今度は向かい合わせに窓際に座った。俺は先程ホームの自販機で買った温かいお茶を開け、光忠は鞄から小ぶりの菓子類を出した。旅感が高まる。本当は駅弁も気になったが、帰りは特急に乗る予定なので、それまでお預け。

2018-03-18 02:11:13
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「だいぶ景色が変わったよね。さっきからずっと畑の中を走ってる」 「ああ。だがそろそろ山の間に入るみたいだぞ」 進行方向を向いて座る俺が、窓に額をつけて線路の先を見つめていると、くすくすと笑われた。 「……何がおかしい」 「ふふ、ごめん、おかしくなんてないよ」 光忠が目を細めて笑う。

2018-03-18 02:12:19
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「嬉しいんだ。君とこんな風に過ごせるのが。長い移動時間、僕は君といるのが全然苦じゃないのだけど、君はどうだい?」 目を丸くして光忠を見つめる。 「苦になるはずないだろ。いつだって、少しでも長くお前といたいと思ってるのに」 今度は光忠が目を丸くした。その目元が、頬が、色付いていく。→

2018-03-18 02:13:23
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「っ、!そ、そっか……う、うん。ありがとう。嬉しいな……そっか……そうかぁ……」 今日の旅行に対して、長谷部くんも僕とおんなじ気持ちだったら良いな、なんて思いから軽く声を掛けたつもりだったのに。彼の返答は嬉しい誤算だった。長谷部くんがきちんと言葉で返してくれることが

2018-03-18 16:34:05
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march こんなに嬉しいなんて。 じわじわと広がる熱で耳まで熱い。顔から火が出そうとはこういうことを言うのだろう。 僕は正面に座る長谷部くんから視線を逸らす為に窓の外へと視線を移し、前髪を搔き上げるようにして左手で顔を覆い隠した。その際にもたれ掛かった先の、コツンと当たる

2018-03-18 16:34:42
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 窓の冷たさが心地良い。 「光忠……?」 一連の流れを不思議そうに眺めていた長谷部くんが恐る恐る声を掛けてくれる。それに気付いた僕は姿勢を正し、呼吸を整えた。 長谷部くんの方へと視線を戻して、彼の目に映る情けないの己の姿に苦笑いを零しつつ、長谷部くんへと手を伸ばす。

2018-03-18 16:35:31
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「……ああ、駄目だね。長谷部くんに心配をかけちゃ。長谷部くんの言葉が嬉しくて、ね。今日はたぁくさん長谷部くんを甘やかして駄目にしてあげようと思っていたのに、僕の方が先に駄目になっちゃいそうだ」 彼の腕を引き自分の方へと引き寄せれば、こつりと額同士が触れる。

2018-03-18 16:36:26
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 人前で言われたら怒ってしまうだろう長谷部くんに、僕は彼にだけに聞こえるような声で囁いた。→

2018-03-18 16:36:36
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「  」 光忠の形の良い唇が、そっと息を吹き掛けるように動いた。ほとんど吐息だけで発音されたその言葉。額をふれ合わせ、至近距離で囁かれた言葉に、俺は首から上が急速に真っ赤になっていくのを感じた。 「なっ……ばっ……おま……ばか……こんなところで……っ!」 「大丈夫、聞こえてないよ」

2018-03-18 20:08:47
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 他の乗客の様子を窺うと、たしかに皆スマホをいじったり、居眠りしていたり、連れ合い同士と会話をしていた。とはいえ恥ずかしさは拭えない。ぐっと背を反らして光忠から体を離す。光忠は満足げに笑いながら、俺の腕をとらえる手を離した。 「やっぱりこうでなくっちゃ」 くそ、今のは反撃か……。

2018-03-18 20:20:05
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 悔しい。俺だって大人の男だ。このままでは名誉に関わる。大体、たくさん甘やかすって、駄目にしてあげるって、どういうことだ! 俺はそういう一方的に尽くされるようなのは気にくわないと言っているのに! 窓枠に肘を置き、膨れっ面で遠くを眺める。 (……じゃあ、本当は俺は、どうされたいんだ?)

2018-03-18 20:29:19
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx しばし口を休め、漠然と考えてみる。 (俺は尽くす方が性に合ってるが) 普段の強気な態度のせいか周りに誤解されやすいが、俺にはもともとそういう性質がある。だから尽くされっぱなしは座りが悪い。 (それはこいつも同じか) どう見ても尽くしたがりのこの恋人。ふ、と頬が緩む。 (似た者同士なんだな)

2018-03-18 20:49:24
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx ならば、少しは受け入れてみようか。こいつのしたいことを。突っぱねてばかりではきっとわかり合えない。 「俺だって」 光忠に顔を向けないまま口を動かす。 「お前のこと甘やかして駄目にしてやる。覚悟しておくんだな」 ……口から出たのは相変わらず可愛くない言葉だったが。光忠は愉快げに笑った。

2018-03-18 21:01:10
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「オーケー。楽しみにしてるよ」 車窓の風景が、山や田畑から住宅地に変わった。それからしばらく走り、再び林や空き地のような地帯を進むうちに、左手に小高い丘が現れた。ところどころに白や濃いピンクの花が咲いている。梅だ! 「光忠」 「ああ、春を告げる色だね」 そして電車は目的地に到着した。

2018-03-18 21:06:26
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 駅を背中に向け北に約230メートル。左手に見えてくる歩道橋を渡って更に約100メートル。歩道橋を下ると其処は── 長谷部くんが作ってくれた旅のしおりを片手に僕たちは足を進める。歩道橋の上から目的地を見下ろせば、先程降りた駅から電車が遠ざかっていくのが見えた。

2018-03-20 07:04:31
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march びゅう、と風が吹く。丘の上に咲いている梅の花弁がふわりと舞い上がり、僕たちの目の前をピンク色の風が通り過ぎてゆく。今朝セットしたばかりの前髪が少し乱れてしまったのを押さえつけながら、僕は長谷部くんの方へと振り返った。 「ふふ、よく調べたねえ……!」

2018-03-20 07:05:12
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「っ!……お前、莫迦にしてるだろう」 「してないよ。長谷部くんがこうやってきちんと調べてくれたから、僕らは迷うことなく此処まで来れたんだし、それに、迷っている時間も勿体ないだろう?」 しおりの行程の載ったページを開き、爪先で軽く叩く。

2018-03-20 07:05:50
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march そう、お昼は何処で、等とぎゅうと詰め込まれた希望を存分に楽しむためにも道に迷っている時間はないのだ。 「ほら、もう目的地は目の前だよ。長谷部くん、行こう」 「……ああ」 にっこりと笑顔を浮かべながら、長谷部くんへと右手を差し出す。

2018-03-20 07:07:06
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 恥ずかしながらも、それに付き合ってくれる彼が愛おしい。 (僕は充分に君に甘やかされていると思うのだけれども、分かっているのかなあ?) 重ねられた手を握り締め、僕たちは歩道橋を下りていく。

2018-03-20 07:07:38
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 相変わらず周りを気にしてしまう長谷部くんの身体を引き寄せて、彼の手を繋いだ僕の手ごとコートのポケットに突っ込んでやった。→

2018-03-20 07:08:02
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx “旅先では、いつもより長く手を繋げたらいいな”。 旅行の計画中ひそかに抱いた願いが、早々に叶ってしまった。緩んだ頬を見られたくなくて俯くも、強風で前髪が散らされ、締まりのない顔が露になる。 俺の右手と光忠の左手。繋がった両の手は、光忠のコートのポケットの中でぬくぬくと暖まっている。

2018-03-23 09:06:23
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx やけに温かいと思ったら、光忠のポケットにはカイロが入っていた。今日は晴天だが、風が強く体感温度が低いのでとても助かる。俺は寒さは得意ではないのだ。 坂道を登りきると、そこは土産物店と屋台が立ち並ぶ賑やかな通りだった。饅頭、おやき、甘酒、鮎の塩焼きといった素朴な香りにほっとする。

2018-03-23 09:06:44
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「見て!長谷部くん好きそう!」 光忠がうきうきと指差したのは、鉢の中で炭火を囲むようにして炙られる大きな三連団子。砂糖醤油の芳ばしい香りにそそられるも。 「……食べ歩きするほどの時間はない。それより参拝だ」 「そう?」 笑いながら顔を覗き込まれる。そんなに食べたそうな顔をしていたか。

2018-03-23 09:07:03
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