燭へしが旅行するお話

Twitterで朝凪さん( @hamu2march )とリレー形式で行っているSSのまとめです。
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壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 旅行当日、僕はアラームが鳴るよりも先に目を覚ましてしまった。二度寝をしてしまおうかと思ったが、時刻はアラームが鳴るまであと数分といった所で二度寝をするには不十分であった。それならば長谷部くんと会うまでの時間を少しでも楽しもうではないかとアラームをオフにし、

2018-03-14 18:58:02
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march ベッドから這い出ることにした。 ベッド脇に置かれた衣服を広げて、鏡の前で身体にあててみる。数日前に長谷部くんに買い物に付き合ってもらい、選んでもらったことを思い出し、満足気にふふりと笑う。 (長谷部くんの方は、気に入ってくれただろうか……)

2018-03-14 18:58:35
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 長谷部くんに似合うと思った服を数点押し付けて試着室に放り込んだ。試着を終えた長谷部くんを見るべく試着室の扉を開け覗き込んでいると試着状況を見に来た店員さんに「似合いますね」と声を掛けられる。そうだろうと良い気分になって、恥ずかしそうに「やめてくれ」と試着室の扉を閉められないまま

2018-03-14 18:59:03
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 此方を睨み付ける長谷部くんを余所に購入を決めてしまった。 ショップバッグを抱きしめるようにして持ちながら不機嫌そうに僕の後ろをついてくる長谷部くんを宥めるのには時間がかかった。 ──そんな僕の心配は、長谷部くんがその日購入してきた服を着て来てくれたことで吹っ飛んでしまったのだが。

2018-03-14 19:00:04
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「長谷部くん、おはよう!」 長谷部くんの最寄駅での待ち合わせ。 未だ眠そうな彼の様子に、長谷部くんの少し曲がった襟を直しつつ体調の確認をする。「……今日が楽しみであまり寝られなかったんだ」と恥ずかしそうに返してくる長谷部くんに僕は心の中で悶えた。

2018-03-14 19:00:29
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 不思議そうに見上げる長谷部くんに何でもないと首を振り、駅のホームへと促す。 「到着するまでに時間があるからね、眠たかったら寝たら良いよ」 ……この言葉に下心がないとは言わない。→

2018-03-14 19:00:55
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 昨夜は……いや、昨夜もあまり眠れなかった。旅行前日、期待と不安で目が冴えてしまったのだ。自分が作った旅のしおりを何度も読み返した。 旅のしおりと言っても、実際は情報を淡々と打ち込んだ業務用資料のような体裁。一応、観光客数の推移や梅の生産高全国順位だとかもグラフにして載せてみた。

2018-03-17 00:16:02
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx すぐ数字やデータに頼る性格、我ながら可愛くないと思う。だが光忠は喜び誉めてくれた。本当にいい奴だ。 ただ、旅行前に光忠の買い物に付き合った際、楽しげに服を見立てられ、挙げ句いつのまにか光忠が支払いをしていたのには焦った。このままではまたこいつにもてなされてしまう。そうはさせるか!

2018-03-17 00:17:27
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 俺は思いっきり不機嫌な顔を見せ、折半することを飲ませた。 帰宅後、鏡の前で再度試着したとき、少しにやけてしまった。ああいう態度を取ったものの、光忠好みの服を着ているという事実が嬉しくてたまらなかった。 だが、服を脱いでいくうちにふと「そういう展開」のイメージが頭に浮かんでしまい。

2018-03-17 00:20:32
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx (そういえば、まだ光忠ときちんと確認してないが、ポジションとでもいうのか、そういうのはどうやって決めるんだ……?) シャツのボタンを外す手を止めたまま考え込む。 (……俺が下になるイメージしか湧かないのはなぜなんだ……) そう、俺を眠れなくさせた要因は、夜の展開についての不安。

2018-03-17 00:31:30
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 考えれば考えるほど煮詰まってしまい、旅行前夜もそのことで頭がいっぱいになり、なかなか寝付けなかった。 「長谷部くん、おはよう!」 当日の朝。光忠は、曲がっていたらしい俺の襟を直しながら体調を問うた。 「……今日が楽しみであまり寝られなかったんだ」 その理由は恥ずかしくて言えない。

2018-03-17 00:38:28
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「到着するまでに時間があるからね、眠たかったら寝たら良いよ」 「いや、それでは二人旅の意味が」 「到着する前に疲れちゃうのは悲しいよね?」 それはそうだが。頷けないでいるうちに、電車がホームに滑り込んできた。足早に乗り込み、かねてから目をつけてあったボックス席へ。よし、計画通り。

2018-03-17 00:49:30
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 俺が先に窓際の席に腰を下ろす。すると、正面か斜め向かいに座ると思った光忠が、隣に腰かけた。 「足が長いんでね」 「ははっ、嫌みな奴」 電車が動きだした。車体を少し傾げながらゆっくりとカーブを曲がり、次第に加速していく。時折大きく揺れ、そのたびに肩や膝がふれ合う。少しどぎまぎする。

2018-03-17 01:01:14
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx だがじきに慣れた。春の朝の光でぼんやりと白んだ車内。心地よい揺れ。膝から下を温める座席ヒーター。隣に座る恋人の高めの体温。そういったものが俺の緊張をほぐしていった。その分あくびが止まらなくなったが。 「安心して寝てていいよ。終点まで行くんだし」 「ん……そうか、なら、少しだけ……」

2018-03-17 01:07:26
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 光忠がぽんぽんと自分の肩を叩く。俺は少し赤面しながらその肩に頭を預けた。……なるほど、悪くない。 目を閉じるとすぐに、ぐらりと体の軸が傾いた。睡魔が光忠の肩に宿っていたのかと思うくらい、急激な眠気に襲われた。意識が遠のく中、柔らかく手を握られたのを感じたので、精一杯握り返した。→

2018-03-17 01:19:06
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 「長谷部くん、お休み……」 僕の左肩に寄りかかって寝息を立てはじめた彼の頭を空いた右手で撫でてやる。俯いた顔を隠すように落ちる前髪を持ち上げてやれば柔らかく弾力のある髪が指に絡みついた。 薄っすらと長谷部くんの瞼の下に残る隈にそっと触れる。連日服が欲しいだの、

2018-03-17 21:00:13
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march あれが必要だのと仕事終わりに連れ出してしまったが、彼の負担にはなってはいなかっただろうか。優しい彼のことだ、僕が不安を吐露したところで、疲れている時はきちんと断っていると返されてしまうのだろうけれど。勿論彼が同様のことを問い掛けたとして、僕も無理はしていないと返してしまうのだが。

2018-03-17 21:00:43
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march (……だって、本当に無理なんてしていないんだから、仕方がないじゃないか) 例え、疲れていたとして。甘え下手な彼が時折こうして甘えてくれる瞬間が、僕の疲れ等何処かへやってしまうのだから、つい僕が長谷部くんに構いたくなってしまうのも仕方がないことだと許してほしい。

2018-03-17 21:01:08
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 車体がカタンと揺れる。その衝撃で僕の肩に寄りかかる彼の身体がふわりと浮いた。 「おっと、」 それを定位置に戻すように右手で肩を掴み、引き寄せる。小さく長谷部くんから呻き声があがる。起こしてしまったかな、と恐る恐る彼の方にちらりと視線を向ける。暫くすると再び規則的な呼吸音が

2018-03-17 21:01:30
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 聞こえるのを確認し、僕はほっと胸を撫で下ろした。 『此方は──線──行きです。次は終点──』 幾つかの駅を通り過ぎた後、車内放送が終点駅の名を告げる。そろそろ長谷部くんを起こさなければ。 「ねえ、長谷部くん。そろそろ起きないと」 「ん……」

2018-03-17 21:01:58
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 僕は長谷部くんに声をかける。ぼんやりとした眼で車内の電光掲示板を見やり次の到着駅を確認すると、欠伸をしながら身体を伸ばした。繋いだままの手がくん、と引っ張られる。 「うわ、っ。す、すまない……!」 「良いんだよ。繋いだままにしておいたのは僕の方なんだしさ」 長谷部くんの手につられ、

2018-03-17 21:02:16
壱子 @1co_xxxx

@hamu2march 手が長谷部くんの頭の上まで挙がった所で慌てて手を離されてしまう。僕はそのままでも良かったのに、と返せばむっとした顔で返されてしまった。 長い時間同じ体勢で繋いでいた左手はじんわりと痺れていたが、それも長谷部くんがくれたものだと思えば思わず笑みが零れた。→

2018-03-17 21:02:28
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx ――夢を見ていた。ほぼ現実と地続きの。 電車のボックス席に並んで座る俺たち。その向かいに別の客がやって来た。光忠は、足が長くてすみませんと笑いながら足を自分の方に引き寄せ、そしてなぜだか俺の左肩に手を掛けて抱き寄せた。 (人前でなんてことを!?) 抗議の呻き声を上げるも光忠は涼しい顔。

2018-03-18 01:31:45
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx すると向かい側の客が、仲が良いですねえと微笑み。 『ええ、僕たちとっても仲良しなんです』 無邪気すぎる光忠の回答。恥ずかしいからやめろと言いたいのに、なぜだか声が出なくて。 『ねえ、仲良しなところ、もっと見せちゃおっか……?』 光忠が俺の顎をとらえ、顔を寄せる。嘘だろ、おい、待て――!

2018-03-18 01:32:44
朝凪 @hamu2march

@1co_xxxx 「ねえ、長谷部くん。そろそろ起きないと」 「ん……」 重い瞼を持ち上げ、向かいの座席を見遣ると、そこは空で。良かった、夢か……。 なんて恥ずかしい夢を見ていたのか。自分で自分にげんなりとしながら目線を動かす。ドア上の行き先表示はいつのまにか終点の駅に。ああ、気持ちを切り替えねば。

2018-03-18 02:09:13
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