『種子法』廃止について浅川芳裕さんが解説

『日本は世界5位の農業大国』の著者
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農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

「種子法廃止」で「日本終了」とか意味不明のRTがいろいろくるから、はじめて真面目に読んでみたら、育種と採種の違いさえわかっていない人たちが発信源だな。これに影響されて、心配性の人は種子法廃止で夜も眠れなくなるぐらい恐怖を感じている模様。これはちゃんと情報整理しとかないといけないなあ

2018-05-05 03:16:26
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

「種子法廃止」に対して議論が紛糾している。「公共のタネ」がテーマとなると危険感受性が高い人は「生命・生存の危機」ととらえ反対派となる一方、論理的な帰結に従うタイプは「規制撤廃論」として賛成派となる。両者の議論がぜんぜんかみ合っていないので、まず事実関係、あとで歴史的背景を整理する

2018-05-05 12:58:35
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

まず反対派の見解は「種子法廃止⇒国から県への予算停止+種生産の非義務化⇒県の種子価格高騰+民間に知見提供⇒モンサント等外国資本が参入⇒特許化⇒F1&GM種子増⇒種の多様性激減⇒農家自家増殖NG・外資の農奴化⇒「日本の米消える」⇒食料主権失う⇒食料安保危機⇒外国支配」という感じだろう

2018-05-05 13:00:00
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

賛成派の頭の中は「廃止⇒国から県への予算停止+奨励品種制度の廃止⇒民間に知見提供⇒種子ビジネスにおける官民格差是正(イクオールフッティング)⇒日本の種苗会社コメ育種参入⇒不足する業務用米(中食・外食用米)品種開発⇒競争力強化&増収・価格低減⇒農家・消費者ともにメリット」という感じ

2018-05-05 13:00:24
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

まったく同じ種子法廃止なのにその行く着く先の見解について、片方はあまりに絶望的でもう片方はあまりに楽観的だ。私の見解はどちらでもないが、その提示の前に双方に共通する勘違いや思い込みを列挙する。一番の前提「国からの予算停止」が種子の将来に大きな影響をするという認識からして事実誤認。

2018-05-05 13:00:54
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

種子法に関する都道府県からの従来予算(農水補助金)は全国で約8000万円。県平均でわずか170万円。種籾1キロ換算で1.7円、一粒換算で0.0034円。この予算停止(平成10年に停止済み!)で「種子価格が高騰」するというが意味不明。しかも、平成11年から現在まで同額が一般財源化されているから無問題。

2018-05-05 13:01:28
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

といっても、国の根拠法である種子法がなくなると、都道府県(主に農業試験場)の育種や種子増殖の予算根拠がなくなるという主張がある。しかし、県の育種には元々根拠法などない。育種はその地域にあった作物導入や栽培試験と並び、農業試験場の使命そのもの。国の法律と関係なく継続してきたのが事実

2018-05-05 13:03:11
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

県による種子増殖についても同じく、国の根拠法なくはじまっている。1952年に種子法ができるずっと前の明治後期から大正初期からだ。農業試験場が独自品種を開発すると自ら増殖し、種子生産に関与していった。これも当たり前の話。種は増やさないと誰にも蒔いてもらえない。法律論ではなく作物論。

2018-05-05 13:04:03
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

次の懸念が一番根強い。種子法廃止と並行し「…県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進」する農業競争力強化法によって、外国資本に日本の種子財産が流出するのでは? 結論からいえば、流出して困るような技術は一切ないし、外資が欲しがるノウハウも皆無だから心配はいらない。

2018-05-05 13:04:57
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

この種子生産プロセスについて、”日本古来の原原種・原種"の知見が外資に奪われると勘違いしている人が多いが、原種とは単純に「種を取るためにまく種」の事。そして原原種とは「原種を取るためにまく種」の事。原種をまいて農家が植える「種もみをとる」のが採種。いずれも普通のコメと同じ生産方法。

2018-05-05 13:07:02
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

都道府県(一部民間委託済み)は、育種家種子を田植えし採種用に原原種、原種を増やしているだけ。もちろん、特殊なノウハウがないわけではない。異形株の抜き取りや異品種の混入防止など、品種が持つ遺伝的形質を維持するための管理手法はある。ただ先進農業国なら昔からどこでもやっている基本中の基本

2018-05-05 13:08:04
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

反対派は『知見』という単語に過剰に反応しているが、知見とは字義通り、『見て知ること』『その知り得た内容』という意味。機密性の高い技術でも、育種素材や育種法などの知的財産関連でもない。その点、官僚はいちばん厳密な単語を選択したわけだが、読む方が無知だととんだ混乱が起こってしまう。

2018-05-05 13:12:20
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

知見の流出を心配する以前に、日本政府は長年、米の種子増殖の知見をODA等で多くの途上国に無償提供済みである。現地に日本の技術者を派遣したり、日本に技術者を招待したりして。流出どころか、積極的に世界に広めてきた。これは種籾だけでなく、ジャガイモの種イモ増殖制度(植物防疫法)でも同じ。

2018-05-05 13:13:29
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

まだ書きたいことの10分の一も書けてないなあ。海外取材中なので、落ち着いたらあとで加筆しよう。

2018-05-05 13:21:25
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

種子法問題をまともに論じるには、本来、3種の種子システム「公的育種(国・都道府県・大学)/民間育種(企業)/個人育種(主に農家)&各採種現場」を比較し制度分析をしないとならないが、双方、持論から結論に飛躍している。3つの現場取材の経験と世界の種子システム理解、農業の知見から解説する

2018-05-05 15:28:31
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

廃止された主要農産物種子法とは何か。各都道府県で優良品種(米・麦・大豆に限定)の①試験・決定②種子(原原種・原種)生産③種子審査の3点セット①③の制度は欧米でも昔からあるが、日本の特殊性は②の義務化で県が独占してしまった点。どの業界でも商品の選択・生産・検査権を独占できたら最強!

2018-05-05 15:30:16
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

この制度はさらに食糧(≒穀物)を政府が管理統制する食管制度(1942年~)と対になっていた。県がこの品種がいいよと選んで増やし、農家に作らせ、農協に集めさせ、国に全量収める制度。その廃止後はコメの生産・流通は一応自由になったが川上のの種子統制(種子法1952年~)がいまだに残っていたわけ

2018-05-05 15:31:32
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

この間、日本農業界が失ったものは大きい。その間、千種類以上あった農家育種の種子はほとんど死に絶え、日本の米といえばコシヒカリとその近縁種ばかりとなってしまった。そのシェアは7割を超え、種子の多様性は失われてしまった。官民限らず、市場独占は多様性消滅と品質悪化をもたらすのは自明だ。

2018-05-05 16:01:54
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

1960年代、世界ぶっちぎりトップだった大学のハイブリッド米研究は70年代、政府は中国に無償提供。80年代から中国、アメリカで実用化。両国とも日本の収量を完全に凌駕し、年々増えているが、日本は横ばいだ。同時代に日本の大手企業も参入するが、種子法の壁に阻まれてほとんどが撤退してしまった。

2018-05-05 16:03:17
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

米の種子開発・販売に参入したのはホンダ、キリン、全農、JT、三菱化学、三井化学、住友化学など、日本を代表する企業。県品種の弱点を補い、それぞれの得意分野で世界に通用する品種をつくったが商売にならない。どれだけいいコメ品種を作っても、品種選択権は県にあるわけだから県の品種を選ばれる

2018-05-05 16:03:53
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

以前は選択候補に入るための試験さえしてくれなかった。1980年代後半にようやく認められるが、1995年まで種子の販売権さえ認められなかった歴史がある。国の食管法によるコメの全量統制が1995年まで続いたからだ。県の奨励品種にしか、国は指定種子販売業者の認可を与えないという法規制があったのだ。

2018-05-05 16:04:35
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

反対派はモンサントがF1や遺伝子組み換えで独占するというが、同社が米育種に参入したのは日本企業と比べれても後発。現在、いちばんのコメ育種・採種先進国といえば、日本が無償提供したハイブリッド(F1)技術を活用して、完全実用化した中国。県のローテク採種と違い、ハイブリッド採種が主流である

2018-05-05 16:06:13
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

現在、民間参入組でいちばんコメ種子販売量が多いのは三井化学だが、同社はいち早く中国企業と提携したことで、日本でハイブリッド米の先陣を切れたのだ。今頃になって、F1種子がどうだとか、GM種子がどうだという議論は世界から3、40年遅れている。遅れている以前に、それが何かさえ理解されていない

2018-05-05 16:17:58
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

何も心配性の種子法復活派を批判しているわけではない。非科学的で極度の神経質体質のマイノリティーが抱く恐怖は99%虚構だが、100年に一度ぐらい当たって役立つことがある。民族の存続上、そういう方が集団に一定数必要なことは、進化生物学・心理学の研究でも明らかになっている。ご心配ありがとう!

2018-05-05 20:01:28
農業と食料の専門家/浅川芳裕 @yoshiasakawa

種子法復活派の議員が心配性体質の人たちじゃないんなら、共産主義者。これほどタイトな国家による種子の統制・計画経済が敷かれたのはソ連を除いて日本だけ。ソ連はそれで飢えたが、日本はソ連崩壊後さえ存続させた筋金入り。統計をみると、一粒の種籾に対して20粒の籾米しか生産できていない非効率性

2018-05-06 03:33:52