ハート・オブ・ダウントロッデン・ソウルズ #4
三人の話をするゾーイは、穏やかな笑顔になった。だが、やがてまた、引き締める。「皆で、何度も会った。大人なんて、どうにでもなる。その頃にはアタシ、自分の力の使い方もわかってきてた。……それで、脱走の計画を立てたんだ。このままじゃ殺されるかもしれない、そう思ったから」 49
2018-05-16 00:24:28「殺されるとは?」「皆、港湾や鉱山に派遣されて安く働かされる。食事も満足にもらえない。稼ぎはほとんどが大人の懐に入るんだ。それだけじゃない。居なくなる子供もいた。選ばれて、連れて行かれて、そのまま帰ってこないの。そうなると……もう、逃げるしかないって事になった」 50
2018-05-16 00:26:33「そして計画を立てたのですか。その……地下道を使って?」「そう。……さあ。つきました」ゾーイが指さした。いかめしい鉄格子塀に囲まれた無機的なコンクリート建物が聳え立つ。ゴウゴウと音を立てて風が吹いた。敷地をぐるりと囲む塀に沿って二人は歩く。やがて多少高さがないポイントを見出す。51
2018-05-16 00:29:52コトブキはゾーイをひょいと持ち上げ、高く掲げた。ゾーイが苦労して乗り越えるのを確認したのち、コトブキはウキヨらしい素晴らしいジャンプで塀の内側に着地した。「ハァ……最悪」ゾーイが苦々しく呟いた。「一生吸いたくなかった空気だな」芝生を蹴る。「でも行かないとね。棟の中に入らないと」52
2018-05-16 00:32:25当然、孤児院は静まり返っている。塀の外、時折銃声や爆発音が耳に届く。二人は身を屈め、慎重に、棟の壁に手を付けて進んだ。注意したのに、あっけなく見つかったのは不覚の至りだった。「おお」懐中電灯で二人を照らしたのは老いた男の職員だった。「おおお」震え、呻いた。 53
2018-05-16 00:35:29コトブキは一歩踏み出した。ゾーイはぎゅっと口を結び、コトブキが強烈なカンフー・カラテで即時昏倒させるさまを思い描いた。だがコトブキは振り上げたカンフーを中途で止め、老人を見守った。「おおおお……ゾーイ=サン」老人の目には大粒の涙が溜まっていた。「ゾーイ=サンなのか……何故……」54
2018-05-16 00:37:15老人は懐中電灯を草の上に取り落とし、しゃがみこんだ。そのまま、うずくまるようにして、泣き始めた。「ううう……ゾーイ=サン……」「殴れません」コトブキはゾーイを見た。「ただならぬ様子ですが……?」「……」ゾーイは老人の名を呟いた。「ネルソン=サンね……?」 55
2018-05-16 00:39:22