有馬桓次郎氏による「第一次大戦における日本海軍糧食体制の失敗しっぱいエヘヘ」第二話

第一話はこちら 有馬桓次郎氏による「第一次大戦における日本海軍糧食体制の失敗しっぱいエヘヘ」第一話 https://togetter.com/li/1233927
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まとめ 有馬桓次郎氏による「第一次大戦における日本海軍糧食体制の失敗しっぱいエヘヘ」第一話 有馬桓次郎氏による「第一次大戦における日本海軍糧食体制の失敗しっぱいエヘヘ」 第二話 https://togetter.com/li/1234248 第三話 https://togetter.com/li/1234543 5969 pv 44 4 users 342
有馬桓次郎 @aruma_kanjiro

作家的な何か。 KADOKAWA電撃の新文芸「ステラエアサービス」作者。 ホビージャパン「海軍さんの料理帖」、イカロス出版「軍人たちの決断」「20世紀の軍人列伝」、小学館「戦車に夢中です!」……etc.  お仕事のお問い合わせは info★gondwana.biz まで。

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有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

第二回はじめまーす。 今日はまずネットから拾ってきた一枚の写真から見てもらいましょう。

2018-06-05 17:09:36
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

これは1920年代のオーストラリア・アデレード港の埠頭の様子。岸壁には行先別・内容別に荷物が集められて積込を待っている。下にあるのは貨物積載後に船のバランスをとるためのバラスト石。当時はこれら物品の積込を、すべて荷役人夫による人力で行なっていたんである。 pic.twitter.com/3hbCxFxX1q

2018-06-05 17:11:02
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有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

少し拡大。地面に網が敷かれていて、この上に荷物を積み上げて船のデリックで船倉内に下ろし、そこからやはり人力でバランスよく積み上げていく。そして船が埠頭に繋いでおける時間は限られており、その短い間に人夫たちは膨大な物資を積み込まねばならず、必然的にその作業はやたら荒っぽくなる。 pic.twitter.com/l5Ho7miIYL

2018-06-05 17:11:53
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有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

(ゆえに荷役作業にあたる人夫は荒くれ者が多いし、そういうところに当時のマフィアや暴力団が食い込んで資金源としてたわけだな。山口組も元を辿れば神戸港の沖仲仕の団体だし)

2018-06-05 17:12:40
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

現代の物流の中核であるコンテナ輸送は、第二次大戦後の1960年代に普及したもの。それまではいかなる民間貨物船もバラ積みで、荷役人夫によって放り投げられたり転がされたりしながら荒っぽく積み込まれていたわけ。そうすると荷物はどうなるか……まあ、当たり前だけど壊れるわな。

2018-06-05 17:13:12
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

これもネットで拾った大正時代の大阪港の様子。岸壁係留中に荷物を積み込めない時は、沖合停泊中に艀で荷物を運びこむ。やっぱり時間は限られてるので、とにかく載せられるだけ載せて貨物船へGO。綺麗に積むとかそんなの言ってられっか! 壊れた? そんなの知らん! pic.twitter.com/A5tqHCj06C

2018-06-05 17:14:06
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有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

海外から船便による個人輸入をしたことがある人なら判るけど、現代のコンテナ輸送ですら、運ばれてきたものはどこか傷ついたりしてるもんだ。当時だと尚更ひどい。ムシロに包んでても破れる。木枠を組んでも割れる。もうどんなに頑丈にしても、絶対に壊れている。それが当時の船便だ。

2018-06-05 17:15:14
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

そして梱包が壊れると、そこから湿気が入り込む。長い航海中にじわじわ入り込んだ湿気は米や麦をどんどんカビさせていく。他の食品に汚染が広がることを防ぐため、もしカビが生えていたらどんなに僅かでも丸ごと廃棄される。故に、米麦は半数しか届かないなんて事態になったのだ。

2018-06-05 17:15:53
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

味噌・醤油・漬物・酒類についてはより深刻だ。以下は、前記したポートサイド航路第一便・鎌倉丸の様子を伝える第二特務艦隊の戦時日誌。 「鎌倉丸は九月二十一日スエズ着、二十二または二十三日ポートサイド入港、二十九日出港のことに予定を変更せり。……

2018-06-05 17:16:25
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

同船にて輸送すべき貴隊用糧食、貴隊要求通り味噌、醤油、梅干、茶、容積百五十トン。需品容積五十トン。明石用糧食一ケ月半分、容積四十トンなり。」 ここでも出てきた味噌、醤油、梅干(漬物)。なぜ第二特務艦隊はこの三種ばかりを求めたのか?

2018-06-05 17:17:01
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

味噌、醤油、漬物、酒の梱包が壊れたら、中から液体が漏れる。そして戦時中だから船に余裕はなく基本的に混載で、船倉には日本海軍の御用品だけじゃなく他にも極東から欧州に向かう荷物がある。そんなとこで臭い汁が漏れたら他の荷物をも著しく汚損してしまう……。

2018-06-05 17:17:32
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

荷物が汚損して廃棄となった場合、その責任は基本的に輸送を担当した船主にかかる。その重い負担を恐れた船主、特にインドや海峡植民地からの物産の輸送も担っていた英国人船主の多くが、日本海軍向け糧食の輸送を断固として断る事態が多発したんだな。

2018-06-05 17:18:13
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

日本海軍としても手をこまねいていたわけじゃなく、より梱包を厳重にすることで液漏れを起こさないようにしたけれど……それでも、漏れるものは漏れる。そして一度ついた悪評は払拭できず、英国船に何とか糧食品を載せてもらおうと四苦八苦している報告も残されている。

2018-06-05 17:18:53
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

そして検疫の問題もある。例え日本海軍向け糧食といえど、国内に入る限りはきっちりと検疫を受けなきゃならない。ポートサイドやマルセイユで検疫を受けた際、現地の税関吏は日本の食物など見たことないから腐敗してると勘違いし、その全数を廃棄させたのは有名な話。

2018-06-05 17:19:45
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

長い航海の間に発酵が進んでしまい食用に適さなくなった、ていうことも。味噌・醤油・漬物・酒は確かに保存性は良いが、流石に常温輸送で地球半周もする長い航海だと発酵が進んでしまう。わーい酒だー、と思って開けてみたらみんな酢になっていた、なんて話もあったりする。

2018-06-05 17:20:18
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

こうして日本海軍向け糧食の輸送は惨憺たる結果となってしまったのだ。第二特務艦隊への増援として派遣されることになった「出雲」「矢矧」以下の艦隊は、石炭搭載量をマルタ島までギリギリ到達できる量に留め、空いたスペースに味噌・醤油・漬物・酒を詰め込む、なんてことまでやっている。

2018-06-05 17:20:49
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

さらに現地購入を前提としていた生鮮食料品については一層悲惨だった。以下は第二特務艦隊の報告書。 「糧食品の価格は、シンガポール、コロンボ等より西進するにしたがい次第に高騰するの現象をていし来り。当隊の主なる在泊地たるマルタ港、および榊修理中なる希国ピロアヌ港においては……

2018-06-05 17:21:13
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

糧食品の高騰もっとも甚だしきを見、これを内地に比較せしは種類によりては生野菜、生魚肉など十数倍の驚くべき高価なるものあり。また一般平均単価を見るも四、五倍の騰貴を示しおり、これら糧食品の価格は今後も漸次騰貴の傾向を示し、底止するところを知らざる有様する。」 高くて買えんがな!!

2018-06-05 17:21:37
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

考えたら当たり前のことで、地中海の只中に浮かぶマルタ島、その周辺海域はドイツ・オーストリア両海軍の潜水艦による通商破壊戦が行なわれていた所。当然ながら海上輸送は困難で、さらに戦時下ゆえの食糧不足も合わせ、島内の食品物価が急騰していたのだ。

2018-06-05 17:22:00
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

ギリシャのピロアヌ(ピレウス)港も同様。しかもマルタ島、ギリシャとも土地は痩せていて農業生産力は低く、第二特務艦隊はあてにしていた生鮮品を殆ど入手できない事態に陥ってしまう。オ〇ホ代わりに提供されたヤギを食っちまった笑い話が伝わるが、裏を返せば事態はそれほどまで深刻だったのだ。

2018-06-05 17:22:39
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

当然ながら艦内では糧食品の窃盗や強奪が多発し、一時はそれらの行為を働いた乗員に対して厳罰をもって望んだこともある。現在はC・W・ニコル氏の著作等でその活躍が知られる第二特務艦隊の欧州派遣だが、その現実は餓鬼地獄のような状況であったと言っても過言じゃないんである。

2018-06-05 17:24:21
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

すべての糧食品が不足した第二特務艦隊の将兵に待っていたのは、飢餓、栄養失調、士気阻喪、そして船乗りとして考えられる限りのあらゆる疾病だった。東アジア人特有の脚気はいうに及ばず、壊血病の恐怖へ日本海軍が晒されたのはもしかするとこの時が初めてかも知れない。

2018-06-05 17:23:26
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

第二回、了。 明日の第三回は、第一次大戦の戦後処理にこれら戦訓を合わせた、日本海軍が外洋海軍として船出する糧食体制の改革について。 おかしい、ミリマのトークショーでこんなに話したっけ……?(;;´ω`)

2018-06-05 17:31:21