- Kontan_Bigcat
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ネット上のデマサイトに、トリチウムの危険性として「カナダの公的調査で、ピカリング原発周辺で、ダウン症が1.85倍増加」という記述をしばしば目にする。(一例→ jca.apc.org/mihama/News/ne… )(注:カナダや韓国の原発は、構造上、トリチウムの排出が多い。) これは事実だろうか? (以下連ツイ
2018-06-08 20:02:51問題の調査論文は、英語で検索するとすぐに見つかった。(IAEAの文献サイトに収録)→ inis.iaea.org/search/search.… 1991年公表のカナダの公的機関による調査で、結構古い。(1986年のチェルノブイリ事故による、社会不安を受けての調査なのかもしれない。)
2018-06-08 20:03:19この調査は、原発のあるピカリング(google地図→ goo.gl/maps/tbCobcG4X… )と、東隣のエイジャックス(Ajax)についての、新生児の疫学的な統計調査(ダウン症に限らない)を行ったものだ。
2018-06-08 20:03:56この調査の結論として、1971~1988年の、死産、先天性欠損症(出生異常)、乳児死亡率(1歳未満の死亡率)、先天性心疾患 については、有意な上昇は見られず、トリチウム放出量との相関も見られなかった。
2018-06-08 20:04:45ピカリングでの中枢神経系異常についてのみ、トリチウム気体放出量との相関が見られたが、それでも、総数は、オンタリオ州全体の発生率より20%低かった。
2018-06-08 20:05:071973年~1988年の先天性欠損症(出生異常)を24のカテゴリー別に見た場合、ダウン症を除くすべてのカテゴリーで、有意な増加は見られなかった。
2018-06-08 20:05:32唯一、有意な増加が見られたのが、1973年~88年のピカリングのダウン症の相対リスクで、1.85(95%信頼区間:1.19 ~2.76)だった。 また、エイジャックスでも、有意な増加ではないものの、1.46(95%信頼区間:0.80~2.44)と増加がみられた。 pic.twitter.com/tuDQiA5iWu
2018-06-08 20:06:30実数で見ると、標準的なダウン症のリスクから算出される発生数が、ピカリング(78-88年)では、10.43人に対して、実際の発生数は19人、エイジャックス(78-88年)では、7.89人に対して、実際の発生数は13人だった。 pic.twitter.com/rAeM8I4N3X
2018-06-08 20:07:29注:一部の病院で1973~77年のデータは信頼度が低かったので、前掲図では、信頼度の高い1978年~88年の表となっている。
2018-06-08 20:09:08一方、トリチウムの気体放出量と、ダウン症発生率には、ピカリングでは相関は見られなかった。しかし、エイジャックスではやや相関が見られる。 pic.twitter.com/efREVxmJNT
2018-06-08 20:13:58前掲表で、放出レベル1~5は、月ごとに、9ヶ月間合計(妊娠期間中)の放出量によって、5段階に区分(下位から25%、25%、25%、12.5%、12.5% に区分)したもの。(この図は、月間のトリチウム大気中放出量の推移で、右端が5段階の区分。) pic.twitter.com/VTaF7LF8zN
2018-06-08 20:15:12前掲表で、相関ははっきりしないとはいえ、ピカリング、エイジャックスのいずれでも、放出レベルの一番高い(上位12.5%の)グループで、ダウン症の発生率が高くなっている(nは少ないけど…)。
2018-06-08 20:15:39この調査では、母親の妊娠期間中の居住地は調査されておらず、また、両親の職業なども調査されていないため、ダウン症とほかの要因との関係は不明である。
2018-06-08 20:16:06この報告書の結論としては、この調査だけでは、(トリチウムによる)低線量被ばくと、ダウン症発生の関連を、決定づけることはできない、としている。サンプル数も少なく、ほかの要因もあり得る以上、これは当然の結論だろう。
2018-06-08 20:16:37しかし一方、トリチウムとダウン症の関連が否定されたわけでもなく、こうして4半世紀以上昔の調査結果が、いまだに噂として語られているようなのである。
2018-06-08 20:17:04その後の調査で、トリチウムによる低線量被ばくとダウン症の関連が、はっきりしたのかどうか、検索した限りではよく判らなかった。(どなたかご存じの方がおられれば、ご教示頂きたい。)
2018-06-08 20:17:30結局、この論文の「1.85倍に増加」という部分だけが抜き出され、デマサイトに頻出しているのだが、経産省の小委員会で、この風評が紹介されたり、話し合われたりしたことはない(と思う)。
2018-06-08 20:18:08このような、実際に流布している風説に対するきちんとした反論もなしに、風評を抑えることなど、出来ないと思う。 しかし国も東電も福島県も、事故以来一貫して、こうしたデマに対しては無関心な態度を貫いてきたように思う。
2018-06-08 20:19:13補足)2015年の、ピッカリング原発からのトリチウム放出量は、年間900兆Bqほどある。(1Fタンク貯留水+建屋滞留水のトリチウム量は、およそ1000兆Bq) 出典:2018/2/2 小委員会資料5-2 meti.go.jp/earthquake/nuc… pic.twitter.com/1pdj7DSLSa
2018-06-08 20:22:37【論文】結論:ピッカリング原発のトリチウム暴露でがんのリスク増加は見られなかった。個人のトリチウム暴露評価の改善は公衆の懸念を和らげるのに重要。本研究で十分な観察期間、大きな標本サイズ、トリチウム評価付きの回顧的集団を対象にすることは方法論の改善になる。…canada.ca/en/public-heal…
2018-09-03 20:14:51【緩募】ピッカリング原発については、大規模疫学調査の論文でトリチウム暴露の健康影響がないことがわかったのですがtwitter.com/hseino1/status…、話題のイリノイ州の原発トリチウム漏洩事故と健康影響に関する被査読論文がど~しても見つかりません。ご存知の方がおられましたらご教示ください。
2018-09-04 19:48:50上記↑ の2ツイートはリンクが切れている。論文(pdf)へのリンクはこちら。
Estimating cancer risk in relation to tritium exposure from routine operation of a nuclear-generating station in Pickering, Ontario (2013年9月)
http://www.phac-aspc.gc.ca/publicat/hpcdp-pspmc/33-4/assets/pdf/CDIC_MCC_Vol33_4_6_Wanigaratne_E.pdf