blue leaves

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❥blue box @sweetblue818

【76】 「生きてきたうちの2年分の記憶がなくてもやっていける。でも記憶の一部がないってことはわたしの一部がないってことで。どこで何をやってても自分が不安定なんです。まっすぐ立てないっていうか。」 「…事故の話、誰かに聞いたことないん?」 「昔はよく。でもみんな答えてくれなくて。

2018-03-13 21:39:23
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【77】 無理に思い出すことないって。あの時の恐怖も蘇るだろうからって。わたしも思い出そうとすると頭が痛くなって。それで…。」 「そっか」 「…名前だって、本当は怪しい。」 「え?」 「時々思うんです。事故の前後2年分の記憶がなくなったって思ってるのはわたしだけで、

2018-03-13 21:40:14
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【78】 本当は覚えてると思ってる分も嘘の記憶なんじゃないかって。」 「嘘って、」 「わたし自身が勝手に作った記憶なのかもしれないし、他の人に作られた記憶なのかもしれない。そう思ったら誰かといるのが怖くなって。」 「それでここに?」 「…。」 どこにいても一人だと感じていた。

2018-03-13 21:40:43
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【79】 だから本当に一人になりたかった。 「すみません、喋りすぎました。こんな話、困りますね。」 でも安巣さんには聞いてほしかった。そして安巣さんの話も聞きたかった。 「そんなことないで。」 俯いたまま答えた安巣さんはそれ以上何も言わなかった。 pic.twitter.com/Q9hPgjttid

2018-03-13 21:41:34
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【80】 *** 「ついてきてほしいとこあんねんけど。」 次の日の朝、そう言った安巣さんに連れられて畑向こうへ歩く。 「見てあれ。」 安巣さんは一本の木を指した。 「自分がこっち来た日、新芽出してん。」 今では若葉となったその葉が揺れる。

2018-03-13 21:43:05
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【81】 「青葉や思うで、名前。」 「え?」 「あれ、今はまだ危なっかしい若葉やけどもうすぐしたら元気で力強い青葉になる。」 安巣さんは優しく微笑むとわたしの髪をクシャクシャと撫でた。 「変な風に考えんとき。大丈夫。青葉ちゃん。あの葉っぱみたいに元気になる。」

2018-03-13 21:43:43
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【82】 冷たく凍った私の心が安巣さんの温もりで溶かされてく。たまった涙が零れると安巣さんが拭ってくれた。安巣さんのちょっとゴツゴツした指。 安巣さんの胸に凭れると安巣さんはそのままにさせてくれた。 あったかい安巣さんの胸。 …… 「あ!すまぁん!」 「え?」

2018-03-13 21:44:54
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【83】 「頭にいっぱい泥つけてもーた。服大丈夫?」 「あ、はい。」 「ごめんなぁ、さっき土触ったんやった。」 「平気です。」 「そろそろ帰ろか。」 「…はい。」

2018-03-13 21:45:40
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【84】 家に帰って鏡を見る。髪に泥はついていなかった。 pic.twitter.com/KAMq6u7NYf

2018-03-13 21:46:17
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【85】 *** 「どした?」 夕食後ぼんやりしていると安巣さんに声をかけられた。 「記憶のこと、考えてたん?」 心配そうに顔を覗く。 「俺、いらんことゆーたかな。」 「いえ。違うんです。」 昼間の安巣さんの行動は心から嬉しかった。 「ホンマに…何も覚えてへんの?」 「…はい。」

2018-03-14 22:19:24
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【86】 「そっか。」 「ただ、」 「ん?」 「一人じゃなかった気がするんです。」 「何も覚えてないんだけど。何となく。一人じゃなかったんじゃないかなって。あのとき誰かいてくれたんじゃないかなって。」 さっき安巣さんに涙をぬぐってもらったとき、頬に触れられた感覚。

2018-03-14 22:20:07
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【87】 「わたしね!よく思うんです。きっと許されない恋をしてたんだって。二人深く愛し合ってたんだけど、周りがそれを認めなかったの。それでもわたしたちは固く結ばれてたんです。でも事故にあって。わたしたちは引き離された。わたしは記憶もないし、彼のことは覚えてない。

2018-03-14 22:20:49
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【88】 だから周りも、わたしは一人だったってことにしたんです。」 「きっといつか迎えに来てくれる。その人のキスでわたしの記憶が戻る。…って、どうですか?」 「どうって…」 「ロマンチックでしょ。」 「、」

2018-03-14 22:21:34
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【89】 「もう!安巣さんノリ悪いなぁ。“素敵やなぁ”って言ってくれればいいのに。“わたしのことほっといて逃げた”って考えるよりずっといいでしょ?」 「…」 「安巣さんってば、」 「ん。けどそう考えたら周りのこと信用でけへんようになるんちゃう?」 「それは、」 それでもそう思いたい。

2018-03-14 22:22:22
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【90】 あのときわたしは一人じゃなかったんだって。 …安巣さんみたいな人がそばにいてくれたんだって。 「だって本当に何も覚えてないんだもん。」 どんなに頑張ってみてもあの2年は空白のまま。断片さえ浮かばない。ただ、あの時。 「とにかく。直接地面には落ちなかった…気が…する。」

2018-03-14 22:23:20
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【91】 「おい?」 「あの…とき…」 「どした?」 「っっ!」 「青葉ちゃん!」 安巣さんは頭を押さえたわたしの肩を抱いた。 「ちょっと休も。外の空気吸いに行こか。」

2018-03-14 22:24:41
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【92】 ** 「夜の川は初めてだ。」 「怖ない?」 「大丈夫です。」 それでも少しだけ不安で安巣さんのそばに腰を下ろす。 穏やかに流れる水の音に目を閉じた。 「まだ、頭痛む?」 「ううん、」 「良かった。」 心地いい水音と、傍に安巣さんがいてくれる安心感。 「…」

2018-03-14 22:25:49
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【93】 「眠なった?」 「…はい、」 「ええよ、青葉ちゃん軽そうやから運んだる。」 少しずつ遠くなる意識の中、安巣さんが頬に触れるのを感じた。 「安巣さん…」 「ん?」 「さっきの話…引きましたか。」 「引かへんよ。きっとそうやった。」 「良かった…」

2018-03-14 22:26:41
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【94】 きっと…こんな手だった。 pic.twitter.com/627VRPowIy

2018-03-14 22:27:23
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【95】 *** (…ちゃん、青葉ちゃん!) 「…え、」 お箸を持ったまま心配そうに見つめる安巣さん。 「あ、」 「どした?」 「いえ、何でも。」 「何でもって、」 「本当。なんかぼーっとしちゃった。」 「気分悪いんちゃう?」 「いえ!本当に違うんです。」

2018-03-14 22:28:51
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【96】 …確かに、最近自分でもぼんやりする時間が増えたと思う。 「!!」 「熱は、ないな。」 額に当てられた安巣さんの手。 「あのっ、大丈…」 「せやけど、顔赤いで。」 「ご飯だってちゃんと食べれてるし。」 「そぉか?」 「はい…。あ!あの、あとで畑に行ってもいいですか。」

2018-03-14 22:29:28
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【97】 「それはええけど。ホンマに大丈夫?」 「はい。じゃあ、いっぱい食べなきゃ。おかわりしようっと。」 お茶碗を持って立ち上がった。

2018-03-14 22:29:49
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【98】 *** 邪魔にならないように少し離れたところで雑草を抜く。春の陽気が心地いい。“心地いい”、いつの間にかそう感じることができるようになっていた。 一心に畑を耕す安巣さん。あの日以降記憶の話はしていない。 朝のことを想う。頭の中にモヤがかかる時間が増えた。

2018-03-14 22:30:59
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【99】 わたしは何か思い出せるんだろうか。 「ちょっと休もか?」 振り返ると安巣さんが立っていた。 「ありがと。この時期抜いても抜いても草生えてくんねん。助かる。」 「わたしがおいしいお野菜食べたいから。」 「助けてくれとんちゃうん?」 ハハッと笑う安巣さん。 「あの…。」

2018-03-14 22:31:28
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【100】 「ん?」 「お弁当…作っ、た、」 「え?」 「えと…勝手にすみません。太陽さんの下で食べたら気持ちいいかなって。それで、あの…」 「太陽“さん”かぁ。」 ふふっと笑う安巣さん。 「ありがとう。もらってええ?青葉ちゃんのお弁当。」 「はい!」

2018-03-14 22:31:59
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