blue leaves

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❥blue box @sweetblue818

【51】 「潜ったときの海。」 安巣さんの世界。 「ん?これは?」 「精子と卵子」 「えっ?!」 慌ててスケッチブックを閉じる。 「どした?」 どした、って。 「何よ、変なことちゃうやろ?自分もな?お父さんとお母さんが愛し合うことによって2つの卵が結合して尊い命が、」

2018-03-11 16:42:43
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【52】 「あのっ!」 「ん?」 「もういいです。」 「なんで?」 「なんでって、」 「要するにすごい確率やで?その優秀で勇敢な精子王子がたった一つの卵子姫のとこにたどり着いて二人結ばれた結果」 「安巣さんっ!!」

2018-03-11 16:43:11
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【53】 「神秘的な話やろ?」 「わかりますけど。」 「要するに大切やねん。命って。」 「…」

2018-03-11 16:43:29
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【54】 ** 「安巣さんて、」 「ん?」 「寂しくないんですか。こんな何もない人里離れた辺鄙なとこ一人でいて。」 一度聞いてみたかった。 「あんなぁ(笑)そこそこ失礼やで。」 「すみません。」 「ええねん俺はここで。こうやって気ままに過ごせてるし。」 スケッチブックを指す。

2018-03-12 20:25:27
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【55】 「すみません。」 「ええねん俺はここで。こうやって気ままに過ごせてるし。」 スケッチブックを指す。 「自然に囲まれて飯もうまいし、空気も澄んどる。身体もよう動かすしな。」 「わからなくもないけど。」 「それにこの辺、動物も多いしなぁ。あ、こないだまで犬もおったんやで。」

2018-03-12 20:26:10
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【56】 「犬?」 「うん。“フララ”って名づけてん。よぉ懐いてくれて。」 「こないだまでって。いなくなったんですか。」 「うん。見かけんくなった。」 「…そう。」 「あ、今悲しいこと考えたろ。」 「、」 「悪いくせやで?わからへんやんか。

2018-03-12 20:26:41
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【57】 ええパートナー見つけて家族できて幸せにやっとんのかもしれんやろ。それで俺んとこ来ーへんようになったって考えたら。」 「だけど、」 「はい、第四のルール。」 “何事も悪いふうにばっかり考えないこと”

2018-03-12 20:27:13
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【58】 *** ある日安巣さんは手にタオルを巻いて帰ってきた。 「ごめんやけど。今日料理作ってもろてええ?」 「もちろんです。あの…どうしたんですか。」 「さっきなぁ。畑でザクッと。」 「怪我したんですか?!」 「んー少しなぁ。」 「見せてください!」 「や、大丈夫。」

2018-03-12 20:28:12
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【59】 「いいから!」 手を挙げた安巣さんの腕を引っ張ってタオルを取り上げる。 「アカン、引っ張んな。血ぃ止まってへ…」 「!!」 ジワリと滲んだ血が滴った。 「おい?…おい!しっかりしぃ!」 声が遠くに聞こえた。

2018-03-12 20:29:00
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【60】 ** 「大丈夫?」 目が覚めると布団に寝かされていた。 「血ぃアカンか。」 コクンと頷く。 「ごめんな。」 起き上がる背中に手を添えてくれる安巣さん。 「ご飯、簡単なんやけどできたで。食べれる?」 黙っていると、安巣さんは優しく笑ってポンポンと背中を叩いた。

2018-03-12 20:29:29
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【61】 *** 安巣さんの朝は早い。わたしが起きるころには一仕事終えた感じで朝食を作っている。 「あ、おはよぉ。」 「おはようございます。あの…わたし本当にやりますよ、そのくらい。」 「えーよ。ここに住む分のお金十分もろてるし。これが俺の生活パターンやし。」 「けど、」

2018-03-12 20:30:32
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【62】 「変えんといて。」 大らかな安巣さんから時々出るきっぱりした口調。 「安巣さんて、朝から何してるんですか。」 「んー?いろいろやな。畑にも行くし。」 「暗い間に?」 「まぁ、いろいろあんのよ。」 「そうですか。」 思えばわたしは安巣さんのことをほとんど知らない。

2018-03-12 20:31:12
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【63】 「今日も川に行くん?」 「はい。」 「好きよな、水の音。」 「え?」 「気持ちよさそうやから。雨降ってるときとか。」 優しく微笑む安巣さん。 「…。」 安巣さんはわたしのことをいろいろ知っている気がする。 わたしはここで過ごす日々が心地良くなり始めていた。

2018-03-12 20:32:01
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【64】 *** 「あんた、あの若いのの恋人?」 いつものように川を眺めていたとき、ふいに声をかけられた。 「え、あの…。」 「わし、キング。」 「あ、」 安巣さんに聞いたことがある。 「はじめまして。わたしは、…えっと」 「やから、若いのの恋人かって聞いてんねん。」

2018-03-12 20:33:41
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【65】 「違います!そんなんじゃ。」 「何やねん、ちゃうんかい。」 「…すみません。」 謝ってしまった。 「ほな、友だちか」 「いや、友だちというか…、」 「赤の他人が男と女一つ屋根の下暮らしとんのか!どうなっとんねん日本は!」 「…、」 そう言われると何も言えない。

2018-03-12 20:34:29
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【66】 「まぁ、ええわ。一緒に住んどんのやろ。これからやな。」 「いや、あの…、」 「それが健全ってもんや。それでええ。頼んだで。」 pic.twitter.com/TkYuW3n45k

2018-03-12 20:35:27
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【67】 *** 「とうとう洗礼受けたか。」 キングおじいさんに会ったことを告げると安巣さんは笑いつつもちょっと心配そうな顔をした。 「じいさん、悪気ないねん。ちょっとガサツやけどええ人やで。」 「大丈夫です。そんな気がしました。」 「そんならええけど。」 それより。

2018-03-13 21:32:51
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【68】 「あの…安巣さんはどうして何も聞かないんですか。」 思い切って切り出した。 「何を?」 「私のこと。どこから来たのかとか、ここに来る前何してたのかとか。名前だって聞いてない。」 「聞いてほしいん?」 「…そうじゃないけど。」

2018-03-13 21:33:37
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【69】 「ならええやんか。誰にでも、知られたくないことくらいあるやろ。」 「安巣さんにも?」 安巣さんは答える代わりにこう言った。 「あんまりお互いのこと知りすぎると情がわくやんか。出て行きづらくなるやろし。」 「、」 そうか。 安巣さんの中ではわたしはいつか出て行く人。

2018-03-13 21:34:22
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【70】 「わたし…ずっとこの村にいようかな。」 「はは。何ゆーてんねん。」 わたしの小さな勇気は笑って流された。 「身体健康になったら出て行かな。」 「わたしどこも病気じゃありません!」 問題ならあるけど。

2018-03-13 21:35:12
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【71】 「俺がゆーとんのは基の健康。うまい飯食ったらおいしい、太陽さん浴びたら心地いい、そう感じられる身体。」 「、」 「もうちょっと太って、日に焼けて。体力もつけたほうがええ。ここにおるのはそういう健康を取り戻すためのリハビリ。」 「安巣さんもリハビリのためにいるんですか。」

2018-03-13 21:35:59
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【72】 「俺はちゃうよ。俺は自分で選んでここに住んでんねんから。」 「若くて元気な人が、誰もいないところに一人で?不健全です。」 「もぉ、じいさんに何言われてん(笑)俺のことはええの。とにかくそっちは普通の生活を送れるようになるって目標立てて。」 「普通って何ですか。」

2018-03-13 21:36:31
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【73】 そもそもわたしには安巣さんが言う「基」がない。わたしは…。 「普通は…せやなぁ同僚とおしゃれなランチ行ったり、休日に女の子同士甘いもん食べたり。そういう普通のOLさんがするような生活。」 「わたしそんなの望んでいません。」 「土まみれの生活望んどるわけでもないやろ。」

2018-03-13 21:37:07
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【74】 安巣さんはそう言ったきり黙った。

2018-03-13 21:37:24
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【75】 ** 「…青葉、らしいです。」 「ん?」 「わたしの名前。」 「らしい?」 「記憶が欠けてるんです。」 「、」 「3年前事故にあって。事故の前後2年間の記憶。事故直後は覚えてたらしいんだけどそれからしばらくして。」 「そ…っか。」

2018-03-13 21:38:20
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