「ア・ラナウェイ・スリーピング・ビューティ」

Genba Graham @BOREZET

勢いよく振り抜かれた脚が車体を掠る！愛車が01還元されかかるが再構成！持ちこたえる！botの目くらましがなければKICKが命中していただろう。最悪ニューロンを焼き切られていたかもしれない。間一髪でバイクロスの下を抜け、トウドウはさらにジャンクションの奥へ！バイクロスもそれを追う！

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ジャンクションは内部へ向かうごとに縦横と道が交差し、複雑な構造になっていく。バイクロスはそれを物ともせず突き進む。ある時は邪魔な道を破壊し、ある時は別の道路に飛び移り、トウドウにKICK攻撃を浴びせてくる。複雑になりすぎたハイウェイは既に空をほとんど覆い尽くしていた。

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コンクリートで塞がれた空間。白いLED照明がハイウェイを、自分とバイクロスを照らし出す。まるでサーチライトのように。「…サーチライト？」藤堂はとっさに閃き、照明の定義情報を書き換えた。自分ではなく、ガンマックスを照らすように！

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バン！と音を立てて照明が一斉に上方を向く。ガンマックスは遥か上の道路から並走するようにしてこちらを見ていた。見上げたガンマックスの背後の空には黄金の立方体が自転している。やっと見つけた！あまりに自然で気づかなかった。自分は初めからLED照明に追跡されていたのだ！

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防衛プログラムが正確無比な攻撃をして来たのもそのためだろう。あれは標的をマークするためのプログラムがコトダマ空間で形を成したものと考えるべきか。「…ちょっと待て！それじゃ…」白色LEDに照らされたガンマックスの表情が驚きへと変わる。バイクロスが彼に向けて跳躍したからだ！

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「ガンマックス！」叫んだ時には既にバイクロスのKICKが上方、ガンマックスのいるハイウェイを粉砕していた。立体交差のハイウェイが上から下へ、勢いよく崩壊していく。吹き飛んで落ちたコンクリート片が01の塵へ変わってゆき、一番下の道路に薄いもやを形成した。

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KICKで吹き飛ばされたガンマックスが自分のいる道路まで落ちてきた。地面に強かに叩きつけられ、論理ボディに大きくヒビが入る。裂け目からは01粒子がチリチリと電子的な音を立てて零れ落ちていく。そのバイザーには「危険」「なぜ」「キリサキ」の文字がエラー信号めいて赤と緑に点滅していた。

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バイクロスが瓦礫を踏み越えてこちらにやってくる。フロントガラスには赤い「銃最大」「殺」の文字が浮かび上がっていた。防衛プログラムが主人をKICKすることなど可能なのか？だが現にガンマックスの論理ボディは損傷している。トウドウはLED照明の定義情報を書き換え、標的を自身に設定し直した！

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再定義された情報に則りバイクロスが跳躍！トウドウにKICKを仕掛ける！トウドウはニューロンを限界寸前まで加速！超AIにも迫る速度で空間定義を書き換え車から高度跳躍！加速に耐えきれなかった01粒子が論理肉体から千切れてバイナリ軌跡を描く！バイクロスのKICKが地面ごと無人の車を叩き潰した！

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トウドウは01軌跡を残しながら足を振り上げる！さらに定義情報を書き換え片足重力加速度加算！「イヤーッ！」車のみを叩き潰したバイクロスのコクピット前面ガラスにKICKを落とし粉砕！ゴウランガ！現実では超AIロボットにすら困難な大技を高速タイピングとこのコトダマ空間が可能にしたのだ！

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衝撃でバイクロスがぐらりと揺れる！内部の擬人化プログラムのキリサキは今や白バイ隊員の格好ではなく、悪徳ブローカーキリサキのものとなっていた。キリサキの姿をした防衛プログラムがこちらを睨み、吼える！「死ね！ガンマックス！死ね！」だがその時、突如01の風が吹き、バイクロスに巻きついた！

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風は即座に鎖へと変わり、バイクロス及びキリサキを縛り上げる！トウドウはバイクロスがガンマックスに向かった時、既に長文コマンドを入力し始めていたのだ！タツジン！たった今タイプし終わったそれは捕縛コマンドだ！鎖はコンクリートに突き刺さりバイクロスの巨体を引き倒す！

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擬人化プログラムのキリサキが悔しそうに消滅していく。これで防衛プログラムは無力化された。だが指先がジリジリと焼けるような、全身の粒子が崩れ落ちてしまいそうな感覚。ニューロンを酷使しすぎた。もう論理肉体を保つのがやっとといったところか。体の端からは01粒子が徐々に離れていく。

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だがまだログアウトするわけにはいかない。論理ボディの亀裂が広がるのも構わずに、よろめきつつもガンマックスは立ち上がる。01粒子を撒き散らしてショットガンを生成し、トウドウへと銃口を向けた。「侵入者…whois...不明なIP…不明…不明…不明…」そういった文言がヒビの入ったバイザーに流れる。

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ガンマックスは随分と混乱しているようだ。「俺のことも分からないのか？」応えるように「不明」の文字がバイザーに浮かぶ。「仕方ねえ」トウドウはガンマックスにスキャンをかけ始めた。ガンマックスはそれに気づいたようで、バイザーに「FREEZE!」と表示させてショットガンを構える！

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「なに、ただのスキャンだ。すぐ終わるさ」そう言って淡々とガンマックスをチェックしていくトウドウ。ガンマックスは相変わらず混乱しているようで、そこから行動を起こせない。「それにしてもお前さん、随分と無口じゃねえか。コトダマ空間では物静かなタイプなのか？バイザーで会話しようなんざ…」

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そこまで口にして、トウドウは気がついた。「…このバイザーか！」現実では皮肉ばかりのガンマックスがなぜこうも無機質にコミュニケーションしていたのか、その答えはこれだ。「認識、発話機能のエラー…がコトダマ空間に準じた形で表現されてたってわけか。さっきのLEDと同じだな」

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つまりコトダマ空間内でこのバイザーを直してやればいいというわけだ。「もしくは、外せとでも言ってみるか…っつっても分からんよな」トウドウはぽりぽりと頭をかくが、後頭部が01還元されそうになり慌ててやめる。ガンマックスは不審そうな表情だ。バイザーには「不明IP」「再スキャン開始」の文字。

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生真面目にもトウドウを再スキャンし、正体を突き止めようとしているようだ。バイザー上の「whois」がチラつく。「…そうか！今ならいけるかもしれんな…！」トウドウは還元されかかった体を意志の力だけで繋ぎ止める！これからやろうとしている行為に備えて、論理肉体を可能な限り回復させていく！

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ガンマックスは何かを感じ取ったのか、表情を硬くしてショットガンを構える。トウドウはそれに構わず、自らの全データを開示しにかかった。

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バシ、バシと音を立ててトウドウの周囲の空間が歪み、形を保てずに01化していく。トウドウが自分自身を膨大なデータの塊としてガンマックスに読み取らせているのだ。データは既にボロボロの論理肉体から次々とコトダマ空間に流れ出していく。01の風が彼を中心に吹き荒れる！

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ガンマックスはあまりに膨大なデータに処理が追いつかず、ガクガクと論理ボディを震わせている。空間に流れ出したものは崩れたハイウェイへと一気に流れ込む。大量のデータにより即座に元の姿へと修復されていき、それでも余った01がハイウェイの外側に広大な白い砂浜と輝く海を形成した。

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スキャン処理はもう追いつかない。ガンマックスの手からショットガンが滑り落ち、地面につく前に01へと還元されて消えていく。ガンマックスのバイザーに表示された「続行不可能」の「不」の部分がパシン！と音を立てて真っ二つに裂けた。それを皮切りにバイザーが砕けて落ち、金の瞳が瞬いた。

Genba Graham @BOREZET

「whoi…おやっ…さん…？」ガンマックスはぱちぱちと目を瞬かせる。「そうだ。俺だ」いつのまにかガンマックスの論理ボディのヒビが消えている。どうやら流れ込んだトウドウのデータで修復したようだ。「ま、これでAI人格の方も一安心、か…」トウドウはその場にへたり込む。「おやっさん？」