美鈴と猫(めーさく)

ダイス診断の結果。 ※多少百合シーンのようなものがあるのでご注意ください。
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ハチ🐾 @hachisu716

咲「あの、美鈴が猫を撫でる指がね……」 いいなって。 咲夜はそう言って眼を細めた。 美「いいなって……?」 咲「うん。私もあんな撫でられ方してみたいの。コチョコチョって」 額を離して、美鈴の胸に頭を刷り寄せる。 なんだかそれこそ、自分も撫でろと寄り添ってくる猫のようだ。

2018-06-05 11:40:04
ハチ🐾 @hachisu716

咲「……美鈴が、猫を撫でてる指が好きだから」 長い指が、儚いものを壊さぬよう、そっと慈しむように触れていく動作。繊細な動きで心地のよいところを探っていく、その動きが好きなのだ。そして、その指の持ち主が。 あんな指に自分も触れられたい。そんな事を咲夜は思っていた。

2018-06-05 11:49:13
ハチ🐾 @hachisu716

美「でも、脇腹でいいんですか? 首とかじゃなく」 そうされたいのなら咲夜の望むことを美鈴はするのだから、何もダイスの出目に頼ることはないと思うけれど。そんな気持ちで美鈴は云ったのだが、咲夜からはううん、と返事が返る。 咲「どうせなら感じる場処がいいし」 ……やはり正直な人だ。

2018-06-05 11:55:09
ハチ🐾 @hachisu716

美「コチョコチョ、ではなくネチョネチョということですけど」 とは一応確認を取りつつも、どうすればそのようになるのか美鈴は見当もつかない。 咲「気持ちよければいいの」 咲夜はあくまでそう言ってかすかに笑う。

2018-06-05 17:58:35
ハチ🐾 @hachisu716

咲「コチョコチョ、して? 猫みたいに」 囁く咲夜の柔らかな銀の頭髪を、美鈴はそっと撫でる。 美「……あの猫にするのとは、少し違うかもしれませんが」 咲「うん。いい」 美「ただくすぐったいだけかもしれませんよ」 咲「大丈夫よ」 咲夜が額をそっと胸板から外す。

2018-06-05 20:13:02
ハチ🐾 @hachisu716

咲「……おなかあったかい」 咲夜が視線をそちらに移しながら呟いた。結局、ずっと掌で覆ったままだ。 美「すみません」 謝りながら、前をかすめた額にそっと口づける。咲夜が銀の睫毛でまばたきをした。 咲「……お腹よ?」 美「分かってます、つい」

2018-06-05 20:17:11
ハチ🐾 @hachisu716

だって、自分に懐く小さな額が、いとおしくてたまらないのだ。 そこのところは、猫にも似ているかもしれない。 美「猫にもよく、こうします」 咲「そうなの」 咲夜はそれで納得したらしく、あるいは興味が元々そちらにはないのか、頷く。 美「じゃあ、くすぐりますね」

2018-06-05 20:20:44
ハチ🐾 @hachisu716

くすぐるのに合図をするのもおかしいが、そう告げてから覆っていた掌を離す。どうしたものかと迷い、美鈴は猫の毛に自分の指を埋めるときを思い出してそっと指の先の先から咲夜の肌に慎重に触れた 咲「……、ん」 窺い見れば、漏れた自分の声に自分で驚いたかのように、咲夜がまばたきを繰り返している

2018-06-05 20:33:59
ハチ🐾 @hachisu716

咲「大丈夫」 きょとんとした顔のまま咲夜が言う。こういった色っぽい交歓の際には、美鈴は慎重すぎるほど咲夜に、大丈夫かと確認をとるのが癖だ。 だから咲夜も先んじて、問われる前に「大丈夫」と答える癖が出来つつある。 美鈴としては、気を遣わせてしまっているようで少し申し訳ない。

2018-06-05 20:42:46
ハチ🐾 @hachisu716

美「……くすぐったいですか」 咲「大丈夫」 くすぐってほしいから、と促す。 頷く代わりに、美鈴は指先で咲夜に触れ続ける。 咲「……くすぐったいって、思ったことなかったの」 触れ続けていた肌には美鈴の熱が移っていて、ほんの少しいつもよりあたたかい。 俯きがちに咲夜が囁いた。

2018-06-09 08:19:47
ハチ🐾 @hachisu716

咲「……触られるの、あまり好きじゃないしね。……美鈴は別」 考え事の小さな雫をぽつぽつと落とすように、咲夜が静かに呟き続ける。 咲「……」 ふと、言葉が途切れる。何度か瞬きを繰り返しているのを見ると、自分の考えをまとめているのだろう。

2018-06-09 09:41:30
ハチ🐾 @hachisu716

自分の気持ちを他人に伝えることにあまり慣れていない咲夜は、それらを言葉にするのに少し時間がかかる。 自分ですら、自分の考えを、考えたことが、少ないから。 咲「……触られるの嫌だけど。触られても、くすぐったいって思ったことなかったの」

2018-06-09 10:11:25
ハチ🐾 @hachisu716

美「……ええ」 そっと相槌を打って優しく促しながら、美鈴は指先を小さく動かし続ける。 咲「……美鈴が触ると、くすぐったいわ」 睫毛を伏せながら、咲夜がそう囁いて少し笑う。 美「すみません」 眼を細めながら謝る美鈴に、咲夜が違うの、と穏やかに返す。

2018-06-17 16:11:15
ハチ🐾 @hachisu716

咲「……だから、思ったの。きっとね。くすぐったい、は、嬉しい、なんだわ。私にとって」 そっと、咲夜が額を美鈴の胸に預ける。小さく囁く。 咲「……くすぐったいのが好き」 美鈴は、何とも言えない胸の詰まりで、こっそりと息を詰めた。 抱きしめたい。この小さな生き物を。今すぐに。

2018-06-17 16:17:11
ハチ🐾 @hachisu716

けれどそれは、くすぐるのとは、少し違うから。 美鈴は咲夜の望むことをするために、こっそりと見えない心の気息を整えて、指先に集中する。 美「……今は、」 咲「ん」 美「……今は、くすぐったいですか?」 美鈴の問いに、咲夜は額を預けたまま頷く。 咲「うん。くすぐったい」

2018-06-17 16:20:09
ハチ🐾 @hachisu716

くすぐったそうにくすりと笑って、もう一度、咲夜の銀青が美鈴の翠緑を真っ直ぐに捉える。 咲「もう、ずっとくすぐったいから。ずっとくすぐっていて」 子供がねだるような、透明な無邪気でそう言って、幼く笑う咲夜の笑み顔が、美鈴にはこの世で何よりも清らかなものに見える。

2018-06-17 16:24:44
ハチ🐾 @hachisu716

脇腹って言ったのに。 と、敷布に細波のような皺をたてながら、一糸纏わぬ姿で沈み込んだ咲夜は、笑いながら美鈴にそう囁いた。 猫をくすぐるようにはいきませんよ、と返す美鈴の手指を、咲夜は受け入れる。 でも、肌を滑ってゆく指はやはり、咲夜にとって、猫を扱うようなものなのだ。

2018-06-17 16:32:26
ハチ🐾 @hachisu716

老いた儚い命を扱う切ない指。 どんなときも自分を気遣う、優しい指。 そんな人の腕に抱かれて、猫も私も、ゆけたなら。 きっと、猫は餌を貰いに来ているだけではないと、咲夜はそう思うのだ。 咲「……モテモテね」 すやすやと静かで穏やかな寝顔を浮かべる美鈴の整った鼻梁に、人差し指で触れてみる

2018-06-17 16:39:34
ハチ🐾 @hachisu716

あなたは優しいから。 きっとこれからも、たくさんの命に、そっと触れるのでしょう。くすぐったいくらいに、そっと。 そして、たくさんの命が、あなたの腕の中で果てるのかもしれない。 ぽかぽかと幸せな日だまりのような、あなたの手に抱かれながら。

2018-06-17 16:46:52
ハチ🐾 @hachisu716

遠い未来の時間が自分にも用意されているなら、私もきっと、あの猫と同じなのだ。 ……猫になったみたい。 と冷めやらぬ熱を持ったままほろりと呟く咲夜に、美鈴は困った顔をした。 ふくふくの老猫は、案外、あの後もちゃっかりと美鈴の相伴にあずかりに繁く通い、ちゃっかりと長生きした。

2018-06-17 17:05:34
ハチ🐾 @hachisu716

思っていた以上に長い年数を生きたので、もしやこのままお別れならぬ尾分かれをして、猫又になるのではと疑われたほどだ。 穏やかに猫を撫でながらそっと最期を看取った美鈴もやはり沈んだ顔をしていたが、それ以上にレミリアがわんわん泣いた。

2018-06-17 17:11:19
ハチ🐾 @hachisu716

動かなくなった小さな躯に触れようとして、猫はやはり私が怖いだろうからと、最後まで触れるのを遠慮した。 小さな墓を作った。 鼻をすする主を宥めながら小さな背を撫でる美鈴の横顔は、淋しげだけれども、思いの外晴れやかだ。 驚くほどの大往生だったからだろう。

2018-06-17 17:24:01
ハチ🐾 @hachisu716

いつ来なくなるともしれない、そんな命に添い遂げられて、ほっとしているのかもしれなかった。 儚さとは無縁の、力強い太い芯のある生だったと思う。 案外自分も、ちゃっかり長生きするのかもしれない。 咲夜はそんなことを考えた。

2018-06-17 17:28:21