往きて還る

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次の浜風回です。 今回は年代が遥か先のお話……?。どうぞ最後までお楽しみ下さい。 ご感想などは、竹村京さんor#落ちぬいタグへ。 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

当然と言えば当然である。戦傷で死にかけ、その後はずっと大量の薬を服用して騙し騙し生きてきた身体なのだ。加えて結婚した時にはもう五十に手が届く歳だった。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:28:36
竹村京 @kyou_takemura

仕方のない事とは言え、浜風は愛する人との子を持てない事を知って深く悲しんだ。だが女とは強いもので、養子を迎えてはどうかと言い出したのは浜風の方であった。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:33:12
竹村京 @kyou_takemura

そこで二人は、少しばかり夫婦水入らずの新婚生活を楽しんだ後、児童養護施設から養子を迎えた。深海棲艦によって船乗りだった親を殺された少年で、養父母の背を見て育ち、今は防衛大で学んでいる。振り分けは希望通り海軍になったそうだ。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:37:09
竹村京 @kyou_takemura

兵頭家の親子仲は良好だが、養父が幹部で養母が艦娘という事情で中々家族揃っての団欒というものを経験できず、そのせいでややドライな性格に育っている。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:37:31
竹村京 @kyou_takemura

「へえ。年末年始は帰ってくるとさ」 「それは楽しみですね。あの子、ちゃんとやっているかしら」 「やれてなきゃ放り出されるさ。艦乗りになんてなっちまったら親の顔を見に帰ってくるのだって難しくなるから、精々ゆっくりさせてやらねーとな」#落ちぬい二次

2018-08-15 21:39:44
竹村京 @kyou_takemura

「そうですね。好物をたくさん作ってあげなきゃ」 浜風が手渡された手紙を読む。ゆっくりと、一文字ずつ慈しむように。 「頑張っているんですね。本当にいい子……」#落ちぬい二次

2018-08-15 21:41:19
竹村京 @kyou_takemura

「お前に似たんだよ」 「照れ隠しにひねくれた事を言うところは一也さんそっくりですよ」 兵頭は鼻を鳴らして、茶を一口飲んだ。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:42:34
竹村京 @kyou_takemura

午後は畑仕事も終わっていたので、二人で連れ立って海を見に来ていた。家から少し離れたところに海を望む高台がある。海軍人として数十年を過ごした二人は、時折こうしてぼんやりと海を眺める事があった。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:44:38
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はランニングシャツからアロハに着替えている。兵頭が今でもアロハを愛用しているので、兵頭家は最寄り、とはいっても大分離れた所にある小学校では、アロハを着た海賊がいると一種の珍スポットとしてそこそこの知名度を誇っている。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:46:14
竹村京 @kyou_takemura

そしてたまに子供たちが一種の肝試しのような感覚で訪れると、眼帯アロハの老海賊かお菓子をくれる優しいおばさんのどちらかが現れるので、肝試し経験者の間でも海賊がいるかいないかで意見が分かれているらしい。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:49:19
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はポケットの煙草を探り、隣に座る浜風を横目で見てやめる。浜風は煙草を吸っても何も言わないが、わざわざ煙たくすることもあるまい。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:51:53
竹村京 @kyou_takemura

やや赤みを帯びた西日が、魚の群れでもいるかのように波間にきらめく。穏やかな海だ。見える範囲に船影は無いが、きっと水平線の向こうでは多くの船が行き来しているだろう。艦娘たちが命を懸けて戦った成果である。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:56:02
竹村京 @kyou_takemura

海ぼうずはもうほとんど残っていない。 団長の夏目は既に老衰で旅立ち、モグリも死んだ。生涯ドンガメ乗りを貫いた長瀬らしく、尻尾付きを仕留めた次の哨戒任務の最中に心不全で呆気なく逝ったそうだ。#落ちぬい二次

2018-08-15 21:59:29
竹村京 @kyou_takemura

鷲塚は健在で、長兄の息子が継いだ鷲塚財閥の実質的な総帥として君臨している。 他の藤郷やクチナシ、イルカなどは生きているか死んでいるか。敢えて連絡を取ろうとも思わないので、今も続いている年に一度の会合に出席するか否かだけが便りとなっている。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:02:48
竹村京 @kyou_takemura

生きているならよし。先に逝ったなら、それもまたよし。もう復讐は終わり、皆この穏やかな海を見て死んでいったのだ。 浜風の方も、かつて組んでいた磯風、浦風、谷風と連絡を取っているのかどうか。兵頭はそこに踏み入ろうとはしなかった。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:06:09
竹村京 @kyou_takemura

ぼう、と海を見ていた兵頭の左目が、僅かに細くなる。 「浜風」 兵頭の声には緊張が滲んでいた。妻を浜風と呼んだのも意図したものである。 「はい」 返す浜風の声は、硬い。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:10:27
竹村京 @kyou_takemura

「悪ぃけど、準備してくれ」 「わかりました。久々ですね」 「ああ。ったく、こっちは引退してるってのによ」#落ちぬい二次

2018-08-15 22:10:47
竹村京 @kyou_takemura

人類は深海棲艦との戦争に勝った。だがそれは深海棲艦という種族が絶滅したというわけではない。生息数は激減したとはいえ、海洋を住処とする深海棲艦を絶滅させることはできず、今でも稀にはぐれ深海棲艦が出現する。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:12:39
竹村京 @kyou_takemura

それに対抗するために各国は艦娘戦力を維持しているが、往時とは比較にならないほど縮小されており、艦娘による常時哨戒はもはや無い。それを補うのが、この浜風らが登録されている予備役艦娘である。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:15:21
竹村京 @kyou_takemura

「こっちに来るまで三時間……重巡が1に駆逐が2か3ってところか」#落ちぬい二次

2018-08-15 22:16:00
竹村京 @kyou_takemura

かつて海という海に張り巡らされた深海棲艦探知センサーは、深海棲艦の出現が減るにつれ維持する費用対効果に乏しいとして老朽化と共に撤去されたものが多い。ほとんど人が住んでいないここも、そういったセンサーの穴の一つである。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:17:48
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はその昔、片桐大佐が体系化した深海棲艦の出現予測法を身に付けており、引退してからも意図せず国防システムに組み込まれていると言える。 「すぐに準備します。集結場所はあのドックですね」 「ああ。頼む」#落ちぬい二次

2018-08-15 22:20:59
竹村京 @kyou_takemura

浜風が家に向かい、すぐに軽トラックに乗って内陸側に去って行った。兵頭は高台から家に寄らず海に向かう。 高台を降りていくと、軍の管轄区域を示す看板がかかったフェンスがある。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:22:23
竹村京 @kyou_takemura

家を出る時は常に身に付けている鍵で扉の南京錠を開けると海岸に到着する。波が打ち付けるのは砂浜ではなく荒れ放題の岩場であり、その中にぽつんとコンクリートの直方体が鎮座している。これが予備役用の掩蔽ドックであった。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:24:32
竹村京 @kyou_takemura

錆の浮いたシャッターを力任せに引き上げると、中には一艘のモーターボートがあった。かつて護衛艦の搭載艇として使われていた物を転用した武装艇である。#落ちぬい二次

2018-08-15 22:26:05
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