「フラグメンツ・オブ・エピック:ディープ・オーダー」「ナバルの章:ワット・イズ・ザ・ヴァリュー・オブ・ライフ?」#2

深海騎士団叙事詩断片第2章 死神VS虐げられしものたちの王 そして世界観設定の話
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

場を沈黙が支配した。語り部がいない歴史を語る者が、今目の前に現れた。ライオンハートは言葉を吟味するように喉と舌を動かし、やがて沈黙を破った。 「我々エルダーシングは、オヒガンの果てからやって来たと伝わっている」 49

2018-08-25 01:25:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「この身は嘗て海を駆けた鉄の船たちの、あり得ぬ続き。素晴らしいイフだという者もいた。過去の続きをしようと言う者たちがいた。そして己が骸の上に築かれた未来を、守ろうとした者たちがいた。エルダーシングは、当然のように殺し合った…人間と、嘗て愛した者たちと殺し合った者もいると聞く」 50

2018-08-25 01:27:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ライオンハートの澄んだ海のめいた青い目は、夜の帳に陰るように暗く、重々しかった。やがてその視線を己の手に落とし、言った。「人の側に立ったエルダーシング達は、戦いを終わらせるために賭けに出た」 51

2018-08-25 01:28:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「鬼の端末、特別な深海棲艦『御子』を破壊する作戦を打ち立てた…結果は酸鼻窮まるものだったという…敵も味方も区別なく、血と死が海を覆った。その死の覆いは『御子』と鬼を分け、鬼は星の底へと逃げた…らしい」「らしい、ってのは…お前さん、その戦いで生き残ったわけじゃないのか?」 52

2018-08-25 01:31:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「私の部隊は別の作戦があった…作戦に介入する不確定要素の排除…最も危険なオールドワン【殺戮】を撃沈する任務を、私たちは担当した…私以外、皆沈んでしまったがね」「オールドワン…【殺戮】…」吹雪は、その呪わしき名を呟いた。 53

2018-08-25 01:34:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「オールドワンってのにも、名前があったのか?」「ああ、ヒトの持つ7つの力。それぞれになぞらえたコードネームが与えられたと聞く。だが、鬼の支配すら離れ、己が為に流離うオールドワンとの出会いは死を意味する。それ故か、正確な情報を知りえるものは少ない」 53

2018-08-25 01:36:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「私が知る限りでは【殺戮】と【堅牢】の二つ。【殺戮】は決して一人で対してはならぬ死神であり、【堅牢】は何者も貫けぬ不落の砦だ」「それで、その【殺戮】ってのは…?」「倒した。私の友達が」ライオンハートは拳を握り締めた。爪が皮膚を破り、赤い血が流れだした。 54

2018-08-25 01:39:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((青じゃないのか…?))リカルドはその時、目の前の存在がただの深海棲艦ではないと実感した。幽鬼めいた者たちと違い、確かに命を持つモノなのだと。 55

2018-08-25 01:40:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「【殺戮】は滅び、【堅牢】は北の海に逃れたと聞く。もしや君たちも会った事があるかもしれないな。一度【堅牢】に遭遇したことがあるが、人間の側に立っているらしい」吹雪とリカルドは視線を合わせた。そのニューロンには、幌筵の入江の魔人とその麾下たる深海棲艦めいた艦娘たちの姿が過った。 56

2018-08-25 01:41:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

あの中に、【堅牢】がいるのだろうか?答えを出すのを先送り、リカルドは問う。今回の調査の目的を。「このナバルって嬢ちゃんが守るのは、深海棲鬼だと思うか」「その可能性はない」ライオンハートは決然と言った。「理由を聞こう」「まず、拝神派の不在だ」 57

2018-08-25 01:43:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「奴らは深く静かに動いてはいるが、その目的は奴らの信仰する神の…深海棲鬼の復活だ。もし仮に彼女が守るものが鬼に類するものであるのなら、この周囲はもっと荒れ果てていたはずだ」「……そうだな」リカルドは頷いた。 58

2018-08-25 01:46:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あのハワイは死の島になった。あのデカブツから零れた黒い汚濁に触った奴は、例外なく全員死んだ。この海域にその兆候はない…確かに、深海棲鬼の可能性は限りなく低いか」「では、ナバル=サンが守っているものは一体なんなのでしょうか?」吹雪が挙手し、声を上げた。 59

2018-08-25 01:48:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「白亜の装甲を持つ巨人めいた存在です。正直、この星のまともな生命体とは思えません」「だから、あの子はそんな危険なものじゃないって!」ナバルは声を荒げて立ち上がり、両腕を広げて言った。「あの子はね、すっごくキレイで力強いの!私のこの姿は、あの子に憧れて真似したものなんだから!」60

2018-08-25 01:53:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「馬鹿にすると怒るよ!」「いや、馬鹿にしたわけでは」「ははっ、吹雪が押されるとは珍しいもんを見たな」「司令官も、ちょっと助け舟出してくださいよ…」「断る。お前さんイクサ以外ものぐさだからな。いい機会だ。ちゃんとコミュニケーションを取って仲良くなれ」「わ、わかりましたよ…」 61

2018-08-25 01:54:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかしまぁ、確かにこうやってマジマジ見るとまぁ…」リカルドは顎に指を当て、ナバルの姿を改めて観察した。まず頭部。側頭部から緩やかにカーブを描いて生える大いなる角が二本。その在り様は三日月めいた美を備えている。 62

2018-08-25 01:58:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

次に喉元。白く、長い毛が密集しており、高貴なコートの襟元にあしらわれたファーめいてさり気なく美しさを演出している。そしてその長い手足とモデルじみたスマートな体型を覆うのは、白無垢めいた純白の装甲だ。装甲は鱗模様が描かれており、ほのかに光を帯びてシンピテキであった。 63

2018-08-25 01:59:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「………ア?」リカルドは再び、言い知れぬ既視感に襲われた。((なんだ?なんで俺はこんなに引っ掛かりを覚えているんだ…?))リカルドのニューロンに、情報が渦を巻く。 64

2018-08-25 02:00:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白い巨人……三日月めいた角……月を思わせる……白い光……青く光る……巨大……白い毛……白い装甲……深海に暮らす……雄大なるもの……この星ではあり得ぬ生命……「俺は、それを、知っている?」 65

2018-08-25 02:02:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「オイオイオイオイオイオイ……まさか」「司令官?」「どうかしたか?」リカルドは呻き声をあげた。残る3人は首を捻る。リカルドは甲冑の腰に備えたポーチから古びた革張りのノートを取り出し、一心不乱にめくりだした。「えっと…司令官?何を?」「突然どうしたのこの人」「私にもわからん…」 66

2018-08-25 02:04:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

3人はリカルドの奇行を訝しんだ。リカルドは気にも留めずページをめくり、やがて辿り着いた。答えへと。「なぁ、ナバル=サン」「なぁに?」「あの子ってのは、こんな姿の奴か?」リカルドはナバルにノートを見せた。ナバルは頷いた。「うん、こんな感じだよ」 67

2018-08-25 02:07:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「えっ、司令官それって」吹雪はナバルと、リカルドと、そしてリカルドのノートをそれぞれ見た。「成程…成程な…」リカルドはブツブツと何事かを呟く。数瞬の奇妙な沈黙が周囲を覆った。やがてリカルドはナバルの前に立ち、言った。「ナバル=サン、俺が間違っていた」 68

2018-08-25 02:07:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「えっ、急に?反省してくれるなら私も大歓迎だけど」「だから。ああ。だからな」リカルドはその手を取り、真摯に言った。「是非協力させてくれ。あの子の救出に」 69

2018-08-25 02:08:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ナバルの章:ワット・イズ・ザ・ヴァリュー・オブ・ライフ?」#2 おわり #3 へ続く

2018-08-25 02:08:33