【#バッテリー杉尾】よりぬきエピソードまとめ

【金カム】バッテリー杉尾まとめ(‪https://togetter.com/li/1252253)より主なエピソードを時系列順で抜き出したものです 詳細な設定やその他エピソードは前述まとめをご覧ください
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ぬこむら @nukomura_c

巻紙を胸元に仕舞う 顔を上げて尾形の遺影を見つめ、軽く息を吸った 『──尾形』 声が震えそうになり口を噤む 努めて口元に笑みを浮かべると、もう一度口を開いた 『本当は、こんな場には立ちたくなかったんだ まだ何処かで尾形が死んだなんて嘘じゃないかって思っててさ はは、馬鹿みたいだろ』

2018-09-10 17:41:25
ぬこむら @nukomura_c

遺影に微笑みかける 『俺達、1軍に上がってバッテリーを組んでからずっと近くにいたよね 途中尾形がメジャーや大学に行って物理的に離れていた頃も、互いに連絡を取り合って、ずっと繋がってた だからかな、今は何処かに出掛けてるだけでその内帰ってくるんじゃないかって ……本当馬鹿みたいだ』

2018-09-10 20:08:37
ぬこむら @nukomura_c

涙を堪える様に目元を抑え、鼻を啜った 顔を上げる 視界が微かに波立った様に見えた 『そう思ってしまうくらい、出会ってから今までずっと、俺は尾形に頼って生きてきたんだ ……あの日俺に言ってくれたよね、俺と出逢えてよかったって それ、本当は俺が先に言わなきゃいけない台詞だったんだよ』

2018-09-10 22:36:09
ぬこむら @nukomura_c

『もし俺が尾形に見出してもらえてなかったら、きっと大した芽も出ない内に球界を去る事になってた 今でもね、名選手だとか名監督だとか言われる事に慣れないんだよ、俺 だって、俺一人では絶対に得られなかった名誉だから ……本当に、俺の方こそ、尾形に出逢えてよかった 心からそう思ってるよ」

2018-09-10 23:21:16
ぬこむら @nukomura_c

目を細め微笑む 涙がぽろぽろと零れた 『お礼を言うべき事はもっと沢山あるけど、沢山ありすぎて話が長くなっちゃうから、今回はこれだけにさせてもらうね』 俯き、涙を拭う ひとつ息を吐いて前を向いた 『これから俺はひとりで生きていく ……正直、どうすればいいのかまだ分かってないけれど』

2018-09-11 05:37:59
ぬこむら @nukomura_c

『大丈夫、決して生きる事を投げ出したりはしないよ だって、そんな事をしたら絶対に怒るだろ?』 呆れた様に怒る尾形の顔が頭に浮かぶ 杉元は自然と笑んでいた 『約束もある しなきゃいけない事だらけだ 俺ひとりで頑張ってこなしてみせるから、どうか温かく見守っていてほしい ──そして』

2018-09-11 07:15:03
ぬこむら @nukomura_c

『その時が来たら迷わず尾形のところに行くよ 必ず行くから、それまで暫く待っていてください』 口を閉ざし、遺影を見つめる 視線を下ろして一礼し踵を返した 足を踏み出す 堰を切った様に涙が溢れた 席に着いて、泣き濡れた目を遺影に向ける さよなら その言葉は、最後まで言う事が出来なかった

2018-09-11 07:54:37
ぬこむら @nukomura_c

お別れの会から3日後、杉元は動き始めた 尾形に関する残務を片付ける事と並行して、自身の身辺整理を開始した 大切な品をトランクルームに預け、自らの持ち物はキャリーケース1つに収まるだけにし、残りは全て処分した 家も手放し、ホテル住まいとなった 急な変化に周囲からは心配の声が上がった

2018-09-11 13:12:10
ぬこむら @nukomura_c

様子を伺う言葉を聞く度に、お別れの会で言った通りだよと杉元は笑った 「まあ気持ちは分からなくもないんだけど」 寝床としているホテルのベッドに大の字に寝転びながら杉元がぼやいた 「目的を言ってしまえばいいんだろうけど 騒がれたくはないから、申し訳ないけど黙ったままにさせてもらおう」

2018-09-11 18:16:09
ぬこむら @nukomura_c

首を傾ける 視線の先、ベッドのサイドテーブルの上には、お別れの会で使用したものと同じ写真を使った写真立てが置かれていた 「そうそう、今日は旅行の行程を決めて諸々の手配をして来たんだ 残りの仕事も来週にはお終いになるからね、そうしたら出発だよ」 起き上がり、外出用の鞄を手にし中を探る

2018-09-11 18:33:59
ぬこむら @nukomura_c

書類の束を取り出して開いた 「前にも話したけど、ヴァシリさんから連絡を貰っててね 尾形の話を聞きたいんだって だから、まずはアメリカに行く」 あっちで凄い顔をしてそうだなあ、尾形 それが眼に浮かぶ様で、杉元は笑った 「いろいろヴァシリさんとお話しして、尾形の思い出の場所を巡るんだ」

2018-09-11 20:10:03
ぬこむら @nukomura_c

杉元の胸に、話したい事が次々と湧き上がる 何から話すか決めないとな、と呟いた 「それが終わったらいろんなところに行くよ 一緒に見たい景色が沢山あってね」 机に目をやる そこに置かれた旅行雑誌には多くの付箋が付けられていた 「そして最後にキュラソー島に行く そこで、旅はお終いだ」

2018-09-11 20:38:25
ぬこむら @nukomura_c

口を閉ざすと、杉元は写真立てを見つめた 「……最後までちゃんと成し遂げられるか、不安がない訳ではないんだけどね」 はは、と笑いながら頭を掻く 「それでも、尾形が見守ってくれるから ──うん、きっと、大丈夫だ」 写真立てに手を伸ばす その縁を指先でそっと撫でた ──────────

2018-09-11 21:17:36
ぬこむら @nukomura_c

それに最初に気付いたのは、杉元がキュラソー島に移住した当初から懇意にし、食事などを共にしていた家族の子供だった 呼ばれて駆けつけた子の母は、陽の光が柔らかく降り注ぐ場所で、安楽椅子に腰掛けたまま息絶えた杉元の姿を見た 「おじいちゃん、眠ってるの」 顔を上げて問う子を、母が抱き寄せた

2018-09-11 21:51:34
ぬこむら @nukomura_c

「いいえ、おじいちゃんは天に帰ったのよ」 優しく言い子の頭を撫でる 子は母の腕の中からリビングボードに置かれた写真立てを見上げた 「そっか じゃあ、きっと、待ってる人に会いに行ったんだね」 え、と母が目を見開く 子は笑った 「おじいちゃんが言ってたんだ 天で待ってる人がいるんだって」

2018-09-11 22:22:57
ぬこむら @nukomura_c

母の目から涙が零れ落ちた 「ええ、そうね ……きっとそうよ」 強く抱き竦める母の身体越しに、子は杉元の顔を見た 俯いたその顔は、穏やかな笑みを湛えていた

2018-09-11 22:34:42
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