【#バッテリー杉尾】よりぬきエピソードまとめ

【金カム】バッテリー杉尾まとめ(‪https://togetter.com/li/1252253)より主なエピソードを時系列順で抜き出したものです 詳細な設定やその他エピソードは前述まとめをご覧ください
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ぬこむら @nukomura_c

杉元は顔を上げ尾形を見つめ返した 「上に辞めろと言うまでは戦い続けるつもりだ だからそれまでは傍にいてくれ」 「分かった」 スタッフが2人を呼びに来た 祝勝会の準備が整ったらしい 選手達の賑やかな声が遠くから聞こえる 気乗りしないという顔の尾形の背中を押しながら杉元はその場を後にした

2018-08-23 07:14:24

引退前後以降編第三部②

ぬこむら @nukomura_c

扉を潜って部屋を退出する ドアノブを軽く回して扉を静かに閉めた 天を仰ぐと杉元はひとつ嘆息した 重い足取りで廊下を歩みながらスマホを取り出しメッセージを入力する 『契約は更新されなかった どうやらお役御免らしい』 まるで他人事の様な言い回しに薄く笑う 杉元はそれを尾形へと送信した

2018-08-23 21:10:19
ぬこむら @nukomura_c

少しの間の後返信が来た 『漸くか 思いの外長く働かされたからな、そろそろいい加減にしろとお前に言っちまうところだった』 皮肉の滲む顔が見える様な言葉に杉元は笑った 『これからの事を話したい 次はいつそっちに行ける?』 再び送信する 足取りが軽くなるのを感じながら杉元はスマホを仕舞った

2018-08-24 22:54:12
ぬこむら @nukomura_c

監督2年目に成し遂げた優勝とそこから始まるリーグ三連覇・日本一達成を皮切りに、チームは黄金期に突入した 毎シーズン優勝争いに絡み、その頂点を極める事も何度かあった 常勝軍団として扱われる事が常となり、Bクラスが定位置と呼ばれていた事は昔を語る言葉の中でしか聞かれなくなった

2018-09-06 18:59:18
ぬこむら @nukomura_c

しかし、盛者必衰という言葉の通りその輝きは徐々に失われていった チームは中位を彷徨う様になり、ある年遂にCS進出すらも厳しい状況となった 周囲は杉元達の衰えを声高に言い立てた 解任を求める記事を手に、そろそろ潮時だろうと尾形は笑った 契約満了を告げられた時、その笑みが脳裏に浮かんだ

2018-09-06 19:38:00
ぬこむら @nukomura_c

同じくヘッドコーチを契約満了となった尾形には球団組織の椅子が用意されていたと聞いた しかし球団経営には興味がないと一蹴されたのだという 尾形らしい話だと杉元は思った お前以外の奴の為に働く気はねえよ 本人に聞けばきっとそんな言葉が返ってくるだろう それを思うと自然と笑みが湧いた

2018-09-06 20:37:38
ぬこむら @nukomura_c

球団を去った2人には自由の時が待っていた 球界で出会った2人には初めての事だった シーズンオフになればある程度自由に動く事が出来たとはいえ、常に次のシーズンの事が脳裏にちらつく中での動きにならざるを得なかった そういった枷のない自由の時 杉元は胸が高鳴るのを感じた

2018-09-06 21:24:27
ぬこむら @nukomura_c

「……随分と楽しそうだな、お前」 テーブルに積まれた各種パンフレットの山を前に尾形は呆れた様に言った 「そりゃあ楽しいさ、漸く尾形と気兼ねなく好きな事が出来るんだからな」 満面の笑みで言う杉元にひとつ嘆息した 何時もの調子に杉元は安堵した 少し前に尾形は体調を崩して寝込んでいたのだ

2018-09-07 08:13:06
ぬこむら @nukomura_c

長年積もりに積もった疲れが気の緩みから出たんだろうと尾形自身は言っていた 医者の診察も受けたが大した事はないと言われた、とも 杉元はすぐにでも家に向かおうとしたが必要ないと固辞された 今日の訪問は尾形が快復して初めてのものだった 少し痩せた様には見えるが顔色は悪くない様に思えた

2018-09-07 09:34:05
ぬこむら @nukomura_c

「海外旅行ねえ……」 想像した通り気乗りしないという顔をした尾形の前に幾つかのパンフレットを広げる 「今まで優勝旅行とかにしか行った事がなかったからさ 国内でも行きたいところはあるけど人の目が気になりそうだから アメリカで尾形の思い出巡りをしてもいいし、あちこち飛び回ってもいい」

2018-09-07 12:40:39
ぬこむら @nukomura_c

金と時間は山の様にあるしと笑う杉元をよそに尾形はパンフレットを手にした 表情を変えぬままそれを眺める 杉元は頭を掻いた 「……何というか、いざ暇が出来てみると何をしたらいいか分からなくなるもんだな あれこれ調べたけどどれ一つピンとこなくてさ でも旅行なら尾形と楽しめるなと思って」

2018-09-07 12:46:36
ぬこむら @nukomura_c

「それで、これ」 杉元が新たにパンフレットを取り出す 尾形はそれに視線を落とした 「旅行に飽きたら2人で此処に移住したいなって思ってる」 手にしていたものを置き、差し出されたそれを手にする 「……キュラソー島?」 「カリブ海にある小さな島なんだけど、とても野球が盛んなところでさ」

2018-09-07 12:56:12
ぬこむら @nukomura_c

「落ち着いたら試合を見に行くのもいいし、……もし機会があれば何かしらの形で関われればいいなって」 は? 尾形が声を上げた 「お前、あれだけ野球をやってきておいてまだ携わるつもりなのか」 杉元は笑みを返した 「だって、俺、野球が大好きだから ……現場から離れてみて余計にそう思ったよ」

2018-09-07 13:07:56
ぬこむら @nukomura_c

尾形は杉元にジト目を向けた 「手伝わねえぞ」 「あれ、全身全霊を注いで俺を支えてくれるんだろ?」 「昔の話だ」 はは、と杉元は笑った 「気候も温暖らしいし、のんびりと過ごせばいいさ ……たまに手伝ってくれると嬉しいけど」 尾形はそっぽを向いた 杉元の耳に、考えとく、と言ったのが聞こえた

2018-09-07 13:26:08
ぬこむら @nukomura_c

広がったパンフレットを集めながら杉元は頬を緩めた 「こうして話し合うとより楽しみになるなあ、早く行きたいよ」 それを鞄に仕舞い込む 顔を上げると、尾形が薄く笑みながら杉元を見つめていた 何処か儚げなそれに杉元はどきりと胸が鳴るのを感じた 「……そうだな」 尾形はそう言って目を伏せた

2018-09-07 17:19:39
ぬこむら @nukomura_c

すぐにでも旅行に向けて動けると思っていた杉元の目論見は外れた 名選手であり名指導者である杉元達を各種メディアが放っておかなかった テレビ出演から著書の執筆まで様々な依頼が舞い込んだ 杉元は全て断ろうかと考えたが、焦る事はない、時間はたっぷりあると尾形が言ったので幾つかを受諾した

2018-09-07 17:36:12
ぬこむら @nukomura_c

尾形の方でもコラム執筆の仕事を請け負った様だった そうして2人は別々に動く事が多くなった そんな中でも杉元は旅行に向けての準備を空き時間を縫う様にして進めた いずれ波が落ち着けば仕事を断てるだろう そうなれば出発だ そう思っていた杉元の下に、尾形が倒れ救急搬送されたと一報が入った

2018-09-07 17:49:11
ぬこむら @nukomura_c

医師からの病状説明を杉元は呆然とした心地で聞いた 長い説明の中で頭に残ったのは、発覚したのは大分前の話である事、進行の早い病であり発覚した時点で既に回復の見込みが薄かった事、最後の最後まで杉元には黙っておくつもりだったという事だった 説明が終わっても暫く立ち上がる事が出来なかった

2018-09-07 18:54:00
ぬこむら @nukomura_c

「……あれで死ねたらよかったんだが、そうは甘くなかった様だ」 病室で出迎えた尾形はそう言って力なく笑った ベッドに横たわる身体は明らかに痩せ肌は青褪めていた 「どうして黙ってた」 怒気を孕んだ杉元の声に肩を竦める 「言えば治るなら言っていた この状況じゃ余計な心配を掛けるだけだろ」

2018-09-07 19:10:58
ぬこむら @nukomura_c

ふうと嘆息する その吐息が震えた様に杉元には聞こえた 杉元の胸中で様々な感情が入り乱れる うまく言葉にならないそれに息苦しさを覚え、杉元は思わず胸元を押さえていた 「それでも……それでも、言ってくれてたら……」 絞り出す様に言う 尾形は緩く首を横に振った 「……いいんだよ、もう」

2018-09-07 19:28:07
ぬこむら @nukomura_c

「何がだよ」 吠える様な杉元の声 尾形は充血した杉元の目を見つめた 暫くしてそこから目を逸らすとひとつ嘆息した 「面白い話ではないから言わないでおいた事だが、生まれた家には何一つ正しい事が無かった まるでゴミ溜めの様なところだった ……俺はそこで生きて死ぬんだと思っていたんだ」

2018-09-07 22:03:34
ぬこむら @nukomura_c

尾形の口元に自嘲が滲んだ 「だが偶然に野球に出会い、運良く才能を見出されて、全てが変わった プロになり、エースに君臨し、メジャーにも行き──あの家にいた頃は夢にすら描かなかった、……考えられなかった程に幸せな人生を歩む事が出来た」 尾形は再び杉元を見た 「……お前の事もだ、杉元」

2018-09-07 23:00:17
ぬこむら @nukomura_c

柔らかな笑みが滲む 杉元は表情を揺らした 「ガキの頃、愛情とはどういうものか知らなかった 碌な大人が周りにいなかったからな それを知ったのはお前と付き合う様になってからだ 愛する事も愛される事もお前が教えてくれた 本当に、心から幸せな事だと思ってる」 杉元の頬を零れた涙が伝った

2018-09-07 23:29:06
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