週刊 生存ファンタジー3T 第二週

生存ファンタジーとは、生存を題材にしたファンタジー3ツイート小説です。大体毎日更新し、一週間ごとに区切ってまとめます。あと3つまとめを出したら終焉です。 ※本作は一次創作です。 ※無断転掲載を固くお断りします。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

敗色の山 1 時間の感覚をとうに失ったまま、俺は足を引きずって山道を歩いていた。数千人いた味方は待ち伏せを受けてあっという間に散り散りになった。 最初は、野営地に戻るつもりだった。何時間かすると、敵に追いつかれそうな恐怖だけが俺を駆りたてていた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 01:01:12
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 今や歩くこと自体が目的になっていた。そろそろ日没か。夜通し歩くのはどう考えても馬鹿げている。 一度休む場面を思いつくと、そればかりが頭に浮かび、歩き続けるのが少しずつ難しくなってきた。とうとう足が一歩も動かなくなり、そのままへたりこんだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 01:01:36
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 その時目の前の茂みが揺れ、一人の男が現れた。帯剣してはいるが鎧も盾もない。正体を聞くに俺と同じ部隊だそうだ。水をくれと頼み、相手が応じた瞬間斬り捨てた。俺達は、敵前逃亡しないようあらかじめ水筒を空にさせられていた。この山には水場はない。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 01:01:50
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

飢餓の飽食 1 あたしの両親を騙して死に追いやった奴が目の前にいる。脂汗を浮かべながら、エビとアサリのリゾットを食べている。あたしは露出の高いメイド服で、次の料理……フィレステーキを乗せた盆を持っている。全てあたしが作った。リゾットが完食された。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 20:53:58
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 最後の一粒が口に入って すぐ、空になった皿を下げてフィレステーキを出した。誰もこない修道院の廃墟の床に、空になった皿が投げ捨てられた。あいつがいる席の真下には呪いの魔方陣が描いてある。だからあいつは、際限なく飢え続け、食べ続ける。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 20:59:34
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 え? 呪いを解いたら全財産を渡す? フィレステーキが冷めますわよ。最後の一切れであいつは嘔吐し、自分のゲロを食べながら死んだ。仇は取った。魔方陣を消した瞬間、あたしは目に見えない怪物どもによってたかって食いつくされた。悪魔に魂を売った代償だ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-04 20:59:46
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

鉄球の坂 1 背後でごろごろと音がする。振り向く暇はない。地下迷宮のさなか、下り坂のどん詰まりに我々は追い詰められている。正面は鉄格子が塞いでいた。坂を転がり落ちてくる巨大な鉄球を止める手だてはない。唯一、鉄格子の向こう側には脇に入る扉があった 。  #生存ファンタジー3T

2018-09-05 21:55:42
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 我々の魔法使いは魔力を使い果たし、鉄格子には鍵穴も細工もない。道中で手に入れた巻物に、鉄格子を開ける呪文を記されてあるのは知っていた。中身の神聖語を読めるのは僧侶の私だけ。問題は、神話が延々と続き肝心の呪文にいきつかないことだ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-05 21:56:24
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 解読を後回しにしたツケがきた。ようやく私は本命を掘り当てた。即ち、神に全てを委ねよ。それを唱えるや否や、我々の肉体は失われ、魂だけが鉄格子をすり抜けた。鉄球は鉄格子に虚しく突き当たった。……ところで、どうすれば元に戻れるのだろう。 #生存ファンタジー3T

2018-09-05 21:56:52
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

ぼろ布の中身 1 正面に据えた小皿に小銭が一枚投げ入れられた。俺は黙って頭を下げた。小皿には、数枚の小銭の他、小石だの小骨だのが入っている。なにが与えられようと頭を下げ続けた。それが俺に許されたただ一つの身動きだった。あとは路面を眺めるだけだ。  #生存ファンタジー3T

2018-09-06 22:51:56
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 月日や曜日はおろか、自分の名前さえどうでも良くなりかけていた。そんな俺が日々願ってやまないのは、皿の持ち主に巡り会うことだ。この皿は、数年前の火事で行方不明になった娘のお気に入りなのだ。 火事は俺から全てを奪ったかに思えた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-06 22:53:32
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 しかし、娘は生きていればそろそろ年頃だ。一筋の希望にすがってなにが悪い。……と、華奢で軽やかな靴の爪先が現れた。思わず顔を上げると、そこに奇跡が! その毛布、父さんの寝室にあったねという娘の顔は涙に濡れていた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-06 22:53:42
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

制裁の後日譚 1 安い酒に安い喧騒。俺は、台座に固定したグラスを磨き終え、布巾を流しの脇に置いた。利き腕の指が全てなくなっているので、こうした作業では台座が必要不可欠だった。裏切り者を見逃した元盗賊は、こうやって湿気た立ち飲み屋を開けるだけでも運が良い。 #生存ファンタジー3T

2018-09-07 21:36:43
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 最後の客が、カウンターに小銭を投げるように置いて去った。思わず利き手を伸ばしかけ、改めてもう一方の手で拾った。店をたたみ始めようとした矢先、一人の青年が現れた。俺を探していたらしい。 良く聞くと、探していたのは正確には俺じゃなかった。 #生存ファンタジー3T

2018-09-07 21:37:02
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 俺の頭の中にある盗賊組合の情報だった。恋人が誘拐されたとさ。報酬もない。いくらしがない酒場だからって、素面なのかと聞き返した。だが、俺が見逃した女がこいつの恋人の母親とあっちゃ、一人ではいかせられないな。 #生存ファンタジー3T

2018-09-07 21:37:17
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

木陰のサイコロ 1 真夏を過ぎても日中は暑い。木陰こそ憩いの場だ。街中ということもあり、暑苦しい鎧を身につけている者はいない。と同時に、丸腰の者もいない。私もまた、ベルトに吊るした短剣の鞘に手を当てながらうっすらと汗をかいていた。野卑な男どもの視線は無視。 #生存ファンタジー3T

2018-09-08 23:50:51
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 今注目すべきは、真向かいの男が振った三つの立方体だ。それは深皿の中で転がり、まさに止まろうとしている。冒険者達の間でちょっとした流行になっていた。あ、止まった。倍付けで私の負け。 すかさず傍らのコップに入ったワインを深皿にぶちまけた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-08 23:51:25
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 二つのサイコロが浮かび、一つは沈んだ。重り入りサイコロのイカサマだ。見物人の男どもが一斉に私に掴みかかった。イカサマ師の手下だからだ。私は息を呑んだ。そして男どもは全員倒れた。ワインに仕込んだ毒ガスで一網打尽だ。賭博は勝つべくして勝つ。 #生存ファンタジー3T

2018-09-08 23:51:37
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

書物の森 1 年に一度、かつて古代図書館があった場所に魔法使いや錬金術師達がこぞって集まる。自分が書いた本を一冊持ち寄り、互いに交換して論評し合う。 そんな会合で殺人事件が起きた。魔法使いが再現映像を出したが、数十人の術者からばらばらの映像が現れた。 #生存ファンタジー3T

2018-09-09 00:17:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

2 錬金術師達が現場検証を行い、凶器は刃物と魔法と毒薬の全てと断定された。賢者達が考察し、犯人は会合の参加者でもあり欠席者でもあるとされた。 一同が首を捻る内に、全員が体の変調を実感した。 #生存ファンタジー3T

2018-09-09 00:19:32
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

3 そして、気づいた時には皆が活字になって一冊の本に収まっていた。 年に一度の会合は、本の中で一同がそのつもりになっていただけだ。古代図書館は、係わった人々を無理矢理一冊の本にまとめて気紛れな筋を与える呪いの場所であった。 #生存ファンタジー3T

2018-09-09 00:19:42