将太の同人

かにをくうひと @Scatter__

「ダメだ…！頒布まであと1週間…どれだけ頑張ってもあの神絵師とまで称される画力には到底追い付けない…！それに題材も同じで向こうも王道のイチャラブセックスフルカラー本！どうやったって勝ち目は無いよ…！せめて親方の言葉の意味が分かれば…！」 「将太君…！」(何か…何か僕にできる事は…！

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「あ……！　将太君！見てよこれ！」 「えっ？一体何を……　　あ……！　　マシュマロに…………ファンレターが来てる…………！？」 「やったじゃない将太君！えーとなになに……『前回の本とても良かったです。特に7ページの兜合わせからの一連のシーンが……」

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「うん…！やっぱり嬉しいね…！こうやって読者の生の声を…。…あ…！…そうか…そういう事だったのか…！」 「将太君？」 (そうか…！親方に言われた『同人誌の意味』…！こんな簡単な事にも気付かないなんて…僕は馬鹿だ…！でも…！) 「行ける…これなら行けるかもしれないよシンコ君！」

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「それではこれより…新人作家コンクール第3回戦を始めます！執筆開始！」 「ふん…関口将太…！何をしてきたか知らんが俺の画力の前には無駄な事…ここで息の根を止めてやるぜ！」 「見ろよあの執筆速度！手元がまるで見えないぞ！」「ペン捌きにまるで迷いがない！それに恐ろしい精密さだ！」

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「おかしい……！あんな速度でペン入れをすれば強弱はおろかまともに下書きをなぞることもできないはず……！」 「……いや……あるいは可能かもしれんぞ」 「親方！？そいつは一体……！」 「あの速度でも強弱の付いた線が引ける方法……それは……『クリスタ』だ！」

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「クリスタ！？」 「クリスタって……あのClipstudio！？」 「でも……それならみんな同じものを使ってますよ！それが何故……」 「うむ……恐らくやつはこの試合のために……『オリジナルブラシ』を作成したのだ……！」 「お……オリジナルブラシだってぇ……！？」

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「うむ……恐らくやつは自分の描画速度に合わせて自動で強弱が付くように微調整を繰り返し……高速の執筆にも耐え得るまさに理想のブラシツールを創り出したのだろう」 「そうか……！それならあの執筆速度でも線画の繊細さは失われない……！」 「ああ…！余った時間で着色にまで移れるってわけだ！」

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「だが……それだけではない」 「ええっ！？」 「あのキャンバスをよく見てみるのだ」 「キャンバス……？何の変哲もない普通のキャンバスじゃ……」 「あ…………ああ…………！」 「ま……まさか……！」 「キャンバスに……下書きレイヤーがない！！」

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「下書き無しでの一発書き…全盛期には月産ページ数が桁4つを越えたとの逸話がある永井豪や全く締め切りに間に合わずごめんなさいペーパーを出す作家が使ったとされる技術だ…しかしそれをこのコンクール本番で用いるとは…」 「自分の腕の速さと精密さに絶対の自信がある証拠…なんて作家なんだ…！」

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「そういえば……普段の配信でも下書きどころかほとんどラフも描いてなかったぞ！」 「やっぱりあんたが日本一の神絵師だぜーっ！」 「そんな本を相手に関口将太はそのまんま普通の本を出すつもりなのか……！？」 「しょ……将太君……！　…………えっ……！？」 「げぇっ！？」 「あれは！？」

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「まだ下書き段階…！それに…何だぁあの絵は！？あんなの見たことないぞ！！」 「いや……知ってるぞ！あれは関口将太がpixivで大量に投稿してるメカクレふたなりガングロボテ腹アマゾネス化の絵だ！！」 「げぇーっ！気持ち悪い！」 「あんなもんが本当に読めんのかよ！？」 「しょ…将太君…！！」

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(コンクールの場で自分の趣味を全開に押し出してくるとは…血迷ったか坊ンズ…！？俺は好きだが審査員達は普通の性癖なんだぜ…！そいつらに評価してもらわなきゃ万に一つも勝ちの目はねえんだ！) 「お…親方…！」 「……うむ……」 (これでいい…これでいいんだ！もしも僕の考えが正しければ……！)

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「そこまで！制限時間終了です！これより審査に移ります！」 「ふん……どうやらあんまりにも希望が無いんでヤケになったみてえだなァ関口将太……今からでも鍵垢にこもってクローズドサークルでフォロワー様にチヤホヤされてりゃいいぜ！ギャハハハハ！！」 「…………」 「しょ……将太君……！」

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「ではまず……こちらのイチャラブセックスフルカラー本から……」 「うぉ……！」 「これは……！」 「うむ……これはシコい！！」 「うむ……この短期間で描いたとは思えない素晴らしい絵！女体の柔らかさのみならず肉の下の骨までも意識させる熟練の手腕！そして質感描写も素晴らしい！」

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「そしてストーリーも凄い！キャラクターへの理解の掘り下げが深く……原作の空白期間を利用して読者につい『もしかしたらあったかも』と思わせるような見事な作品だ！」 「うむ……！数年後には原作の描写だったか二次創作の描写だったか思い出せなくなるような……そんな素晴らしい再現度だ！！」

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「すげえぞあの本は！！同人誌の見事なお手本を見させてもらったぜ！！」 「まさかこんな本が読めるなんて……すげえ……本当に何てすげえ大会になっちまったんだ！！」 (読んでいてまるで原作のOVA特典を見ているようだった……！勝てるのか……！？僕はこんな本に……！)

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「それでは次に……関口将太君の審査に移ります！」 「……う……うむ……これは……」 「いやはや…何とも…」 「し…審査員が表紙を見ただけで固まっちまった…！」 「即売会なら素通りされること確実だ！！」 「うわぁぁぁ！今度こそダメだ！将太くーーん！！」 「ではまず……私が頂きましょうか」

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「か……会長……！？」 「会長自らが……！？」 「うむ…………。…………これは…………！！ これは……エロい！！！！」 「なっ……何だってぇ！？」 「会長があのメカクレふたなりガングロボテ腹アマゾネス本を！？」 「ど……どれ……私達も……」 「え……ええ……」 「…………これは……！」

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「最初は滅茶苦茶に見えるが…原作への愛に溢れた素晴らしい同人誌だ！」 「台詞ひとつひとつにふうわり柔らかいキャラクターへの慈しみが感じられる！」 「メカクレふたなりガングロボテ腹アマゾネスなどというネタを扱っておきながら…まるで春の草原を吹き抜ける風のような清々しい読了感だ！！」

かにをくうひと @Scatter__

「しかし何故だ！？どうしてこんな尖ったネタでこんなに読みやすいんだ！？」 「その秘密は……これです！」 「これは……原作の単行本！？」 「この原作と僕の本を読み比べてみてください！」 「ふむ……！？」 「将太のやつ……考えたな」 「親方……！？」 「一体どういうことなんですか！？」

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「うーむ……いくら読んでも原作は原作……君の描いたようなメカクレふたなりガングロボテ腹アマゾネスなんて要素はどこにも無いが……」 「いえ！見るのは細部じゃないんです！むしろ……その原作のことをイメージするくらいでいいんです！」 「細部を……見ない！？」 「一体どういうことだ！？」

かにをくうひと @Scatter__

「そうか……そういうことか！」 「小政さん！？何か分かったんですか！？」 「ああ！そうだな……原作の2話と6話と7話のあらすじを思い出してみな！そうすれば分かりやすいと思うぜ！」 「2話と6話と7話……？」 「うーん……2話と6話と7話といえば水着回・温泉回・新キャラ登場回……」

かにをくうひと @Scatter__

「細部を見ない……。……あ……ああ……！」 「そうか！将太のやつ……！」 「……『プロット』だ！！ 将太の本は原作でよく使われるプロットを模倣して描かれてるんだ！！」 「プロットだってぇ！？」 「一体どういうことなんだ！？」

かにをくうひと @Scatter__

「起承転結や序破急と呼ばれるように物語の作り方には基本的な 『型』が存在するが……そこには作者によって様々な偏り……作者の『色』が出てくるんだ！将太の本は原作のその『色』を掴んだ！原作でよくある話のパターンを踏襲してプロットを組み立てたんだ！！」

かにをくうひと @Scatter__

「そうか…！ネタは尖っていても話の流れがまるで原作そっくりだったから…口内に引っかかることのない爽やかなのどごしになっているんだ！！」 「ええ…！おかげで私もうっかりメカクレふたなりガングロボテ腹アマゾネスにハマってしまいそうですよ！」 「ええ！私も帰ったらpixivで検索します！」