【光を届ける】福間健二 #k2fact208

福間健二 @acasaazul

生きる。それがそんなに得意ではない。多くの人が、そうで、十一月が三十日しかないことにため息をつき、いまでもブルース、新曲が出て、事件の以前と以後、闇の区切り方はいつも最初からなのだ。バス停に並ぶ人たち、東区でも第三小学校前でもまだ合服の人がいる。（光を届ける１）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

ちょっと寒いけど、走ってきた体だ。何も見ていない目が壊している箱類、ガタガタ音がする。冷えないうちに一度パッと消えて、次にあらわれるときは破壊力よりも観察力で生きていく。天才でも怪物でもないのだから、まず人に挨拶する。流れ弾にあたらなくてよかったね。（光を届ける２）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

三小前の次は、第二住宅。バスは追い抜いた人を待ち、女性運転手はほがらかだ。環境のせいにできること、できないことの区別をむしろ曖昧にして。帽子をかぶりなおす。最後の仕事、一度だけじゃないのをおかしいと言わせない八十七歳の老人の実話を思い出しながら。（光を届ける３）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

創価学会の施設。ほんとうは平和会館だが、バス停の名前は文化会館。その先で南武線の踏み切りをわたる。そこに、エンド・オブ・ザ・ワールド。怪物的に歌う十三歳。童話を卒業して八十七歳の運ぶ男の実話からもこぼれたジェニーが歩いていたら、きっと薄着だろう。（光を届ける４）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

ジェニー、もう十二月。風がつめたい。その家族、機能不全でもジョークを言って抱きあう人たち。よいことがおこらない。次々に病気になる。明るい曲の苦手なジェニーは病院では歌わないが、バスは立川病院に。一時期声の出なかったスミ子さんが入院していたところだ。（光を届ける５）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

声のない日々。暗がりのなかにじっとしている日々。寝ているのか起きているのかわからなくなる。肩、腕のつけね、それからいろんなところが痛いけど、ふと十三歳の少女と入れかわった。痛いところ、茂みをわたる風に吹かれて声がよみがえる。降りていく人に言う。お大事に。（光を届ける６）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

立川病院。新しくなり、構内にバスが入るようになった。きれいな食堂もできただろう。乗ってきた人たちが話している。想像だが、そのなかに運ぶ男のようなヤバイ仕事をしてきた人はいない。ジェニーのような歌の天才もいない。次のたましんRISURUホールで降りることにする。（光を届ける７）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

たましんRISURUホール。立川市民会館がいまはそう呼ばれている。この停留所を使うのは近くに新中華という食堂があるから。スミ子さんの息子は言う。生きる。簡単にするなら、新中華の日替わり定食からはじめる。普通においしい中華。錦町、三丁目でも昔の話は注意してする。（光を届ける８）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

電信柱にまだ楽天地という文字がある錦町一丁目十五番地。いまそこには行かないが、あの日、自転車で国分寺から来て、怖い映画をひとりで見て、彼は何を注文したのだろう。闇の区切り方、またここから。椅子の上に忘れた彼の帽子を持って新中華の奥さんが追いかけていく。（光を届ける９）#k2fact208

福間健二 @acasaazul

スミ子さん、この一月で亡くなって五年になる。いいですよ。あまり人に感謝することなく、そう言って人に従った。たぶん人よりも花が好きだった。息子も薄情気味でよくお礼を言いそこなう。でもきょうの彼の消え方は上出来だ。光を届ける。闇のなかにひとりでいる人に。（光を届ける10）#k2fact208