ストレイトロード:ルート140(38周目)
- Rista_Bakeya
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「これは?」「いませんね」「そっちは」「ぶれています」旅先で集めた写真をまとめて出力し、不審者の姿を探した。不鮮明なものを除くとわずかしか残らなかった。「あら可愛い」藍は母親にも手伝わせようとしていたが、そちらはかなり前から作業を放棄していた。どれも娘の旅行先の写真には違いない。
2018-11-08 18:45:49虫歯を隠し続けた代償は子供なりに大きかったらしい。歯科医とスタッフの長い指導を受け、診察室から出てきた藍は、強がる表情が意味を成さないほど青ざめていた。「歯磨きは」「していますよ」「最初に習ったやり方は覚えてる?」私が何も知らないと言いたそうだ。歯磨きにも時代の変化があったのか。
2018-11-09 19:22:24140文字で描く練習、1876。歯磨き。 11/8(いい歯)の重要性は、欠けたときに解る。 (なお今日は11/9。)
2018-11-09 19:22:25「まさにお姫様だよ」藍の幼少期について彼女の父親はこう語る。「妻は自分が育った時のように、娘を世界の中心として扱い、欲しいものは何でも与えた」物も希望も減った時代に敢えてそうしたらしい。「劣等感と知らない世界は少ない方がいい、だそうだ」窓辺に立つ少女の背が女王を目指す姫に見えた。
2018-11-10 19:01:32「どうしてです。藍の今後を考えたら必要なのに」「何故そんな理屈になる、君の説明は明らかにおかしい」娘の教育方針で対立する夫婦は珍しくない。だが今回彼らが譲れない理由は、第三者の私はもちろん当の娘にもよく分からないらしい。「何の習い事か知らないけど、それくらいわたしに決めさせてよ」
2018-11-11 19:12:22緊張感を損なう牧歌的なメロディの発信源は藍の携帯端末だった。天候の急変をどこかで知って心配する母親の様子が目に浮かぶ。だが藍は決して余所見しないし、その後ろ姿はどこか頼もしくも見えた。親の横槍程度で平常心を保てなければ、見上げる程大きな積乱雲を作り出す魔女にはなれなかっただろう。
2018-11-12 18:48:58瓦礫の山を片付ける仕事は今や最も人口の多い職業かもしれない。暴風が去った翌朝には、いつ被害を聞きつけたか、多くの働き手が町の入口に集った。「他人事だと思ってたらできないわよね」藍は拾い上げた哺乳瓶を拭きながら、倒壊した壁を運び出す人々を遠く眺める。「被災者も家族も支えようなんて」
2018-11-13 18:49:29壊れた家で見つかった哺乳瓶は避難所にいた持ち主に返された。相当なお気に入りだったのか、念入りな消毒さえ待ちきれずに泣いている。その両親はまさかの届け物に驚くばかり。愛娘の命を守るので精一杯、必要な道具を持ち出す暇もなかった、と聞いて藍が端末を取り出した。「他には何が足りてない?」
2018-11-14 18:44:37ようやく老婆が話し始めたが、中身はただの世間話だった。聞き方が悪かったのか。再質問は藍に阻止された。「とりあえずしゃべらせておいて」証言の内容ではなく、ここで話を聞いたという事実が重要らしい。脈絡のない話は何故か説教に移った。私は娘を貰いたいと頼みに来た男だと思われているようだ。
2018-11-15 19:03:59「今までよく無事でしたね」『事件が何もなかったわけじゃないの』無防備な寝息が聞こえる方を向いても衝立しか見えない。藍が本当に熟睡中なら、携帯端末が発する母親の声も聞いていないだろう。『家の使用人が一緒だからって、揉め事を起こしては後のことを任せてて』娘を守る手段が裏目に出たのか。
2018-11-16 18:53:16140文字で描く練習、1883。無防備。 この騒がしい世界で、娘に一人で冒険させるなんてできるわけがない。
2018-11-16 18:53:16「好きなものをどうぞ」葡萄畑の主人が提示した謝礼は棚に並ぶワインだった。ただし藍の目線の高さには安物しかない。「じゃあ、これがいい」藍が指した上段のラベルを見て主人の顔がひきつった。子供に銘柄は判るまいと高を括っていたか。「パパの書斎で見たことあるの」帰る道中で種明かしを聞けた。
2018-11-17 18:41:29子供お断りの店に藍が潜入を試みた件は警察の耳に入り、そこから自宅に電話連絡が行った。しかし彼女の親がどう応答したのか、警官の声が荒くなった。「阻止したからいいってものじゃないでしょう!」実家が大抵の無茶を黙認している分、他の大人が余計な苦労を負う。どこまでが魔女の狙い通りなのか。
2018-11-18 18:57:00「病み上がりの人を無理に働かせるものじゃない」「わかってます」薄く開いたドアから父娘の会話が聞こえてくる。私自身はだいぶ回復してきたように感じていたが、藍たちにはそう見えなかったらしい。「いつも弱ってる風に見えるけど、本当にダメな状態とは区別つくから」その一言は聞きたくなかった。
2018-11-19 18:58:44