ギガベース日誌 過去編「And Then There Were None」

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再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「感謝します。不知火はまだ未熟者ですら無い故、これから何かと御迷惑をおかけしてしまうかもしれません。御指導御鞭撻、よろしくです」 「……不知火。不知火か」 男は物憂げに、不知火の瞳を見つめた。 夜の天蓋から星を奪ったような、暗い瞳だった。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:38:49
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「恐らく、私から君に教えられることは殆ど無い」 「何故ですか?」 「私には、行かなければいけない戦場がある。恐らくは、そこで死ぬ」 自分が死ぬという話をしているにも関わらず、ジョシュアは冷静だった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:09:18
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「だから、これだけ言っておく」 ジョシュアはほんの少しだけ不知火との距離を詰め、返答に困っている不知火を思いやるような声色で、言葉を続けた。 「いつかきっと、君の人生を、戦いを、記憶を全て、貪ろうとする者達が現れる」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:11:15
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「その時になって、それを拒否するという選択肢を持てるようになって欲しい。君自身が考えて判断できるようになっていてほしい。私には……それが出来なかった」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:13:02
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

ジョシュアの言う通り、彼がその後不知火の前に現れる事は無かった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:13:58

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

新たな被検体は研究者達に潤沢なデータと輝ける成長性を見せ続け、歓喜させた。 わかりやすく言えば、彼女はリンクスとしての適性が極めて高かった。求まれるがままに技術を吸収し続けた不知火に対し、アスピナが専用の機体を与えるまで、長い時間はかからなかった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:18:01
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

過去のリンクスを模倣した戦闘プログラムを相手取り始めた頃、不知火に監視役がついた。 「主任」と「キャロル」と名乗るそれは、アスピナで開発された2基のAI。後で聞けば、戦いを楽しんでいるきらいが見受けられた不知火を、アスピナが望む方向に調整する為だったという。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:23:00
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「成果を上げるのは楽しい事でしょう。それは我々とて理解できます。ただ、貴女は自分から戦いを求めてはいけない。戦いとは常に義務であり、当然の義務のまま達成されてしかるべき物」 「……どうして?」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:27:52
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「それは、危険だからだ。戦いを手段でなく目的にしてしまう事は避けるべきだ。本来戦いとは避けて然るべき最後の手段。それがどうしても必要な時にだけ、私達や君のような存在が必要とされる。それは須らく重要な局面であるが故に、人は君に確実な達成を求める」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:31:47
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「わかった!……もう、わかったから」 AMSコネクタを通じて話しかけてくる2つの知性の語る内容に、アスピナの職員達のような情緒は無かった。特に褒められる事に執着していたわけではない不知火だったが、自身の態度にまで指摘をしてくる彼等の言葉は、決して楽しい物ではなかった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:35:18
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1日の殆どをネクストのコックピットブロックを再現した性能検証室で過ごし、就寝前に与えられた30分をAIとの雑談で消費する。繰り返される実験に浸りながら、不知火はその技量を天井知らずに上げていく。 そんな日々が、半年ほど続いた頃だった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:40:02
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「不知火」 「……主任?何です?」 ある日の深夜。 不知火は、配属されてから常にAMSコネクタを介して実験機器と接続されたまま過ごしていた。補給や排泄といった諸々の手間はアスピナの職員が行っている為に部屋を出る必要は無く、実験室は不知火の専用部屋のようなものだった。 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:49:55
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

しかし、それは24時間常にアスピナに観察されている事を意味している。自由時間として設定された時以外に、例えば今のような何でもない深夜に、主任が話しかけてくる事は一度も無く、恐らくは許可されていない行為だった。 「緊急事態ですか?」 「いや、違う」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:52:17
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「……自由時間外の会話は許可されていましたか?」 「いや、これは私の……私のみの判断による会話だ。キャロルやアスピナの職員には隠している。君に、会わせたい人間がいる」 「後で責任を問われるのは主任だけではないのでは」 #ギガベース日誌

2018-12-27 00:56:02
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「その可能性を視野に入れて尚、価値のあるものだと判断している。是非とも、どうかな?」 不知火はしばらく考えた。あとで露見した際の恐怖もあったが、それよりも主任が会わせたいというその人間への興味が強かった。 「……その人物が、この部屋まで来るのですか?」 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:01:10
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「いや。君も彼も、機器と脳を接続されている為、お互いの部屋から出る事が出来ない。シミュレーターを開くから、そこで会ってもらう」 「そいつも被検体だと?」 「そうだ。ひとつ、オーソドックスなマッチをしてみて欲しい」 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:04:55
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

主任に導かれるまま、不知火はシミュレータにアクセス。普段は戦闘プログラム名が記される対戦相手の名称欄に、「3978」という文字列が出現した。 戦闘が始まる。どうせ今までのプログラム達のように、特に苦労する事も無く御せるだろう。 それと直面するまでは、そう思っていた。 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:12:02
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「……こんな。こんな事」 5分後。マッチは終了する。 結果は、僅差で不知火の勝利。だが、不知火は己が抱いていた不敵の自身を捨てつつあった。 死闘と言って差し支えない、お互いに明確な殺意を表出させなければできない試合。一手違えていれば敗北していた。 「大丈夫か、不知火」 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:19:51
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「表示バイタルは誤魔化しているが、相当興奮しているぞ」 「興……奮……」 当たり前だった。戦闘を楽しんでいると指摘されて以降、これほど楽しいと自覚しながら行えた戦いは無かった。 「彼と繋ぐぞ」 「お願い!今すぐ……早く!」 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:23:34
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

知りたかった。自身に並び立つほどの力を持つそれが、何を持っているのか。 「あぁ、悔しいな。主任が言っていた通りだ。強いんだね、貴女。もう一度する?」 「んなっ……」 不知火は耳を疑った。 少し若く感じられるが、間違いない。聞こえてきた声の主を、不知火は知っている。 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:29:18
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「ジョシュアオブライエン……戻っていたのですか?どうして……」 「うん?オブライエンってなんだろう。主任、彼女大丈夫かい?」 「少し事情が複雑なんだ。後で彼女には説明しておく」 「そう。不知火、だっけ?よろしくね。僕は……3978番とか、ジョシュアとか呼ばれてる」 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:37:58
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「といっても、ジョシュアって呼ぶのはサウードぐらいだけど。凄い強い人と戦わせてもらえるって聞いたから来たけど、本当に強かった。もう一回やろうよ」 「あ……う、うん。是非とも」 不知火の困惑は、もう一度という彼の言葉が持つ強烈に甘美な芳香に潰された。 #ギガベース日誌

2018-12-27 01:40:41

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「あぁ、まただ。また負けた。主任、これで何回目だ?」 3978番と不知火。主任の誘導により0と1の大海で出逢ってからというもの、2人は毎晩のようにシミュレータでの戦闘を行っていた。 そして、不知火は初めて出来た友人とも言える彼について、多くを知り、驚愕していた。 #ギガベース日誌

2018-12-28 00:21:54
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